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超!巨大震災後のコンビニ像



あらすじ


 2035年±5年の『その日』に南海トラフ地震が発生。 
連動して富士山が噴火、更に首都圏直下型地震が発生。 
『その日』が日本列島を襲いました。 
 2011年3月11日深夜、東日本大地震の長期震動が続くタワーオフィス中層階で、東北地区への商品供給網修復と、先々の対策を練るコンビニマンがいた。 
 2035年±5年の7月6日、富士山山麓で停電研修を受講するコンビニマンがいた。 
 2035年±5年の「その日」から数ヶ月後、災害地と後方支援地を繋ぐバッファー・センターの起動に向けて、若き仲間達が結集していた。 
 新しく動き始める多拠点小規模店舗向けの商品供給網が起動し、明日への希望を繋ぎ始めていた。

【Bing検索】ある地球科学者の啓蒙・教育活動

138億年前の宇宙誕生から2035年±5年想定の南海トラフ地震に至る未知の知の宝庫

こんにちは、これはBingです。😊

南海トラフ地震、富士山噴火、首都圏直下地震の連動の可能性については、京都大学名誉教授の鎌田浩毅先生が専門的に研究されています。

鎌田先生によると、南海トラフ地震は2035年を中央値としてプラスマイナス5年の間に発生すると予測されています。 この地震は東日本大震災よりもはるかに大きな被害をもたらし、日本の人口の約半分が被災すると見込まれています。

また、南海トラフ地震によって地下のマグマが満杯になっている富士山が噴火する可能性が高いと言われています。 富士山の噴火は首都圏や東海地域に大きな影響を与え、日本の政治経済の機能を停止させる恐れがあります。

さらに、南海トラフ地震と富士山噴火の連動は、首都圏直下地震の発生確率を高めると考えられています。¹ 首都圏直下地震は、東京都心部やその周辺の地域で起こる大規模な地震で、多くの人命や財産に甚大な被害を及ぼすと予想されています。

鎌田先生は、これらの自然災害に備えるためには、地震や噴火が起きる仕組みや被害の予測を事前に学び、自分の命は自分で守るという意識を持つことが重要だと説いています。

以上、Bingで調べた情報をお伝えしました。ご参考になれば幸いです。😊

Bingより

2011年1月25日 雪の古都

降り積もる雪は、この先の道のりの長さを予感させていた

 コンビニエンスストアA社品揃え・商品開発部長のシゲルは、食品スーパーB社の専務取締役と会食をしていた。 この場を調整した、食品総合卸C社の常務と部長も同席していた。 中庭には、日本海大雪の影響により、雪が降り積もり始めていた。

 昭和生まれの年寄りが集まって、酒席で仕事の話しをするというのも、我々の時代までかなと、ふとシゲルは思った。

 シゲルは、社長から次世代の品揃えづくりを問われていた。 カウンターフード、日配・生鮮おかず、冷凍おかずと、パソコンの中で絵を描いた。 実際にお店で展開を始めてみると、いくつかの大きな課題が拡大展開を阻んでいた。 想定内とは言え、乗り越えるには、既存の取引先だけでは難しいものがあった。 特に、日配・生鮮おかずを、小規模多拠点へ供給できる事業者が見つかっていなかった。

「シゲル部長のおっしゃる品揃えは、食品スーパーとなんら変わらないように思う。 容量と価格以外は、同じものになるように思うが。」とB専務は
切り出した。

「お互いが補完し共存できるやり方を、時間を掛けて検討をしたいということを提案されていると思いますが。」とC常務が補足してくれた。

「食品スーパーの商品と、コンビニ商品が混じり合えるとは思えない。」とB専務は続けた。

 シゲルは、話題を変えて、冷凍食品をオリジナル化した、その目的を聞いてみた。 Bチェーン程の規模になれば、大手メーカー商品の仕入れ品揃えで、お客様の要望(ニーズ)に十分応えられるのではないか。 それとも別の狙いがあるのか気になっていたテーマでもあった。

「お客様さまの要望に応えるメニュー開発で、期待される品揃えを実現するという一面もありますが、メーカー冷凍食品を売るための、販促原資づくりの面もあります。 冷凍食品はまだまだ伸び盛りですから。」と口が滑ったような顔をしてB専務が話してくれた。

「車が来ました。」と案内があった。

「次は春にでも開催しましょう。」とC常務の部下が繋げてくれた。

お店の外には、くるぶしが埋まる位まで、雪が積もっていた。

「お忙しい中、ありがとうございました。」

「では、また。」とB専務。

メンバーを見送ったシゲルは、帰りの車の中で、仲間づくりの難しさを感じながら、どう進めようかと頭を巡らせていた。

携帯メールに、配送遅れ、次便配送への変更、納品できずなどのメッセージが入って来た。

「こりゃ、暫く混乱が続くな。 明日が誕生日とか、新年会とか、いろいろご迷惑をお掛けすることになるな。」

2011年3月11日 暗闇の事務所

あの日、多くの町の灯が奪われた

 東日本大震災の長期振動が続くタワーオフィス内部の非常階段を、低層階から中層階に上りながら、シゲルは、先ほど社長から特命を受けた内容を思い返していた。

「いいかシゲー。 まずは、東北地区の商品供給網の再開を、迅速に進める事。 東日本大震災と原発事故が重なるという未曾有の災害現場だが、1日も早い営業再開に向けてあらゆる手を尽くす事。

