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育成年代レポ~中学生バレーボール2022‐2023シーズン総括


(1)はじめに(導入)

約3年あまりの間、私たちの活動にさまざまな制限をもたらしたコロナ禍の情勢下、大会をはじめ各種事業がそれまで通りに行うことが困難になりました。中学生バレーボールの活動(私の場合は部活動)においても、それまでのような年間指導計画を見通すことができませんでした。
しかし、2022年夏からのシーズン(1年間)は、活動制限が緩和され、練習時間や活動日数等の上限などの設定はあれでも、ようやく、1年を見通した選手やチームの指導と育成に取り組むことができました。
じっくり1シーズンを通して試行錯誤できたのは久しぶりだったということもあり、その取組を記録化しておこうと思いました。また、コロナ禍の期間において、世の中の価値観や学校やスポーツに対するアプローチも変わったところも踏まえた、こらからの時代の取組に参考にしていただければと思います。

実践と考察における対象とモデル

・指導者着任2年目の中学生男子バレーボール(公立中学校部活動)
・2022年夏~の1年間のチームづくり
・2022年夏時点:2年生9名、1年生4名(2023年春に新入部員18名)
  ※2年生は、1年目は着任前にあたり、1年目の指導はしていない
・全員、小学バレーボール未経験者
部活動ガイドライン(スポーツ庁、市教育委員会)の遵守
・平日2~3日の体育館練習、1日の座学とミーティング、最低1日はオフ
・土日は、1日が2時間半程度の練習、1日はオフ
・泊を伴う合宿、遠征、大会等は、ゼロ
・夏休み、冬休みはそれぞれ10日間程度のオフ、定期テスト等前は数日間のオフ

ベースとしている先行研究と実践

現状、中学生バレーボールも含め、日本のバレーボールにおけるほとんどのカテゴリーでは単年度(1年間)でのチームづくりや強化になりがちです。単年度のチームづくりや選手の育成において、日本の伝統的なバレーボール指導を見直し、勝利至上主義にょる弊害だった、オーバーワークやバーンアウト、偏ったスキル習得、早期選抜的な選手の振るい落としなどを是正するために、先行してコロナ禍時期以前に取り組んだ実践を継承し、今回の実践のベースとしています。

ここまで取り組んできた実践のポイントとしては、
・(戦術的)ピリオダイゼーションを位置づける
・ポジションの早期固定や限定的スキル指導を避けたオールラウンドな育成
・技術や戦術にリンクした座学やミーティング、映像視聴の機会を設ける
・「動作原理」をふまえた技術指導と練習ドリル化
・ゲームライクを起点とした練習づくり
・一つに型にはめた画一的指導を脱却し、試行錯誤をベースとした練習

などが挙げられます。


(2)課題設定

コロナ禍に突入した2020年以降の期間において、従来までの活動時間や練習量に見直しが求められ、同時に新たに登場してきた知見や指導アプローチを、バレーボールの指導やチーム作りにどのように具現化ですることがきるか。2020年以前までに整備した実践や指導アプローチを生かしながら、それらをどのようにアップデートできるかを課題の中心に据えてみます。
先行事例では中学バレー3年間(2年半)を通しての観察が中心でしたが、今回は単年度(1年間)における観察に軸をおいて、これからのあるべきバレーボール指導やアプローチのブラッシュアップを図りたいと考え、実践を試みました。

(3)背景(なぜ、この課題に興味を持ったのか)

①コロナ禍以降に変わった練習量

公立中学校の部活動を中心に、過剰な練習量を抑制するために、活動のガイドラインが定められています。

例えば、平日1日、土日のどちらか1日は休養日を設け、練習時間は平日は2時間程度、休日は3時間程度とする。大会等で、それを超える場合は振替の休養を必ず設ける。というものです。
正直、コロナ禍以前でしたら、土日祝日などは両日とも終日練習したり、年間でも複数回遠征や合宿を設けたりしていました。しかし、子供たちの心身の健全な育成を見据え、それらを見直す方向に舵を切る動きになっています。
したがって、これからのジュニアスポーツ、小中高校生の育成年代のスポーツにおいては、十分な休養を取り入れることを当たり前とし、長時間練習を是正しながら、主体性を導きより効率的で、自立と自律を育める練習や活動が求められてきています。

