似合わないから、買わない方がいいよ。

僕は大学の時、服に狂っていた。バイト代のほとんどは服代に消えていたと思う。当時はまだネットで服を買うなんてことは、常識になっていなかったし、自分の足で、原宿やら渋谷やら表参道界隈のいろんなショップを歩き回るのが好きだったので、買い物の日は、一人もくもくといろんなショップをハシゴした。

その中でもとくに好きだったセレクトショップがある。乱痴気だ。神戸発のお店で、お店に置いてあるブランドの数々が琴線に触れるものばかりだった。seminead、ENGINEERED GARMENTS、Back Alley Old Boys、ute ploierなどなど。

そしてこのお店は、服のセンスがいいだけでなく、店員さんの接客も気持ちよかった。僕は通っているうちに、アベさんという20代後半の・男性スタッフさんと親しくなった。この人の服の知識は半端なく、毎回色々なことを教えてくれた。だから、買い物する気もないのに、アベさんとのおしゃべりを目当てにお店に遊びにいくことも多々あった。

でも、ある時さすがにおしゃべりだけじゃ悪いから、なんか買わなきゃと店内を物色し、アベさんに「これどうですかね?」と感想を聞いてみると、「Tくん(僕)には、これは、似合わないから買わなくていいんじゃない」とアベさんが言ってきたのだ。

その時にこの人は心から信用できる人だと思った。当時、社会人経験はなくアルバイトしかしたことのない僕だったけど、「接客の本質」、ひいては「仕事の本質」を見せつけられた気がした。多分、アベさんは接客とはこうあるべきなどという論を押し付ける人ではない。だから、無意識で発言したんだろうけど、それは店の利益ではなく、客側の視点に100%立った言葉だったように思う。

話は変わるが、ディーラーに勤める知人から、営業成績の良い人ほどセールスをしないということを聞いたことがある。一般のお宅にお邪魔して、本来ならクルマを売り込むところだけれど、優秀な人は、お宅にうかがっても、奥様や、夫婦のお話をとにかく聞いて、聞いて、聞きまくって、クルマの話は一切せずの帰るらしい。でも、何度も通ううちに、馴染みになり、ある時、向こうから切り出されるという。「クルマをあなたから、買いたいんだけど」と。

モノがあふれて、便利になって、なんでもネットで買える時代。だからこそ、「何を買うか」よりも「誰から買うか」がとても意味を持ってくるのだろうな。

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