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グローバル化時代におけるガラパゴスの強み

ヨーロッパ出張の乗り継ぎで、イスタンブール空港に来ています。

イスタンブールには、20数年前に来たことがあります。当時のトルコ人はまだムスリム色の強い装束で、古くて田舎くさかったターミナルの中は、空気が白く濁るほどタバコの煙が充満していたことを思い出します。今ではターミナルでタバコを吸う人はいません。ビシャブを着けている女性も少なくなりました。中国人、韓国人など、以前はいなかった多くのアジア人もこの空港で飛行機を待っています。ローカルな装束に身を包んた多くのトルコ人と、その合間にいる日本人や白人の観光客といった光景は、もはや過去の記憶になってしまったようです。イスタンブールの空港で見かける光景が、ヨーロッパや香港やアメリカのそれと変わらなくなったという事実は、ここ20数年で世界が驚異的にグローバル化したことを象徴しています。

グローバル化には、大きく分けて2つの側面があります。ひとつは、先進国と先進国の市場が統合されたこと、もうひとつは、新興国と先進国の市場が統合されたことです。

ぼくが入社した当時、日本生命は世界最大の保険会社でした。日本のローカルトップカンパニーに過ぎなかった日本生命が世界最大の保険会社であったのは、日本が世界最大の生命保険市場だったからにほかなりません。当時の世界ランキングは、各国のローカルランキングを規模でソートしただけのものだったのです。それほど各国のマーケットは独立していたとも言えます。現在では、世界展開を果たした欧米の保険会社がランキングの上位を占めています。反対に、あいかわらず日本を中心に事業をしている日本生命は、世界8位へとその順位を落としています。

20数年前にはまだ発展途上国の色彩の強かったトルコも、今では随分と発展しました。その間、トルコ人たちはビシャブを脱ぎ、洋服に身を包み、近代的な都市建設を図ったのでした。ファストファッションを着たトルコ人は、欧米人と見分けがつきません。同じように、欧米人から見たら、中国人や韓国人と日本人の区別もつかないことでしょう。ローカルなトルコ音楽が流れていた以前のイスタンブール空港と違って、ターミナル内のカフェには流行りの洋楽が流れています。人々がスマホを片手に時間つぶしをしている様は、東京で見かける光景と変わるところがありません。

残念ながら、日本企業は、市場の統合という世界の潮流にうまく乗り切れていないように思えます。欧米のグローバル企業との競争に勝てていないばかりか、新興国市場の取り込みも不十分なままに留まっているように思えるのです。

その背景には、統合されていく世界市場の裏で、日本市場だけが独自性を保っているという事実があります。いわゆるガラパゴス化です。最初から統合された市場を相手にサービスを開発した企業が、統合された世界市場に展開していくことは容易です。反対に、ユニークな自国市場向けにサービスを開発した企業が、それとは異なるグローバル市場に打って出ていくことには困難が伴います。日本市場がガラパゴス化しているという事実が、グローバルマーケットで日本企業に不利に働く側面があることは否めません。

そのため、グローバル化の話になると、日本市場の独自性がたびたび批判の対象となります。ガラパゴスというワード自体が、世界市場から取り残された日本市場を揶揄するための言葉として用いられているほどです。けれども、ぼくには、世界市場と統合され独自性を失った「日本」市場から、世界的な日本企業が生まれてくるような気がまったくしません。パソコンやスマートフォンのOSがそうであるように、グローバル市場と同期した「日本」市場を世界的なグローバルカンパニーが席捲していく様が目に浮かんでしまうのです。

むしろ、ガラパゴスであることを日本の強みとしていくべきように思います。ほかとは異なる市場性を有しているからこそ、ほかでは生み出せないサービスを生み出すことができるからです。ユニークな市場だからこそ生み出されるユニークなアウトプットこそが、統合された世界市場で独自に価値を持つのです。グローバル化する世界市場における日本企業の取るべき道は、ガラパゴスな日本市場に根差すべきように思うのです。

タバコの嫌いなぼくですが、世界のどの巨大空港とも変わらなくなってしまったイスタンブール空港を見て、ふと、タバコ臭かったかつてのイスタンブール空港が懐かしくなってしまいました。グローバル化という潮流が世界を単一化していく中、望んでもいないのにガラパゴスであり続けられる強みを、日本人は活かしていくべきように思います。


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