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絵画で味わう江戸のさかな【遊郭のバックヤード】

これまで、江戸の遊女にフォーカスした浮世絵をいくつか紹介してきた。

きらびやかな服を着てうまいものを食べ、客をもてなす華やかな世界。喜びも大きいだろうがその気苦労はいかばかりか。彼女たちにも、ゆっくりと過ごす時間が必要だったはずだ。そんな時間に焦点をあてたのが、歌川豊国の見立源氏品定(みたてげんじしなさだめ)である。

末広恭雄 監修「魚づくし」より

絵を見てみよう。格子窓の外には屋形船や荷船が往来していることから、品川や洲崎あたりであると推測できる。8人の人物が登場しており、あるものは足の爪を切り、あるものは猫を抱いている。寝転んで本を読む横には、寿司の折詰と桜餅の箱。とっくりには酒が入っている。三味線をのんびり弾く女の横には、禿らしき少女が文を届けている。彼女たちに後ろには出前のものと思われる丼が置かれ、食事をとったあとののんびりとした時間が描かれていると思われる。

折詰が二つ重ねて置かれている。上には「於加免寿司(おかめずし)」とあることから寿司の折詰、下には「向嶋桜餅(むこうじまさくらもち)」とあることから甘味の折詰であることがわかる。桜餅は食後のデザート、あるいは下戸向けのものか。

張り詰めた気持ちを緩める、そんな大切な時間に焦点を当てた絵の中心に据えられているのは、寿司の折詰なのである。思えば、池波正太郎のエッセイ「食卓の情景」にも、女手一つで家庭を支えた池波氏の母が唯一楽しみにしていたのがたまにつまむ寿司だったと書かれていた。

小さな寿司のその一口が、次の仕事に向かう英気を彼女たちに与えてくれていたのだろう。

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