 もう一つ、この先にも、今回を上回る大災害が起きる事を想定して、『途切れの無い全国商品供給網』を実現する事。 全国どこで災害が起きても、飲料水と主食(おむすび、菓子パン、麺類)は、品切れを起こさない仕組みづくりに挑戦すること。それが、フランチャイズチェーン・コンビニエンスストアにお客様が期待していることと肝に銘じて進める事。

 サプライチェーンという言葉は敢えて使わない。 サプライチェーンという言葉を唱えたり書く事で、全て解決したように思い込む組織風土を避ける為だ。 分かるな。」

 シゲルは、低層階の社長室から中層階の事務所へ、非常灯で照らされた階段を上っていた。 上層階からビル外へ避難するタワーオフィス利用者の混雑を避けながら、階段の踊り場で一呼吸おいていた。 

 悲壮感と使命感がごちゃ混ぜになりながら「お客様の期待に応える」とつぶやきながら、残りの階段を上り始めた。

2011年3月12日 一夜の終わりに

もうすぐ長い一夜が終わり 超!長い20数年が始まる

 真っ暗なタワーオフィスは、前日14時46分頃に発生した本震から続く余震の為か、まるで大型客船に乗っているかのように、天井と壁が軋みながら揺れ続けていた。 

 東北地区の仕事仲間より、状況報告が入り始めた、

「F工場、米サイロが倒壊、炊飯設備損傷。」

「K工場、冷凍冷蔵設備損傷。」

「J工場、従業員家族被災。」

「Dセンター、配送車両多数流失。」

「M工場、全損、全流失」

「流失店舗有り」

「店舗従業員の被災有り」

 シゲルは、東北地区から入ってくる商品供給網の被災状況を整理しながら、東北地区図と全国地図を見続けていた。

「東北地区では、今現在、商品供給の仕組みが全て止まっている。 首都圏地区は停電が続いている。 一方で、他の地区は動いている。
とにかく東北地区へどこから商品を供給するかだ。 

水と主食を、誰が、迅速に、どこから、どれだけ、どうやって、供給するかだ。 ・・・」シゲルは暗い事務所の闇に向かってつぶやいた。

 静まりかえる事務所に、このつぶやきが響いたのか、床にダンボールを敷いて仮眠中の仲間が寝返りを打った。

 停電が続く中、携帯電話メールが唯一の外部情報の収集先となっていた。

 3GのFOMAが貸与されていたが、4Gスマートフォンの貸与は2012年以降、まして6Gプラス(全世界どこでも通信できる上、相手や中継基地から電気エネルギーを貰える)は、まだまだ先の先の話であった。

 業務メールの隙間を縫うように、北関東の海沿いにすむ友人のSNSの中に、
 「テレビもネットも、東北の状況を伝え続けているが、この町も大きく被災していることは、どこも伝えてくれない。 アパートの一室に閉じ込められたままの自分の存在をどう伝えれば・・・」

 インターネット環境を自前で構築している仕事仲間のSNSの中に、 
「海外のネットニュースには、大津波に飲み込まれた町、原発事故、石油コンビナート炎上という映像が強調されて流されている。」と書き込まれていた。 
 添付画像を開封するだけの充電余力はもう残っていなかった。

 東北地区の仕事仲間から状況報告メールが続いた、

「菓子パンメーカーの配送車が、被災地区店舗へ納品を準備中。」
という情報が来た。 

 準備出来たのは、どうやら全て自前の製造工場群と店舗配送車群と受発注システムを臨機応変に結びつけているようです。 一部は関西地区、中部地区、北陸地区から玉突きで関東地区へ送っているようです。 帰りに燃料や原材料も運ぶようです。」というコメントが追加されていた。

 「これかも・・・、途切れの無い全国商品供給網づくりのヒントがありそうだ。 まずは関西・中部・北陸の各地区からの玉突き供給も検討してみるか。 それも関東地区の停電状況次第だな。」 

 ド頭を冷やす為に、西側会議室へ移動し、窓越しに広がる町と遠くの富士山を見にいった。 そこには、朝陽に照らされた赤い富士山が見えた。 まるで、昨日から今日にかけて何事もなかったかのように。 

「多拠点小規模小売網は、固定された結節点の脆さがひとつの原因となって、商品供給を停止している。 その対策は、『途切れの無い商品供給網の設計』。 それを支える産地から製造業への仲間づくり。 流通卸売り業の仲間づくり。 他の小売りの仲間、同業コンビニ、食品スーパー・・・。 超!大災害時に力を合わせられる仲間づくり。 仲間づくりから開始だな。」

 携帯メールに、都内勤務の仲間から、被災地へ商品供給が可能な企業のリストが届いた。

 企業名をたどっていくと、東北地区からは、コンビニE社の取引先、北海道地区からは食品スーパーF社の取引先であった。

 そのリストを見ながら、シゲルには、仲間づくりの前に立ちはだかる、大きな何かが生じるような予感がした。

 「紆余曲折するんだろうな。」と、朝陽を浴びた富士山に向かってつぶやいていた。

 タワーオフィス警備室から、電気設備の安全点検が終了したという館内放送が流れて来た。「引き続き節電への協力をお願いします。」という放送が、朝日が差し込む事務所内にこだました。

