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VCのファンドパフォーマンスを上げるための新しいスカウトファンド/投資の枠組み

前回書いた記事(【VC関係者必見!】 スカウトファンドの始め方)から約2年が経ち、GFRでもこれまでの学びを踏まえて、スカウトの仕組みを更に進化させたので、その内容を簡単にシェアしたいと思います(今回は有料記事にはしませんが、代わりに詳細は省きます)。なお、本記事はスタートアップ向けというよりは、VC/投資家向けで、更にはファンド運営のかなりマニアックな部分になりますので、その点を踏まえて読んで貰えればと思います。

GFR Fundは2016年に立ち上げた、シリコンバレーを拠点に北米・ヨーロッパのメディア、エンタメ、コンシュマーテックのスタートアップに投資をするシードファンドです。これまでに3つのメインファンドを立ち上げ、スカウトファンドや個別のSPV等(Special Purpose Vehicle、投資先が1社しかないミニファンド)も含めるとファンドサイズの合計は約$100M(約140億円)、投資先は60社程度となりました。

スカウトとは何か?

前回記事でも書きましたが、スカウトとは主に本業、大体はスタートアップの創業者・経営陣や、リクルーティングやマーケティング等、特定分野のスキルを持って複数のスタートアップにアドバイスを行うコンサルタントが多いですが、その本業の傍らに、VCのために投資案件を見つけてきて紹介する立場の人を指します。10年ぐらい前からセコイア等の主要VCがその仕組みを始め、今では多くのVCによって採用されている案件ソーシングの手段の1つです。

スカウトプログラムの仕組み

スカウトにはいくつかのパターンがあり、①$100k(約1,400万円)等、一定金額をスカウトに預け、自己判断で投資をして貰う場合や、②スカウトが紹介した案件にVCが投資をした場合は一定のフィーを支払う場合、等、様々です。スカウトへ支払う一般的なフィーは、その特定の投資案件から生じる成功報酬の一部を支払うというものです。詳細に入る前にまずはVCの報酬の仕組みを説明します。

VCは通常、調達を行ったファンドの規模に応じて、管理報酬として年間2%前後をファンドの存続期間である10年間、リターンが出た場合の成功報酬として20%程度を受領します。例えば100億円のファンドであれば毎年 100億円 x 2% = 2億円/年を10年間に亘って管理報酬としてもらい、ここから社員の給与やオフィスの賃料等々を支払います。一般的な運転資金はここから出されます。仮にそのファンドがうまくいき、2倍の200億円となった場合、利益の100億円(= 200億円 - 100億円)の20%、20億円を成功報酬として貰い、残りの180億円を投資家に返す、形になります。

スカウトのインセンティブは基本的にはこの成功報酬の一部を渡すというものです。ただ、ファンド全体の成功報酬というよりは、そのスカウトが持ちこんだ投資案件に投資をした金額に該当する成功報酬の一部、という形になります。例えばVC AのスカウトBが、投資案件C社を持ってきた時、AがC社に1億円の投資を行ったとします。その投資がうまくいって、仮に5億円のリターンが出た場合、VC Aがもらう成功報酬は4億円 x 20% = 8,000万円です。この一部をVC AがスカウトBにシェアをするという形です。

GFRでの過去の取り組み:学びと課題

以上が一般的な仕組みで、GFRでは2019年に立ち上げた2号ファンドから上記の仕組みを始め、2021年に立ち上げたスカウトファンドでもその仕組みを踏襲しています。ただ、そこに至るまでには学びがありました。2016年に立ち上げた1号ファンドでは数名のアドバイザーを雇いましたが、各アドバイザーにはファンド全体の成功報酬の一定%を渡していたため、アドバイザー側には個別案件を紹介したり、自ら積極的にGFRの投資先をサポートする、というインセンティブが働きませんでした。というのは、それをしようとしまいと、ファンドが成功すれば一定の%を受け取れるからです。

その学びから2号からはスカウトの仕組みを取り入れて、案件毎の成功報酬の一定%に変更しました。また、スカウトはソーシングが主な役割なのに対し、ソーシング以外にも、例えば投資時のdue diligenceのサポートや、投資先へのアドバイスを行って欲しい人は2号でもアドバイザーとして(1号ファンドとは違うメンバーを)数名、起用しました。これらのアドバイザーには1号と同じようにファンド全体の成功報酬の一部をフィーとして支払う形にしたのですが、前回の学びから、一度に全部渡すのではなく、年間の案件紹介数に応じて貰える%の比率を増やす形に変更しました。その結果、アドバイザーからも多くの投資案件を紹介して貰うことができました。

2号やスカウトファンドで作った枠組みはかなり役に立ち、飛躍的にソーシング案件数を増やすことができました。ただ、一方でスカウトやアドバイザーとは関係が案件ベースになるというか、投資機会の提供とその対価、というドライな関係になるというか、それはそれで悪くはないのですが、長期で付き合う仕組みではないな、とも感じていました。

3号での新しい枠組み

3号の立ち上げに際し、色々と他のファンドのパートナーや、他のファンドのスカウトにヒアリングをした結果、3号からはまた新しい枠組みを始めることにしました。それは、A) GFRの投資家になって貰うことでファンドの成功に長期にコミットして貰う、B) 投資案件を紹介してくれて、GFRが投資をした場合はその案件ベースの成功報酬を一部、フィーとして支払う、という二段構えの枠組みです。B) はこれまでと一緒なのですが、そこに A) を導入することで、長期と短期、それぞれのインセンティブをスカウトに持って貰う形としました。