②中学バレー、コロナ制限緩和後の「再開」の在り方に違和感をもつ

特に中学生とスポーツを取り巻く環境では、
「教員の働き方改革」
「勝利至上主義の是正」
「部活動の地域移行」

といったテーマが沸き起こってきています。個人的には、こういったテーマが混同されていたり、論点が複雑に絡まったりして、議論が混乱することも多いなと感じています。
さらに、こういった動きを踏まえて、中体連大会ではクラブチームの参加も導入されました。中学バレーボールカテゴリーでは、中体連、Vリーグジュニア、ヤングクラブと3つの全国大会が設けられていることになり、地域によってその出場権をめぐっていろんな課題が生じています。
特にチームや子供たちに関わる指導者や保護者など大人のエゴによる動きの問題は未だに顕在化しているのではないかと感じています。何かコロナ禍制限の反動のように、大人たちがこぞって全国に行かせようとする空気感を強く感じます(少なくとも私の身の回りでは)。生徒や保護者が活動に同意していればそれでよいとばかりに、学校や競技団体から指導やペナルティーが科されないことをいいことに、平然と活動のガイドラインを反故、無視するようなチームがあることには愕然としました。中体連も活動実態を把握しきれないことが分かっているのに、出場資格にガイドラインの遵守を掲げておきながら、実態は守っていないチームを大会出場させるなど、私ははやくこの混乱期が健全な方向に収束してもらいたいなと願います。
公立学校や私立学校の部活動、バレーボール経験者を集めている公立学校、強化志向の強い私立学校、強化志向の強いクラブチーム、普及型クラブチーム、リクリエーション活動の場・・・いろんなコンセプトのチームがある多様性は大事ではある一方、活動形態やガイドライン遵守に差やばらつきがあるにもかかわらず、評価の軸が全国大会につながる大会の競技結果、勝利至上主義傾向に現状フォーカスされがちになり、普及や将来性重視の育成型チームやクラブに光が当たりにくくなっていると感じています。
コロナ禍以降に、示されたビジョンと実情が、まだまだ噛み合わない過渡期にあるのではないかと感じています。

③コロナ禍以後に得られている知見を生かす

コロナ禍の活動が停止、制限された一時期において、一面としては活動や大会ができない閉そく感で苦しんだ側面があった一方、別の側面としてはオンラインによる交流や学びの機会が生まれることになりました。
これによって、日本国内広域で人とのつながりが生まれただけではなく、日本国外や他競技の方たちとのつながり、情報や知見の還流が起こりました。

①バレーボールの階層構造

「なぜ日本のバレーボールのトップカテゴリーは、数十年間、世界の中で競技力が低迷してきたのか?」
という視点を起点として、時代と共に図られるべきアップデートが日本では機能してこなかった要因が、
バレーボールというものを構造的にとらえることがないまま、個人や組織によってとらえ方や論点が主観的なまま、ばらばらになっていたこと
が見えてきました。
動作原理の重要性は、階層構造の提言以前から明らかになってきましたが、バレーボールの階層構造の中の、「ゲームモデル」と「プレー指針」、「標準」とされるものが、絶え間ない試行錯誤(協働やディスカッション、探究)などの営みの中で「生まれてくるもの」であるということは、カテゴリーを問わず、指導やチーム作りに反映されていかなければならないことだと考えます。