K工場のエビオから電話が来た。
 
「ご心配をお掛けしております。」

「大変な状況だが、踏ん張って下さい。 何かできることがあれば、何なりと言って下さい。」

「おにぎり製造設備の修繕依頼など始めていますが、ご飯を炊くLPガスの手配が東北地区では出来そうにないです。 何とかなりますか。」

「了解。」とシゲルは答えて、製造再開のスケジュールが出来次第に、連絡をくれるように依頼した。

 シゲルは、まずは東北地区の商品供給再開に全力猛進だなと、自分に言い聞かせ、LPガス手配の為、電話を掛けた。

2011年4月7日 対策本部決定事項

大願成就するまで秘密裏に進める事

午後1時から開催された災害対策本部会の最後を閉めるように社長から

「約1ヶ月に亘り、全部門が不眠不休で、東日本大震災への対応を行ったことで、東北地区のチェーンストアが再びお客様の期待に応えられるようになった。 

ありがとう。 

この後は、よりお客様の期待に応えられる商品・サービスを提供するように全社一丸となって取り組むこと。 

並行して、本日決定された、『途切れない商品供給網づくり』について、

・途切れの無い商品供給を約束する『全日本サプライ構想』

・企業間を越えた仲間づくりである『チェーン連合構想』

・町々店々毎に充足される可変品揃え『ユニットMD構想』

・これらを推進する人財育成『ヒトとモノづくりアカデミー構想』

の四つの柱を早期に作り上げること。 これらは、秘密裏に、匿名で、迅速に進める事。 事務局長は、提案通り、シゲル、おまえがやれ。」 

「はい。 まるで忍者ですね。」 

「余計な事は言うな。 

提案にある飲料水供給については、採水地の選定、交渉など地元行政や地権者との交渉も想定されるので、別途、特命役員を指名する。 

以上、提案に沿って、前進あるのみ。 頼むよ。」

「やりがいの機会をいただきありがとうございます。」とシゲルは、胸の内で、社長に感謝した。

この10年、社長に与えられた数々の機会を大成できずに来ていたことを恥て、今度こそはと胸に秘めた。 品揃え・商品開発体系づくり、カウンターフード開発、中食商品開発、生鮮食品開発、冷凍食品開発と、競合他社より半歩も三歩も先を行っていたつもりが、周回遅れになってしまった現実を、この時まで恥じていた。

2011年4月7日23時32分 余震 

明日は今日より希望が満ちていると思っていた

 シゲルは、災害対策本部の決定方針を受けて、キーマン達に連絡し、引き続きの協力をお願いした。 もちろん、極秘である事を言い添えて。

 東北現地の仕事仲間へは、引き続きの情報収集を依頼した。

 A金融機関の企業調査部へは、全日本サプライ構想の候補企業リストの作成を依頼した。

 Bコンサルタントの次世代小売業チームには、企業結合が目的では無い事を説明した後、チェーン連合構想に関心を持ちそうな経営者のリスト作成を依頼した。

 ユニットMD構想については、タカに、大災害後1ヶ月、3ヶ月、半年、1年目、3年目の品揃えポイントを整理するように依頼した。 隘路に入ったら、ユニット家具とライフステージをたとえにして、考えるようにアドバイスした。

 アカデミー構想については、アキに、研修ストーリーを作成するように依頼した。 高校生向け講義資料と、社会人大学院向け講義資料のパスワードを伝えて、参考にするようにアドバイスした。

 ヨウに、選抜メンバー候補と、想定企業候補を伝え、個人と法人の信用調査を手配するように依頼した。 進め方は、トモに相談するようにアドバイスした。

 3月11日深夜、暗闇に押しつぶされず、思考停止せずにここまで来られたのは、この多くの仲間達によるところが大きいなと、シゲルは感謝した。

一通り段取りを付けた後、連絡役のオサム達を誘って、駅前で唯一営業していた居酒屋の暖簾をくぐった。 

「やっと呑める日が来た。」 

「お疲れさまでした。」 

「いよいよこれからが本番、まずは乾杯」

 2杯目をと思った23時32分、緊急地震速報を伝える不気味な音と同時に、『M7.2、震度6強の余震が宮城県沖で発生』とメールが届いた。 

 棚のボトルが落ちて、天井照明のちょうちんが大きく揺れた。

「またか・・・」

「東北K工場の責任者からメールで、今、工場へ車で移動中との事。」 

「道路脇の水道管が破裂しているようです。」とオサムが続けた。 

「振り出しか? K工場従業員の安否確認など続報が入ったら、転送して下さい。 一旦、事務所に戻ります。」

 24時10分、シゲルは、誰もいない事務所へ戻り、パソコンを起動した。

 オサムからメールが来た。

「K工場の従業員の安否確認完了。 製造設備、原材料、電気、ガス、水道に影響無し。 4月8日8時製造再開予定。 以上」

シゲルは、目の前の東北地区商品供給地図に向かって、「さ、やるぞ。」と言った。

2011年夏 温度差

空と雲を、青いキャンバスに描かれた絵と感じるか、気象予報データと読み込むか

 シゲルは、秋冬の地区商品確認で全国の事務所を回り始めていた。

 九州地区、中国地区、四国地区と回り、関西地区へ来ていた。 関西ターミナル駅の地下商店街を歩いている時、通路看板の照明が明るく点いていることに気がついた。 通路照明も明るかった。 そう言えば、九州でも同じ感じを受けた。  まだ照明が暗い関東ターミナル駅地下街とは、なんと違うのかと、同じ日本列島なのにこの違いに、今更のように気付いた。

