一期一会、文学フリマ
5月21日
「文学」というと敷居が高く感じる。実のところ、はじめはそこまで乗り気じゃなかった。どのくらいかというと、行く場所をうっかり間違えた。一緒に行った友達には大変ご迷惑をおかけしました。
文学フリマ。初めて聞いたイベントだったが完全なる興味本位で行ってみることにする。誰もが知る夏冬の大規模イベント・コミケにすら行ったことがない田舎者。いつかはイベントに出展したいという強い野望と、自分だって大好きな文章に手を出したいという淡い期待。偵察のつもりで行ってみることにした。
1冊か2冊目当ての本を買えれば良いだろうと、甘い見積もりで小銭と千円札を用意した。退屈な毎日、ともだちと外へ行ける楽しみが勝るばかりだった。しかしどうだろう、実際のところ財布を空っぽにし、戦利品を抱えて帰路に立った。これが即売会か。
会場に入るなりずらりと並んだ机と人々に、ごみごみとした印象を受ける。おだやかな熱気とは対照的にやや冷めざめとする自分がいた。知らない場所と未知の興奮を警戒しているからだ。
pixiv小説編集部のトイレットペーパー(受賞作品が印字されたもの。五百円)をいち早く手に入れ、そのあとは特に目当てもなく、ふらふらとさまよう。
積極的に声をかけるひと、ぽつりと俯いて来訪を待つひと。サークル主も三者三様である。結果的にそれがサークル主に近い読者を引き寄せるように思えた。
僕はもっぱら前者であり、興味のある言葉を投げかけられると足を止めずにはいられなかった。主に自分の興味のある分野や、自分に近しいステータスの者が書いたものに惹かれて仕方がない。なぜって、検索しても簡単には出会えない。失踪したミュージシャンを探したインタビュー集、アーティストたちが寄稿した文集、一瞬の恋に「恋の遺影」と名付けた著者、ティーカップの歴史、架空のVTuberの推し活物語。
それから、表紙に惹かれたりレイアウトに目を奪われたり。ほとんどの出品が「字」なものだから、読んでみなくてはわからない。ぱらぱらとめくった時点で美味しい文章(僕は「美味しい文章」と表現してるけど、とても馴染みやすく好きな文のことです)の書かれたものはすぐに買いたくなった。
普段だったら熟考するはずの買い物も、ぽんぽん買ってしまう。これが一期一会の即売会に棲む恐怖か……などとしんみり実感しながら財布が軽くなっていった。友達とほとんど同時に所持金が空になったところで終了。ふたりで並んで座った車両で戦利品を黙々と読み込み、ひとつ乗り過ごすほど余韻に浸かった。
総評。
僕もイベントに出展したい、そんな気持ちが強く強く高まった。それから、文学フリマは老若男女が参加していて、それ故に研究色の強いものも多くあった。十人十色のエッセイに目が向きがちだが、何年にも渡って知恵を深めた人の本などもあった。どちらも尊いものだが僕は僕自身の体験だけでなく万人の共通する学問もひとつ貫き通してみたい。特に、今はまだいいけれどいつか歳を取った時に。