②要素還元的な思考からの脱却

バレーボールと階層構造の考察を契機に、今一度「バレーボールとは何か?」ということへの問い直しが始まり、従来のバレーボール自体に対する概念や伝統的な指導観が変わらなければいけないことが明らかになってきます。
バレーボールは、6人制競技で言えば、コート上の6人が協働し、ネットの向こうにいる6人の対戦相手との攻防の中で、常に予測しきれない状況とボールを止めることができない中で求められる瞬発的な判断の連続が求められます。ですから、外部からのコントロールは不可能であり、選手が主体的にかつ創造的な営みをしていかねばなりません。
また、伝統的に言われている、つなぎ、流れ、ムード、リズム、優勢劣勢・・・といった極めて主観的で抽象的な表現に代表されるように、バレーボールで起こり得る現象や結果は、必ずしもすべてが言語化や数値化しきれるものでもなければ、要素を分解して個別の要素の改善をするだけでは、バレーボールの全体像を総合的には説明しきれない部分がたくさんあることを肯定しなければいけないのです。

③伝統的なバレーボール指導の見直し

・指導者の感覚や主観を言語に依存して伝える指導法
・単独のスキルやスキルの動作を分解しての反復練習
・指導者から言われたことだけを繰り返す思考停止型練習
・練習やゲームおける、ミスやエラーを極度に嫌う風土
・質より量という考え方だけがフォーカスされてしまう傾向
・主観に頼った練習が無駄に設定されることで積み重なる長時間練習
・指導者の観察力の不足からくる、暴言や暴力の発生

こういった、日本のバレーボール指導に伝統的に流れていた風潮は、コロナ禍や人々(大人も子供も)のゆとりある営みがより求められる今の時代にあっては、立ち行かなくなっています。
また、社会の要請だけではなく、近年明らかになってきた知見や、サッカーやラグビー、バスケットボールやハンドボールなど他競技でも、盛んになってきた研究や議論、その成果と確かな競技結果の向上からも学べるように、日本の伝統的なバレーボール指導は転換を図られなければなりません。

(4)仮説

 絶え間ない指導者としての学びと試行錯誤が重要であるという認識のもと、近年明らかになってきた知見をもとに、バレーボールのとらえ方を見直すことで、指導アプローチや指導方法、チームづくりの概念がアップデートされていくことになる。それにより、日本のバレーボール指導の諸問題の改善に資するとともに、アンダーカテゴリーからトップカテゴリーへの接続、早熟早期選抜型のふるい落としではない、真の育成にもとづくトップカテゴリーの確かな強化の実現につながるであろう。
特に、新たな視点として握っておくべきポイントとして

・バレーボールの性質のとらえ直し(複雑系、非線形、暗黙知の形成など)
・バレーボールの階層構造をもとにした、技術や戦術の練習構成とプランニング
・暗黙的学習における制約主導型の練習
・選手の現状に即したゲームモデルの設定と更新
・非線形モデルの成長を念頭においた観察

これらに、コロナ前にアップデートを図った視点であった、
・ピリオダイゼーション組み込む
・育成年代ではオールラウンドな育成を徹底する
・型はめ指導を脱却してゲームライクからの学習をドリル化
・サーブとブロックの重要性を習慣化する
・オーバーハンドパス(セット)のキャッチを撲滅する

するなどのエッセンスを再構成していきました。

(5)取組の概要(仮説の評価への大まかな手段・方法)

〔期分け〕

・第1期 7月~10月(新人戦で評価)
・第2期 11月~12月(年内)
・第3期 1月~3月(中間評価:2月大会)
・第4期 4月~5月(5月大会目標)
・第5期 6月~中体連大会

①第1期の取組:7月~10月(新人戦で評価)

〇取組の概要
・ポジションは固定しない
・単独スキルの分解練習や単調な反復練習、ターゲットムーブメントはしない
・タスクの重点はオーバーハンドパス(セット)とサーブから
・スキルウォーミングアップやタスクゲームで、一通りのスキルは織り込む
・タスクゲーム(ゲームライク)では、ブロックを入れるようにする。タスクはスパイクはできないため、パスを中心に。
・新人戦は、「6-6システム」で「S3」(ゾーン3の選手がセッター)
・アタックは、ゾーン2、4、6(バックアタック)を基本とする
・ベンチメンバーは、毎試合、全員ワンポイント以上の出場させる
・サーブの自己調整による試行錯誤