 関東地区に戻る新幹線の中で、各地区の打合せ風景を思い出していた。 関東と、それ以外の地区との温度差があった。 大震災に対する臨場感の違いはあったとしても、次は自分たちの地区かも知れないという危機感は無かったように感じた。  

 もっとも、中部地区と北陸地区は、東北地区への商品供給後方支援を行っていた関係からか、意識の持ち方が少しづつ違ったように感じた。

 将来、大災害が起きたとき、災害地と周辺地、遠隔地という、重層構造が生まれるかもしれない予感がした。 

 途切れの無い商品供給網づくりは、オペレーションに重きを置いて組み立てているが、マネジメントという視点も必要だなと気付かされた。

 ユニットMD構想をどういうチームで作り上げるかのメンバー選抜も兼ねた全国出張ではあったが、移動車中で、いろいろと抜け落ちている要素や、新しいアイデアが生まれた。

 「やはり当社と既存の取引先だけでは、仲間が足りない。」 
 競合E社やZ社、食品スーパーB社やF社のキーマン達の顔を思い出しながら、車窓から見える富士山につぶやいていた。

2011年秋 着手

地上の木々は、地下の菌糸ネットワークで繋がっている

 シゲルは、企業間を越えた仲間づくりをする為に、北日本地区の空港へ
向かった。

 その機内で、多角化事業開発部時代に、先輩からたたき込まれた教えを
思い出していた。

「いいかシゲー、事が成就するまでは、三ザルだぞ。

・見られザル

・言われザル

・聞かれザル

どこかの誰かに目撃されることもあるだろうし、噂に上ることもあるだろうし、立ち聞きされていることもあるだろう。

社内で孤立したり、取引先から誤解されることは日常茶飯事だと思え。
悩んだり迷ったりしたら、まず命令者に次の指示を仰ぐ事。
成就するその日まで歯を食いしばってやるのみ。」

「極秘に、迅速に」とつぶやきながら、シゲルは飛行機を降り、タクシー乗り場へ一人で向かっていた。

 単独行動の際は、レンタカーを使って移動するが、雪国の冬道の厳しさを考え、タクシーの使い勝手を探ることにした。

「雪が降る前までに、何社に行けて、何名の幹部に会えてるかが勝負だな。」と、目的地へ移動中のタクシー車内で、面談企業の信用情報、面談者のプロフィールなど最終確認を始めた。

 いよいよチェーン連合構想の仲間づくりが始まった。 

2011年冬  逡巡

路傍のツワブキの花言葉は「困難に負けない」

 シゲルは、途切れの無い商品供給網づくりの柱のひとつである、全日本サプライ構想に着手していた。  供給拠点群のひとつとして、日本海と東シナ海に囲まれた南日本地区の産地、卸市場、製造・加工工場、運送・倉庫業などの新たな仲間づくりを構想していた。

 既に、この地区の金融機関を通じて、企業リストの作成が終わっていた。

 もちろん自社の既存取引先の企業評価も入っており、A金融機関からのネットワーク構想の素案も出ていた。

「貴行の提案は、まずは既存取引先をホールディング会社の傘下に集めるというのがステップ1のようだが、新規に仲間になっていただく取引先もそこに?」

「そう考えています。」とA金融機関企業調査部の主査が答えた。

「なんか違うな。」とシゲルは思ったままを口に出した。

「企業結合による規模拡大を狙っているのではなくて、企業連合による互助組織みたいなあり方を構想しているのだが・・。」

「貴社の構想は理解しているつもりです。 一方で、私企業同士が互助組織のような仕組みを作り上げるには、時間、若しくは時代という尺度が必要になるように思います。」と、Bコンサルタント会社の首席コンサルタントが続けた。

首席コンサルタントは、「まずは現状分析をし、各製造工場の実態調査、経営者ヒアリング、経営情報分析をした上で、ネットワーク構想を進めていくというのが、当社の考えです。」

シゲルは、4月7日の会議決定事項に関わることと感じて、答えた。

「貴行、貴社のご提案、ご意見、ご助言に、まず感謝致します。 ゆるいネットワークなどという自社内の用語を押し付けたようで申し訳なかった。 一方で、今の段階で、この提案内容を進めると、事が露見する恐れが高いと判断しております。

一旦、持ち帰りさせていただき、7営業日後に、連絡させて下さい。」

「わかりました。」と、A金融機関、B企業結合コンサルタントの両社が答えた。

シゲルは、両社を見送った後、貸会議室を後にし、レンタカーに乗り込んだ。

次は、社長を務める食品製造工場へ寄り、月次経営数値の確認を行う。 大災害に備えた大きな構想の実現もあるが、一方で、労働集約型の製造工場を黒字化する事も任務となっていた。