A) のハードルを下げるため&受皿を作るため、3号のメインファンドとは別に、フィーダーファンド(3号メインファンドに全額投資をするファンド)を新設しました。その上で、メインファンドへの最低出資金額は数億円なのに対し、フィーダーファンドへの最低出資金額は数百万円にすると共に、管理報酬や成功報酬についてもメインファンドと比較すると投資家/スカウトに有利なものを提供しています。その代わり、こちらのフィーダーファンドには、スカウトになり得るスキルと経験を持つと我々が判断する個人しか受け入れていません。

結果、今では10名程度のスカウト、主にはGFRの投資先でexitを経験したファウンダーが多いですが、それらのファウンダーがスカウトとしてフィーダーファンドに投資をしてくれています。

”スカウト投資枠”の導入

もう1つ、3号から新たな取り組みとして始めたのは、”スカウト投資枠”です。3号ファンドのうち、数億円は”スカウト投資枠”として、(GFRでは4人のパートナーがいますが)各パートナーが、1社当たり$50k(約700万円)までは投資委員会等を通さずに単独で意思決定できる仕組みです。これは2021年に立ち上げたスカウトファンドを3号ファンドの中で再現した形になります。

2号ファンドで起用したスカウトの仕組みは、各スカウトに一定金額を預けて、彼らに投資をして貰うものでした。ただ、この問題点はスカウトも本業を抱えているため、忙しいという理由もありますし、あとは性格もあると思うのですが、投資件数にバラツキが生じることでした。あるスカウトはものの数ヶ月で10件近くに投資をし、投資枠を使い切ってしまう一方で、他のスカウトは1年で1件しか投資ができない/しない、という感じです。なので、3号ではこの一定金額を預ける仕組みは止めることにしました。

スカウトファンドからの学び

2021年に立ち上げたスカウトファンドからは約20件に投資をしていますが、そこからは更なる学びがありました。1つは約20件のうち、外部スカウトからの紹介案件は約半分で、残りの半分は実はGFRのメインファンドとしては時期尚早で見送ったものの、もう少し様子を見たい、といった理由でGFR主導で投資を行なったものでした。なので、半分は内部からの案件だったのです。

もう1つは、その約20社の投資先のうち、これまで4社に対して、次のラウンドまでに我々のコンフィデンスレベルが上がり、メインファンドから投資を行なったことでした。スカウトファンドの名前の通り、メインファンドの”スカウト”としての役割をうまく果たしてくれています。この早いタイミングで少額を投資をする、というのはそのファウンダーとの関係構築のみならず、彼らのexecutionのレベル感を近くで見ていられる、というメリットがありました。

スカウト投資枠のメリット

上記の2点の学びから、3号ファンドの”スカウト投資枠”の設定に繋がりました。3号からの投資は昨年頭から始めているのですが、メイン投資とは別に、既に20社程度のスカウト投資を行なっており、更にはその中から2社には纏まった追加投資(=メイン投資)を行なっています。これまた狙い通りの役割を果たしています。

このスカウト投資枠の最大のメリットは、前述した通り、纏まった金額を投資するには時期尚早と思えるスタートアップに”つば”を付け、その進捗をモニターすると共に、ファウンダーとの関係構築を進めることができる点にあります。そして、次の資金調達でリード投資家として入りたい時には入り易くなりますし、仮に他のリード投資家がついて "oversubscribed" (投資家が殺到し、ファウンダーが調達したい金額よりも多くの希望投資額が集まるケース)となった時にも、枠を貰い易くなります。

もう1つの大きなメリットは投資の実戦トレーニングです。VCは多くはapprenticeship or 師弟性(経験豊富なパートナーから若手が学ぶ)と言いますが、特に我々が投資をするプレシード、シードステージの世界では正直、過去の成功が未来の成功に繋がらない(もしくは支障にも成りかねない)側面もあるので、まずは自分で投資をやってみるのが一番の学びになります。GFRでは各パートナーだけでなく、若手のメンバーにも少額の投資枠を持って貰い、自分で判断をし、自らが投資をクローズすることで、その成長速度を上げる取り組みをしています。

最後に、副次的なメリットとしては、パートナー個人が自らのお金で投資をすることを回避できる、というものがあります。(日本ではあまりないかもしれませんが)アメリカでは良くファンドのパートナーが個人でスタートアップに投資をするケースがあります。理由の多くは、ファンドからはステージが違う等の理由で投資できないが、まずは個人で投資をして様子を見る、というものです。多くのファンド契約のテンプレートに、一定の条件の下でパートナー個人が投資することを認めている条項が入っています。ただ、一方でこれは悪用もできるので、極端なケースでは、個人投資ばかりをし、ファンドからの投資を殆ど行わない、という事態も発生し得ます。その為、スカウト投資枠を設けることで、個人投資を極力無くし、パートナーの時間をファンドに集中させる、という効果もあります。

マニアックな内容を長々と書きましたが、他のVCの方々に少しでも参考になればと思います。

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