〔ゲームモデルを意識した確認事項 STEP1〕
・ノータッチではボールをフロアには落とさないようにする。
・現時点の自分のスパイク能力について「自己対話」し、場合によってはティッププレーやパスアタックでの得点をねらう。
・ブロックは、2枚以上とぶ
・サーブミスは考えず果敢に打つ
・ファーストタッチやセカンドタッチの「ニアネット」を回避する。
・コートのゾーン(6)やスロット(5)を共有

〇結果・評価
・大会の予選グループ戦を2位通過し、決勝トーナメント大会へ進出
・全市決勝大会ベスト16で終了
・最後に敗れた試合は、スカウティング当初は勝算が十分見込めた試合であったが、スパイク決定率の低さ(失点ミス)が目立ち、惜敗した。
・この段階は、サーブを起点とした得点が顕著であることから、サーブミスが増えだすと劣勢になりやすく、最後の試合はその想定通りの展開となった。指示としては、「サーブを入れろ」ではなく、最後まで積極姿勢を促した。
・どのメンバーも試合に出場するということ、また、試合に出場したということが日々の刺激やモチベーションとなっている。

②第2期の取組:11月~12月(年内)

〇取組の概要
・オーバーハンドパス、アンダーハンドパスの精度が向上してきたため、これまでのラリー継続目標型のタスクゲームから、得点奪取を取り入れたタスクゲームに少しずつ移行。
・スパイクは指導者によるセットアップよりも、セルフでのハイセットから打ち込む練習を増やした。オーバーハンドセット力と多少不確実なセット軌道から打ち込ませるため。
・サーブの精度が不安定なことから、単調なサーブ練習ではなく、プレッシャーのかかるドリル内容や、ゲームの得点設定などで克服試みた。
・ゲームでのサーブの設定例:自チームの自分の前の選手のサーブミスに続く、自分のファーストサーブでミスをしたら、得点を相手に2点または自チームの得点をゼロにするなどの設定をした。

〔ゲームモデルを意識した確認事項 STEP2 ~前のSTEPに上乗せ〕
・フロアディフェンスの動線を確認。特にディグ時のバックセンターは前方へのモーションをおさえ、エンドライン付近の左右の動きに専念させる。
・第1列(オフブロッカー)、第2列(コート中盤)の守備は、左右の動きを重視する。
・クイック攻撃につながる、ドリルを導入する。
・レセプションを、コート上の選手個人の能力に応じて守備範囲を確認させる。相手サーバーの能力を判断した、第1列と第2列の位置調整を学ばせる。

〇結果・評価
・個人のスパイクスキル、精度や決定力はまだまだ目に見える改善は実感できていない。
・生徒たちが、遊びやすき間時間にクイックをやり出した。
・生徒たち個人個人で「やるたいこと」、「やってみたいこと」、「チャレンジしたいポジション」などで意思表示をするようになってきた。

③第3期の取組:1月~3月(中間評価:2月大会)

〇取組の概要
・年明け再開から、本格的にブロック練習(解説・ドリル)を開始
・6-6システムから、ポジションごとに対角を設定したツーセッターシステムに移行。
・対角ごとのポジション設定は、セット内、セットごとに変更をする。(あくまでもゲームのオールラウンドな経験は継続させる)
・練習における、ゲームライクは、スパイクを入れても成立しつつある段階になったので、バックアタックとハーフショットを中心に構成する。
・まだまだ得点奪取のゲーム課題よりも、ラリー継続を主眼においたタスクやスキルの安定性が制約の中心。

〔ゲームモデルを意識した確認事項 STEP3 ~前のSTEPに上乗せ〕
・リードブロックを基本に設定。ゾーンマークをシェアする。
・コミット、ゲスとは何かについての理解をシェアする。
・ブロッカー同士、ブロッカーとディガーとのコミュニケーション。位置・コース・タイミングのフィードバックを意識的に。
・セッターの配球についての試行錯誤や対話
・クイックの発動については選手に任せる。