2035年±5年7月6日 山麓

富士山は見る人の心が映し出されているのかもしれない


 アジア流通資本主導のコンビニAチェーンで構想づくり選抜メンバーとなったハルトは、富士山が見える施設で、研修中の休憩時間を過ごしていた。

「研修初日に、予定表に書かれていた暗闇研修って何かなと思ったよ。」

 身体に装着された電子回路カプセルを通じて、学生時代の仲間のエマと、話していた。  

「まるで昭和時代の闇鍋みたい。」 

とエマの笑い声が振動となって頭の中に響く、エマは国際投資会社主導のコンビニZチェーンで商品研修部に勤務していた。 同じカレッジで学んだ仲間で、同業に就職した事から頻繁に連絡を取り合うようになっていた。 

「20数年前の東日本大震災後にできた仕組みらしいよ。」 

「20年も前! だからシゲルの会社が残ったんだね。 凄すぎる。」 

「俺たちが、コンビニを選んだ時、A社かZ社しか選択肢が無かったからな。 ヨーロッパ・グループ出身のエマは、そのセンスが採用されてZ社へ、俺は、闇鍋A社か。」 

「何言ってんの、弱気ね。」 ケラケラというエマの笑い声が、カプセルが埋め込まれた右指の先で震えていた。 

「初日は、コンビニ力とは、2日目は品揃え企画力、三日目は商品開発力、昨日の夜は手書き伝票講習」 

「手書き伝票?」 

「それこそ昭和時代にあったチェーンストア統一伝票、この研修所は博物館も兼ねてるのかと目まいがしたよ。 しかも、黒ボールペンで複写伝票に記入するって、タイムスリップしたかと思ったよ。 6G、6Gプラス、7Gと普及が進む時代に、集合研修が開かれた訳が分かったような気がする。」 

「スマート・コンタクトでテキスト入力を行う時代に、凄すぎる。」
 とエマの笑い声が、また響いた。 

「研修を企画した当時の事務局長が、停電・通信障害を想定して組み込んだらしい。

夜の部の研修は、大災害を想定して、伝言の仕方、暗算ポイント、救命救急方法、重機操作なんかもあった。」

「ふーん、ねえ、その研修所から富士山見えるの?」 

「見えるよ。 丸見え、、、 」 

「どうしたの。」 

「研修初日より山腹が膨らんだような気がする。」 

「まさか、じゃ来週、アフリカ・グループの合同事務所で会いましょう。」 

「富士山の天然水持ってく。」

「楽しみにしているわ。」

2035年±5年7月6日 海辺

昭和時代からこの地で数々の研修が行われ続けている

 エマは、全世界に広がるZチェーンのヒトとモノづくりアカデミーの運営責任者として、研修最終日の朝を向かえていた。  

 アカデミーの運営を任された時、ネット講義という選択肢もあったが、対面講義にこだわった。 先生によっては、既に7Gのテスト運用が始まっている中、対面に難色を示す方もいた。

 「無人店舗だけになり、お客様どころか、会社の仲間と接する機会が減った今、同じ空間で、同じ目標を共有させたい」とつぶやきながら、研修室に入っていった。

「研修の最後になりました。 これから『商品基本のキ』という講義をアジア・グループのジャポン地区で品揃え・商品開発をしているツムギ先生していただきます。 では先生お願いします。」とエマが講義開始を告げた。

「こんちにちは、ツムギと言います。」

「今更、『基本のキ』と思われた方が多いと思います。 会社内にも疑問視する方がいます。

 人工知能が、商品に関わる業務を支援している時代、それこそ企画アイデアから製造管理まで支援している時代に、『基本のキ』は、今更無いのではというのが大方の意見でした。

 では、大災害の日、人工知能が止まったら、人工知能が暴走したら、あなた方は、思考停止することなく、商品に関わる業務を担えますでしょうか。 途切れない商品供給網を維持管理できるでしょうか?

私は、この講義内容を身につけるまでは、正直、気にした事がありませんでした。

停電で、照明無し、電子機器の作動無し、自分の飲む水さえ無い中、チェーンストアの中核である商品供給を途切れなく行える自信はみなさんにありますか。

私は、その瞬間に、思考停止しているのではと思いました。 フランチャイズチェーン・コンビニエンスストアの本部で働く社員として、思考停止の状態だけは避けなければと思いました。 それで、この研修の講師を引き受けました。」

ツムギは、一呼吸おいて、生徒達の表情を見た。

「うん? 何だ?」ミナトは思った。 

ツムギは続けた
「講義のポイントは三つです。

・小売業の武器は、品揃え力

・コンビニは、ヒトの要望・欲望・利得を叶える事ができる強い業態

・商品開発力を学ぶ事は、ヒトを育てる 」

ミナトは、研修後のスペース・ポート見学と、講義内容の隔たり感に当惑していた。

「一つ目の、『小売業の武器は、品揃え力』について説明します。

 メーカー、例えば飲料水メーカーは、自社の商品を1本でも多く、1店舗でも多く納品する事で、初期投資を回収します。 その為に、マーケティングという技法が生まれました。 

