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職業としての小説家

基本情報
著者:村上春樹
出版社:株式会社スイッチ・パブリッシング
出版年:2015年

媒体:文庫本
ページ数:313p
読了日:2021年9月8日
所要時間:7時間

著者紹介
村上春樹(むらかみ はるき)
1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞。(新潮社/著者プロフィール)


読むきっかけ
大学の図書館で目に留まった一冊。なんとなく、小説を書いてみたいと思っていた矢先、小説を書いてみたい人に向けた本は沢山あると思うが、どうせ読むなら日本で最も売れている小説家のものを読みたいと思ったからである。ちなみに、これまでに読んだ村上作品『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、『海辺のカフカ』の2作品である。なので、そんなに村上ファンという領域には到底言っておらず、なんとか彼のリズムが分かったという程度である。

本書の概要
本書に書かれている表現を一部拝借すると、この本は「村上春樹の自伝的エッセイ」であるといえる。小説家という人種の説明に始まり、著者の作品との向きあい方や彼を取り巻く環境、具体的な執筆プロセスから海外での活動経緯に至るまで書かれている。そこには村上春樹を知る上で、そして専業作家としてのあるべき姿勢の1つの答えを知る上で必要なことが載っている。

本書の位置付け
出版されたのが2015年の9月であるため、長編小説で行くと『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の後に書かれたエッセイである。また、全12章構成であり、7~11章部分が書き下ろし箇所となっている。

感想
期待を超える内容だった。
正直に言うと、職業作家とはどのようなメンタリティなのか、どうすれば彼らに近づけるのか。というぐらいのことを知るために手に取ったところではるが、それを超えてプロフェッショナルの有り方や、新たな世界の見方を得ることに繋がった。

本書明かされた重要な情報の1つに、彼の執筆ルーティーンである。毎朝4時に起きて4時間~5時間程度、原稿用紙10枚と決めて執筆にとりかかっているというものであるが、ここまでの売れっ子が毎日これを守っているということに、並大抵の人ではないことが伺える。私はこのプロフェッショナルに驚愕し、かつその生活に憧れをやはり感じた。

また、面白い表現の1つに「小説は頭の悪い人達が書いている」というのがった。物事を短い言葉で説明できずかつ要領を得ない人だから創りだせるものがあるのだと。これは誤解を生む表現かもしれないが納得できる。プロセスに美を見出す。結論を書いてもなににもならない。野球のスポーツニュースを結果だけで見たらいいじゃんじゃいというのと同じである。

この本を参照にした際には、自分が小説家に向いているかどうかをチェックてみよてほしい。{読書家であるか、学校を楽しいと感じなかったか、空想をするのが好きか、結論を保留にする傾向があるか、周りを観察しているか、多くの人と会っているか}これらの質問の答えが「Yes」であれば小説家に向いていると、村上は言う。

村上が自分のスタイルを英語を用いて確立したというエピソードも面白かった。一度英文で筆を走らせ、その後その文章を日本語に逆翻訳するのだ。一見、非効率で手間に思えるが、そうするこで表現が洗練され他の文章と変わった独自性が生み出されるという。私はこの文章を読みながらある出来事を思い出した。中学の時の美術の先生が、私達生徒に対して「今日は絵を逆さにして描いてみて」と言ったことである。例えば、リンゴの静物画を描くのであれば、へたの部分が自分よりになるように描く、という具合にである。おそらく、この概念と同じ論理なんだろうと私は思った。

身銭を切ってくれる人の為に書く。
ここは、本書において私に最も響いた箇所である。村上春樹は自分の本を買ってくれる人にのみ向けて書いているという。多くの人が面白いと感じてくれるかどうかは問題ではない。大切なことは、お金を出してくれる人が面白いと思える内容かどうかだと。

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