〇結果・評価
・大会の予選グループ戦を2位通過し、決勝トーナメント大会へ進出
・全市決勝大会ベスト16で終了
・ミスやエラーの多さ、ゲーム展開の不安定さなどは、秋の新人戦時よりもかなり悪い印象があった。修正しきれないゲーム展開が多かった。
・ゲーム内容の悪さが、選手のモチベーションへのネガティブな影響も与えそうだったため、競技結果よりも、次へ向かう課題設定に注力した。
・スパイクミス(アウト、ネット)が多く、ゲーム展開に致命傷となる。ただし、練習時でもクリアになっていないので想定の範囲内。

④第4期の取組:4月~5月(5月大会目標)

〇取組の概要
・新入部員18名(全員小学バレー未経験)
・年度末~年度初めは諸会議等で、ほぼ練習には立ち会えない。
・ゲームにおけるポジションは、上級生(新3年生)については、希望に基づき決定し固定化。新2年生についてはポジションの流動性を残し、複数ポジションを設定。
・ボール拾いや見学に終始しないよう、新1年生と上級生の練習を土日別々に実施。教師は土日両方稼働することになり負担が大きくなった。
・フェイクセットプレーを導入。

〔ゲームモデルを意識した確認事項 STEP4 ~前のSTEPに上乗せ〕
・(ブロック)バンチシフトとデディケートシフトの使い分け
・オポジットとセッターのゲーム中のスイッチ(1セッターシステムの中で展開によっては終盤セッター前衛時に2枚替えせずにセッターをスパイカーにスイッチ)
・リベロ2名の併用・使い分け

〇結果・評価
・大会の予選グループ戦を1位通過し、決勝トーナメント大会へ進出
・全市決勝大会ベスト8で終了。最後は優勝チームにコート上の選手も観客もエキサイティングできる試合内容を行うことができた。選手にも自信になった模様。
・バックアタック、クイックは自然発生的に始まったがこの段階では標準装備。
・MBがレセプションアタックで、S1やS6で、ライトサイドから高いセットのスパイクをするようになった。
・春までの課題だった、スパイクの決定力が上がり、致命的な失点ミスは明らかに改善された。
・ブロックは、戦術を理解し、確認に則った動きができるようになっているものの、ブロック効果やキルブロックに至らず、今一歩仕上がらず、ブロックに関係する失点が目立った。

⑤第5期の取組:6月(修学旅行後)~中体連大会

〇取組の概要
・可能な限り、対外的なテストマッチ(練習試合)を設定する。
・練習ゲームでは、直接的な指導はほぼなく、見守り、ゲーム後にフィードバックするくらい、ゲーム内容が安定してきた。
・対戦相手のサーバーによって、連続失点にハマる場合が時々あり、ポジショニングやシフトの変更を自主的にできるように再確認。
・個々のサーブ力が伸びて、試合展開に大きく左右することから、サーブミスの連続によって、ゲーム展開が悪くなることが多い。事後にフィードバックするようにする。

〇結果・評価
・大会の予選グループ2位で通過。
・練習試合で勝てなかった相手からも勝利または善戦した。
・熱中症や負傷などもあったが、控え選手が遜色なくプレーができ、アクシデント発生も30点越えのフルセットマッチにもちこむこともできた。
・レセプションやディグのスキル不足による、ミスやエラーで勝敗の分かれ道となっている。

(6)結論(仮説への評価)

①指導者としてのメンタル

今シーズン新たにアップデートされた知見として、
・バレーボールを構造的にとらえ俯瞰する(階層構造)
・制約主導
・非線形的成長モデル
・バレーボールの性質のとらえ直し(複雑系と自己組織化)

などをバレーボールの指導やチーム作りに反映させていく時、バレーボール指導者として、明らかに変容したこととしては、
ノック(球出し)等のコーチとしての運動量が激減したこと、
そして
「リアクションコーチ」(いちいちプレーに対してああだこうだいうこと)がなくなったこと、
そして
ゲーム結果に指導者として一喜一憂することはほぼゼロになったということ
が挙げられます。