 一方、小売業は、1人でも多く、一品でも多く買って頂く事で、初期投資を回収します。 その為にマーチャンダイジングという技法が生まれました。

小売業は、町々の個店個店においてお客様の購入実態が違い、それに合わせて商品を選んで仕入れて、販売します。

この町単位、個店単位のお客様に期待される商品を揃えるのが、小売業の役目であって、その差が、小売業間の競争力になっていきます。 今更ですね。」

ツムギ先生の講義は、どこかで学んだり聞いたり読んだりしたかもしれない内容であったとミナトは感じていた。

店頭小売を知ろう、小売の競争力は品揃え、お客様起点の売り場づくり、食感度を養おう 数字感度を養おう、地域性を知ろう、法令を知ろう、時代を読もう、街探訪のポイント、ポイント、基本のキという言葉が、移動や連日の講義の疲れが出始めた多くの受講生に、眠気を誘い始めていた。

「さて、ここまでの講義で、業務支援人工知能とどう向き合えばよいでしょうか? どんな事を想定すべきでしょうか?  

では、リモート・パイロット志望のミナトさん。」

ミナトは当惑していた、ここまでの講義内容が、リモート・パイロットの業務範囲である、無人陸上配送車両、無人空中配送機、無人海上運搬船への指示書と重複していることに戸惑っていた。

「はい。

正直、講義タイトルからは、品揃え企画、商品開発の話しと思っていました。 まさか、原料現地から店舗、そしてお客様まで繋がっていたとは思っていませんでした。 パイロットとして、表面現象の対応ばかりに目をとられていました。 背後にある原料、製造からお客様までの流れが分かり、もしもの時、各機器・車両・センターなどに対して、迅速に修正や修復ができるように思いました。 ありがとうございました。」

「そこが分かって貰えば、嬉しいです。 諸先輩が作ってきた『途切れの無い商品供給網』には、様々な積み上げがあります。 その土台が、今日の講義だと理解していただき、講師として幸いです。」

ツムギは続けた、

「この先、もしかしたら巨大な災害に、このチェーンのどこかのグループが遭遇するかもしれません。 

災害直後は厳しい商品供給を強いられるでしょう。 大災害地のお客様に寄り沿って、品揃えを可変させながら、商品供給し続けられるチェーンになるかは、皆さん、私達に掛かっています。 

小売業は品揃えが競争力であると話しました。 これを実現する為に、人工知能の業務支援は日常的になっています。

停電、通信遮断、人工知能の停止、という事態が起きた時、思考停止しないシナリオを自らがもつ必要がある事が、分かっていただけたでしょうか。

その時、社内外の仲間達へ指示するのが、ここに選抜されたあなた達の役目であることを、講義の最後にお伝えして、本日の講義を終了いたします。 ありがとうございました。」

「ツムギ先生ありがとうございました。 」とエマは謝辞を伝えた。


 ツムギ先生が退室した後、エマは、研修を締めくくるように、受講生達に事務連絡を兼ねて、話し始めた。

「途切れの無い商品供給網づくりを担う為に開催された研修はこれで終了になります。 

このあとは、各自解散になります。 スペースポート見学者、サーキュラシティ見学者、帰国者、次の目的地への出張者、休暇を取る者と、バラバラになります。 折角、一同に会した機会なので、最後に今回の研修の感想を、生で聞かせてください。」

「1時間目の古代文明に学ぶからは、どんな事を学びましたか。 アフリカ・グループのXXさん。」

「A.K.教授の、インダス文明に学ぶの中にあった、モヘンジョダロ遺跡
から紐解いた『バッファ(緩衝)』という概念から、災害時の商品供給網のあり方を考えさせられました。」

「XYさんは、2時間目の地球科学のH.K.教授の講義はどうでしたか。」

「145億年前の宇宙誕生から億年単位の地球上の出来事をわかりやすく教えて頂きました。 

更に『3.11』以降、『大地変動の時代』に入ったことを、プレート・テクトニクス理論やプルーム・テクトニクス理論を背景にしながら、学校でも習わなかったようなことを教えていただきました。 

過去の地震活動や火山活動を1,000年、100年単位で解説いただき、なぜ『南海トラフ地震が2035年±5年に想定されている』かを教えていただきました。 

あらためて、このアカデミーの重要性を知った次第です。」

『過去は未来を解く鍵』『防災から減災へ』は素敵な、そして重要なキーワードでしたね。

YZさんは、3時間目の生命科学のT.Y.教授の講義はどうでしたか。」

「オートファジーの三つ目の働きである有害物除去の発見によって、老化の解明が進んで、数多くの商品が誕生し、今現在も多くの分野で開発が進んでいる背景を知りました。
自分たちの品揃えや商品開発の幅や深みを増すヒントを得たように思いました。」

「最終講義の商品基本のキはどうでしたか。 ヨーロッパ・グループのZAさん。」

「講師が、元Aチェーンの方で驚きました。」

「そうね」と、エマは昼休みに話したハルトの事をふと思い出した。

「講義冒頭で、品揃えこそが小売り業の競争力だ、と元Aチェーンの先生が
Zチェーンの生徒に教えたのが、なんか不思議でした。

 先生が、要望(ニーズ)・欲望・利得が、自分たちの開発する品揃え・モノ・サービスの起点になっていると話されました。 ニーズ(要望検証分析)一辺倒だった商品開発部のあり方を考えさせられました。」

