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電界怪異図鑑:【砕硝蝶】

砕硝蝶はしょうちょう

学名:Papilio Vitreus
怪異:硝子科
恐怖レベル:★☆(怪異単体の場合)

砕硝蝶はその名の通り、完全に透き通った硝子の蝶として知られています。ただ、透明な昆虫というわけではなく、本物の硝子から構成されている怪異なのです。

この蝶の怪異は驚くべきライフサイクルを持ち、朝には幼虫、昼には蛹、夜に成虫と、一日で次々に姿を変えていきます。そして、月に照らされながら宙を舞い、けれど最後には地面に落ちて砕け散ってしまいます。
ただ、これは死ではなく、破片は地中で再び霊的エネルギーを溜め込みます。そして十分力が蓄えられると再び幼虫になるのです。
この不思議な再生は満月の度に起こるとされ、毎月一度、その美しい姿を闇夜に輝かせています。

幼虫
朝露を餌とする

ただ、砕硝蝶はどこでも見れる存在ではありません。
場所の詳細は伏せるものの、幼虫はある地域の神聖な禁足地でのみ、その奇妙な成長と破砕を繰り返しています。その理由は、その地域が大きな霊脈との絶妙な位置関係にあるためとも、地中深くに眠る特殊な鉱石が硝子の生成を助けているとも言われています。

砕硝蝶自体が人間の害となることはなく、その美しい姿は古くから多くの人々を魅了してきました。
しかし、生息する禁足地の近くには翅上村うじょうむらという村があります。翅上村は代々この地を守ってきた歴史があり、部外者の立ち入りを著しく嫌っているようです。

砕硝蝶は古くから密猟が絶えない怪異でもあるので、その反応もある程度は仕方ないのかもしれません。ただ、村の周囲で起こる奇妙な事件の数々が、その怪しい存在感を際立たせています。
その中でも有名なのは「古河早大学生 連続不審死事件」でしょう。

昭和のある年、砕硝蝶の噂を聞きつけた古河早大学の学生グループが翅上村へ向かいました。しかし、その後彼らとの連絡が途絶えてしまいます。
数日後、関係者から捜索願が出され、警察が村を訪れますが、村人たちは一貫して彼らの存在を否定。そんな若者たちは誰一人見ていないというのです。

しかし、さらに一ヶ月後には、村を流れる川の下流や山を挟んだ森の中など、複数の場所で学生たちの遺体が相次いで発見されます。
もちろん、その後県警が本格的な捜査を始めましたが、奇妙なことに、ある日を堺に一気に捜査規模が縮小。最後には「自殺であった」とささやかな会見をし、報道もほとんどされることはありませんでした。

「古河早大学生 連続不審死事件」

もちろん、村の住人が犯人だという証拠は一切ありません。何らかの理由から詳細の発表が控えられただけで、実際に学生たちの自殺を示す証拠が見つかっていた可能性もあるでしょう。

ただ、村にはこんなわらべ歌が伝わっています。

蝶々舞い散る、四枚(刃とも)
一枚、池に浮かんで
ゆらゆら、風に乗って舞う

笛の音遠く、谷越えて
二枚、白い花の下
静かに、夜闇に包まれる

星がきらめく、森の中
三枚、木陰で揺れ揺れば
月の光も、近づかぬ

四枚目は、その行方
知ることなく、砕け散る
けれど、蝶はまた瞬く

翅上村「蝶々の羽の数え歌」

村人たちの間で、これは砕硝蝶のライフサイクルを伝える歌だとされています。
しかしながら、村の背後に見え隠れする不審な出来事を考えると、どうにも違った意味に聞こえてしまう、というのは少々穿ち過ぎでしょうか。

いずれにせよ、この不思議な蝶は今後も怪しく閉じた地で輝き、そして砕け続ける運命にあります。

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