②個人の非線形的成長、チームの非線形的成長=長期スパンの線形的成長

個人やチームの好不調、乱高下、不安定さ・・・こういった想定不可能なフェーズを、コーチとしてすべてを肯定的に受け止めることができます。
当たり前といえば当たり前ですが、面白いもので、同じ練習やトレーニングをシェアしていても、中学生一人一人の成長モデルや成長曲線は異なるわけです。オーバーハンドパスが得意から始まる場合もあれば、ディグやレセプションに高い意欲を見せる場合もある。当初はなかなか習得が遠いスタートをしてもシーズン終盤には高い攻撃力をもつようなる。ポジション特性も時期によって変化していく・・・。
指導者の指導モデルが「線形的」なものになってしまうと、選手個々の変容は受け止めにくくなります。そうするうちに観察する視点やゆとりが狭められ、上意下達の関係が強まっていくと思います。
これに対して、選手個人の成長も、チームの成長も「非線形的」なものであるととらえる場合、目の前で起こる様々な現象や結果のすべてが考察の対象となり、試行錯誤の材料になります。そこから主体性やフラットな関係性が保障され、心理的安全性も確保しやすくなります。

③分解的アプローチはほぼ皆無でいける(ターゲットムーブメント不要)

伝統的なバレーボール指導として、

・身体の使い方や動きを言語で伝えて画一的にやらせる。
・タスクを身体の部位で分解して局所的に練習する
・細かく分解された練習方法を規定的な状況とボール再現性の中で反復する

こういったものを「基本練習」などととらえ、かなりの時間を費やすことが多かったです。
しかし、制約主導的なアプローチを念頭に置きながら、常に選手やチームの実情を観察し把握しながら、「バレーボールとは何か?」という視点から逸脱することがないように練習を構成しようとするとき、自然と伝統的な練習方法は淘汰されていきます。

④やっぱり、育成型アプローチは、強化型アプローチとは性質が異なる

小中高校生年代を育成年代とすると、これらのカテゴリで、全国大会などの高い競技実績を挙げる(勝つ)ようになるためには、発達・成長途中にある特有の不安定なパフォーマンスやメンタルをゲームに持ち込まないかが大きなポイントになってきます。ですから、短期間で確実に勝たせようとするほど、指導者によるコントロールや拘束の要素が強まってくるのだと思います。これをアンダーカテゴリーにおける「強化型アプローチ」と仮称すると、要素的には以下のようなものがあります。

・現時点でスキルの高い選手を6名集める・揃える
・ポジションや役割分担を早期に決定し専念させ徹底的に反復練習する
・指導者の指示に従わせ、迷いなく(思考停止)プレーさせ、思考判断のゆらぎを抑止する。
・スキルも幅広く求めない。限定的なスキルの完成度を上げる。
・将来の可能性よりも、現時点のミスやリスクを無くす
・ゲームモデルは、当初から指導者に与えられたものを変更することなく練度を上げていく。

これに対し、すべての選手(生徒)をオールラウンドに経験させ、シーズン終盤に向かうピリオダイゼーションの中で、課題や目標、ミッションを変化させ、観察と対話、選手の主体的な意思決定を重視するスタイルを「育成型アプローチ」は、まさに強化型の真逆をいくわけです。
 仮に最終的に、育成型と強化型とが対戦するとき、コート上6人による競技力は強化型チームに圧倒されます。
 一方、育成型には何もメリットはないのでしょうか?少なくとも、メンバー全員に、レギュラー/控えのボーダーやハードルのない当事者意識や主体性、チャレンジ精神は大きく育つと確信しています。