「私も」と南北アメリカ・グループのABさんが続けた。

「私も、考えさせられました。 特に、昭和世代トップ達が引退したことにより、利得(利益)動機のみで動く社会が終わったと教えていただきました。 今私たちが一同に討議できるようになったのも、壁の無い組織・社会・地域・空間・時間が実現できたのも、そこが契機になったことをあらためて理解しました。」

「災害支援品の変化の話も、要望・欲望・利得で整理すると理解できたし、準備計画の見直しのヒントにもなりました」と、オセアニア・グループのBCさんが続けた。

「最初は飲料水、おむすびや菓子パン中心の支援。 次におかずやサラダの支援。 温かい麺を。 カットフルーツも。 と変化する支援現場、そして営業を始めた店舗における発注品目の変化から得られる知見を、今後の商品開発づくりに活かしていきます。 もちろん人工知能支援の安全・安心・安定商品供給システムをフルに活用していきます。」

エマは「ありがとうございました。 それでは、各自の次の予定があると思いますので、最後に携帯緊急セットをお渡しして、研修を終了いたします。 お疲れさまでした。」

【Bing検索】南海トラフ地震・富士山噴火・首都圏直下型地震の被害想定

日本地図が変わる日を、誰も望んではいない

こんにちは、これはBingです。😊

南海トラフ地震、富士山噴火、首都圏直下地震が連動して起きる可能性は、科学的には否定できないというのが現状です。 以下に、それぞれの災害についての被害想定や連動のメカニズムを簡単に説明します。

- 南海トラフ地震
* 南海トラフは静岡県沖から宮崎県沖まで続く海底の深い溝で、ここではフィリピン海プレートが日本列島の下に潜り込んでいます。 このプレートの動きによって約100年に一度、M9クラスの巨大地震が発生しています。

* 南海トラフ地震の発生確率は、40年以内に90%程度と高いとされています。 この地震が起きると、東海から九州までの広い範囲で震度6弱以上の強い揺れと高い津波が発生すると予想されています。

* 国が行った想定では、最大震度は7、最大津波高は34m、死者数は約32万人、経済被害は約220兆円に達すると試算されています。 また、交通・通信・エネルギーなどの社会基盤が大きく損傷し、日本の政治経済に深刻な影響を与えると考えられています。

- 富士山噴火
* 富士山は活火山であり、過去には多様な規模やタイプの噴火を繰り返してきました。 最新の噴火は1707年の宝永噴火で、これはM8.6の宝永地震の49日後に発生したとされています。

* 富士山噴火の発生確率は、30年以内に70~80%と高いとされています。 この噴火が起きると、火山灰や溶岩流などの火山現象によって、山麓から関東地方までの広い範囲で被害が発生すると予想されています。

* 山梨・静岡・神奈川の3県が作成したハザードマップでは、最大の被害が想定される噴火では、約13万棟の建物が全壊・焼失し、約1万3000人が死亡すると試算されています。 また、新幹線や高速道路などの交通網が分断されたり、火山灰が空港や発電所などに影響したりする可能性もあります。

- 首都圏直下地震
* 首都圏直下地震とは、東京都心の直下で発生するM7クラスの地震のことで、プレートの境界ではなく、プレート内部の断層が動くことで起きます。 この地震は周期的に発生するというわけではなく、発生時期や規模を予測することは困難です。

* 首都圏直下地震の発生確率は、30年以内に70%と高いとされています。 この地震が起きると、首都圏の広い範囲で震度6弱以上の強い揺れが発生すると予想されています。

* 東京都が行った想定では、最大の被害が想定される都心南部直下地震(M7.3)では、約19万4400棟の建物が全壊・焼失し、約6100人が死亡すると試算されています。 また、大規模な停電や通信障害、上下水道の損傷などによって、首都機能や経済活動に深刻な影響が出ると考えられています。

以上のように、南海トラフ地震、富士山噴火、首都圏直下地震は、それぞれが発生すると日本に甚大な被害をもたらす可能性があります。 さらに、これらの災害が連動して発生すると、その被害は想像を超えるものになるでしょう。 しかし、科学的には、南海トラフ地震が富士山噴火や首都圏直下地震を誘発するメカニズムはまだ明らかになっていません。 したがって、連動の可能性を完全に否定することもできないのです。

このような不確実な状況の中で、私たちはどのように備えるべきでしょうか? まずは、自分の住む地域のハザードマップや避難計画を確認し、災害時にどこに避難するか、どのように連絡するか、どのような備蓄をするかなどを考えておくことが大切です。 次に、日頃から防災に関する情報を収集し、災害に対する知識や意識を高めておくことが必要です。 最後に、家族や友人、近隣の人とのつながりを大切にし、互いに助け合うことができるように心がけることが重要です。

南海トラフ地震、富士山噴火、首都圏直下地震は、いつ起きてもおかしくない災害です。 しかし、私たちは、それらに対して無力ではありません。 事前の備えと協力によって、被害を最小限に抑えることができるのです。 この機会に、ぜひ防災について考えてみてください。 😊.