⑤中間評価を重視し、対外的な相対評価に陥らない

きれいごとだけでは済まされない実情もあります。
小中高校バレーボールの評価基準は、やはり競技成績になるからです。
1年間1勝もできなかったところから、最後に1勝できるようになった成長は他からの評価はほぼ得られません。それよりも、1年間勝ち続けて全国大会出場するような実績が圧倒的に評価されます(もちろん素晴らしい実績です)。
公式試合では、チーム発足当初から全国大会を目指し強化型のアプローチをしているチームと対戦すると、圧倒的な力の差をみせつけられ粉砕される展開もあります。当然、やるせないネガティブな心境に傾いてしまいます。
しかし、だからといって、自分たちの存在意義やチャレンジを、何も自ら否定したり蔑む必要はありません。
いつの時代も、どこの地域でも、余計な評判を言ってきたり、マウントをとって来られるることもあります。
しかし、バレーボールをどのようにとらえ、指導モデルをどのように設定するかを確認していけば、おのずとブレることなくチームや選手に向き合えます。そして定期的に選手たちと一緒に改善サイクルと試行錯誤や探求を回していくことが重要となります。

⑥「伸びしろ」「その先の発展」「不完全さ」を残し続ける

絶対に、「これをやり続ければいい」、「これだけやっておけばいい」といったもので指導せず、常に「今挑戦することと、その先にやりたいこと」をセットで説明して、思考停止せずチャレンジング・マインドが続くようにすることが重要です。それを踏まえて、「期分け」・「ピリオダイゼーション」を構築していきます。
その過程には、選手たちからの「やってみたい」や「やりたい」を肯定的に取り入れて進めていくこともモチベーションの維持につながります。よく「大会がないと目標がなくモチベーションが下がる」と言われることもありますが、それは明確に否定します。それは指導者の詭弁です。大会などなくても、選手やチームを成長させていくことは可能ですし、モチベーションを維持させ向上させることは可能です。
また、「その先」を見せるためには、指導する側がバレーボールの構造やディベロップメント(発展過程)を知っておかねばなりません。ですので、指導者は常に選手を観察する力を高めたり、バレーボールの技術指導や戦術を学び続ける必要があると考えています。

(7)総括(振り返り・展望・課題)

暴力や暴言、アンガーマネジメントの問題も、これら諸問題の撲滅を目標や目的に掲げることも必要な取組ではありますが、そもそも「バレーボールとは何か?」自体を探究したり学び続けたり、バレーボールの練習やコーチングを探究したり学び続けることで、そこから得られた知見やアップデートによって、指導者自身の見方・考え方はおのずと変わっていきます。暴言や暴力をなくすという意識はそこにはなく、自然とそんなことをする意識レベルにはない、またはそんなことをしている場合ではない、そんなことするヒマなどないといった境地になります。

指導者の確保はいつの時代も大きな課題ではありますが、当然、選手一人一人を観察し、対話し、ともに試行錯誤や探求をするためには、指導者一人では無理があります。いかにグッドコーチを志す仲間や同志を増やし募り、いろんな大人が子供たちに関わることができる体制や風土が求められます。

「部活動の地域移行」、「教員の働き方改革」、「勝利至上主義からの脱却」・・・これらをごちゃ混ぜにして議論を浅いものにしていないかという懸念をもっています。
近年の大事な価値観のひとつである「多様性」と「尊重」を基盤にして、振り子が片方に振り切れるような二元論や二者択一的な選択ではなく、人々の多様な生き方が尊重されるような、バレーボールの場や機会、そして遅咲きからでも活躍できるシステムなど、いろんな入り口といろんなルート、そして多様な人材を模索していくことも課題だと感じます。

今、日本のバレーボールは、再び世界の中で輝き羽ばたきはじめています。トップカテゴリー選手として活躍するためには、狭き門をくぐるエリート的なキャリアがないと厳しいとは思いますが、そこには届かないバレーボール選手やコーチ(指導者)も、日本でバレーボールをすること、観ること、支えることから、喜びや感動、生きがいを得て、日本どこでもバレーボールの空間が楽しく活気のあるものになるよう願っています。

(8)近年の実践にリンクした文献や資料

(2023年)