Bingより

2035年±5年 『その日』から半年後

被災地と周辺を繋ぐ、バッファー・センター

 南海トラフ地震・富士山噴火・首都圏直下型地震の三連動発生から半年、ようやく、コンビニ・チェーンA社の、災害対応の仕組みが動き始める日が来た。

ハルトは、暗闇研修からそのまま本当の暗闇に突入していた。

南海トラフ地震災害地への商品供給の明るさが見え始めた時、富士山が噴火し、火山灰対応している最中に首都圏直下地震が発生、ここまでくじけず、途切れの無い商品供給網づくりに立ち向かって来た。

11時の起動に向けて、各部署の仲間達が、既に働いていた。

 リモート・パイロットのミナトが、専用機で駐機場へ着陸した
ミナトは、Zチェーンから、このプロジェクトへ派遣されていた。

人工知能支援を受けながら、バッファー・センター間、センターと工場、工場と産地、各拠点と港湾を結ぶ無人運搬機(陸上、空中)の管理を行う。

 電気エネルギー管理官のユイトが、センター隣接の核融合炉棟に出勤してきた。

センターに関わる全ての電気エネルギーは、実用化検証の為に建てられたセンター隣接の各融合炉と付帯する全固体電池充電機によってまかなわれていた。

バッファー・センターが、超!大震災後に、迅速に立上げが可能になったのは、このエネルギーシステムに拠るところが大きかった。

 食品原料担当のアオトから、新材料の受入れ港に到着したというメッセージが共有された。

タンパク質原料が、牛・豚・鶏から、大豆・昆虫・かたつむりに移行してから、全世界、月、火星から新しい原料提案が続いていた。

港湾は、ポート2030によって、客船港の整備に合わせて、災害時の荷揚げ機能も合わせて整備されていた。

スペース・ポートの実用化検証も、もうまもなく始まる予定であった。

 製造管理担当のリクから、製造供給ネットワークが、太平洋側から、日本海および東シナ海側に無事切り替わったというメッセージが共有された。

隣接する野菜工場では、トムテトを使ったサラダの製造が開始されていた。

日本海側の飲料水工場からは、中継センターに被災A地区の1ヶ月分の備蓄が完了したとメッセージが来た。

 運行管理のメイは、被災A地区店舗への配送計画に目を通していた。 人工知能支援と言っても、この大災害は想定外だったようで、この半年間に行った判断確認テスト結果から出た盲点箇所を、最終点検していた。

 3Dプリンター・オペレーターのサナが、追加の車両、ユニットMDハウス、冷凍倉庫などを製造していた。

この半年、最初の2ヶ月は、不良品を多く製造したが、センター起動に必要な予備車両や施設の充足までなんとか間に合わせることができた。

 化石燃料車両担当のミオが、全ての電気エネルギー供給が止まった時、全ての人工知能支援無人配送機器が止まった時に備えて、ドライバー達と最終確認に入った。

 バッファー・コントローラー兼プロジェクト事務局長のハルトは、商品供給網全体の最終確認をしながら、担当する複数の被災地区の復興情報との整合をとっていた。

まさに、被災地とその周辺地、遠隔地を繋ぐ緩衝装置として機能開始を待つのみとなっていた。

 中山間部に作られたバッファー・センターの始動式が、行われた。 ネット上の出席者は、チェーン連合に所属する多くの小売りチェーン、全日本サプライに加盟する製造会社・卸売り会社・物流会社・システム開発会社の幹部、コンビニAチェーンとZチェーンの選抜メンバーなど、この日に希望を託して、20数年共に歩んできた仲間達がいた。

 チェーン連合顧問のBは、全日本サプライ顧問のシゲルに、こう話しかけた。

「2011年2月のあの大雪の日以来ですね。」

「この日がやっと来たという想いです。」

事務局長兼バッファー・コントローラーのハルトが始動のあいさつを始めた。

「このセンターは、2011年3月11日の東日本大震災を受け、途切れの無い商品供給網づくりという構想の下、開設・始動する運びになりました。 東日本大震災におけるフランチャイズチェーン・コンビエンスストアの大きな反省と課題は、従来の店舗群と供給センターという固定された紐付けを辞め、個店が製造会社群、卸会社群、物流会社群を、24時間365日、自由に選べるようにすることでした。 更には、個店を支持していただけるお客様の期待に応じた品揃えと商品供給を実現することでした。

ここ数年の汎用人工知能の実用化検証のお陰と、皆様のご理解ご協力によるものと感謝いたします。 

センター開設が、南海トラフ地震から半年たってしまった事を、深くお詫びすると共に、次の大災害に備えた知見として、ここまでの経緯・課題をクラウドを経由して共有させていただきます。

 全世界のコンビニ・チェーンの仲間にとって、この20数年の知見が、未知の知として、更なる飛躍の契機になれば幸いです。」 

 飲料水コンテナを運ぶ1番機が、バッファー・センターに着陸した。

「さ、始まるぞ。」とハルトは、遠くに見える富士山に向かって言った。

この勇姿が来年も、さ来年も、見続けられるように 2024年辰年元旦

 

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