マドリードで1ユーロ
「マドリードは宇宙でした」
帰ってきて、開口一番に夫が言った。
道が広い、公園が大きい、レストランがいっぱいある。
El Corte Inglés(スペインのデパート)があっちにもこっちにもある。
都会育ちの夫ではあるが、一年半ぶりに見たマドリードは思いのほか大きかったらしい。
普段はほとんど写真を撮らない人からこの日は大量に自撮り写真が送られてきたため、私もそれらを消化するのに時間を要した。
それはまず、アトーチャ駅での一枚から始まった。
全ての写真に夫のマスクを通してもわかるぎこちない笑顔が写っており、このように微妙な角度でしかお見せできないのが残念である。
一年ぶりの電車は、乗車率50%ぐらいだったそうだ。ちゃんと着いたぞ、ということを伝えるために送ってくれたらしい。
電車に乗る前にはハンドジェルが配られたそうだ。いいにおいだったと言っていた。
「El Museo Reina Sofía(日本語では『ソフィア王妃芸術センター』と言うようだ)です! 前に来たときはすごい行列だったんですが、建物の前を今通ったらガラガラでした!」
夫から興奮したメッセージが届いた。El Museo Reina Sofíaってこんなだったかなと思い調べたら、El Palacio de Cibeles(シベレス宮殿)だった。夫には「とてもきれいな建物だ!」と返事をしておいた。
しばらくすると、この写真が届いた。
マドリードに行ったのは、このためであった。電話でいろいろ相談に乗ってもらっていた担当の方とはせっかくだから日本語で話したかったらしいが、なかなか言い出せずスペイン語で話すことになったのを残念がっていた。午前中のアポで必要書類を提出し、午後にまた書類を受け取りに行くというプランであった。
とても道が広い。誰も歩いておらず、この近くの木陰で涼みながらボカディージョを食べたと言っていたので、その時の写真らしい。凍らせていったColaCaoはまだキンキンに冷えており、とてもおいしかったとのことだった。
書類を受け取った後、時間があったため日本のお店に立ち寄るも何も買わずにでてきたらしい。レンコンチップスとかぼちゃチップスに興味を示し、もう少しで買いそうになったが、5分後にはMUJIの誘惑に打ち勝ったので自分はとてもえらいのだというようなことが書かれたレポートが届いた。
以前、どういうわけか「UNIQLOのモデルになろうかな」と言っていた夫であったが、「なろうかな」と言ってなれるものでもないと思う。そして、ここでも何も買わずにでてきたらしい。買い物嫌いの人が何をしに行ったのかわからないが、もしかすると少しだけでも日本を感じたかったのかもしれない。
みんなの乗っている車が僕たちの町のそれよりうんと高級なんですよ、とのことだった。免許も持っていない私には何のことやらわからないが、あらゆる面で首都のにおいを感じたということが言いたかったらしい。青空にたくさんの国旗がはためいている。
スペインの旗をいたるところで見たようで、これも「ザ、キャピタル」を感じた理由の一つなのかもしれない。その証拠に同じような写真が何枚も送られてきた。この国旗は特に大きかったらしく、写真とともに「大きい」を表す言葉が表現を変えていくつも添えてあった。さぞかし大きかったに違いない。
アルカラ門をバックに一枚。
予約していた夕方の電車に乗るべく駅に向かう。
車内ではフランスの映画を見たそうだ。
斯くして、マドリード日帰り旅の写真報告は終わった。
宇宙から帰ってきた夫が言う。
「1ユーロしか使わなかったんです!」
バックパックには、木板の代わりにボカディージョ×3、バナナブレッド、マグダレナ、バナナ、ビスケット、日本の友人が送ってくれた羊羹、凍らせたColaCao 500mL、凍らせたアイスミルクティー 500mL、凍らせた麦茶1.5L、アグアコンガス 500mL、オレンジジュース 200mL、水 1.5Lを詰めて出かけた夫だが、お昼はレストランでと思っていたら思いのほか持っていった食料が大量で、外食どころではなかったらしい。持っていきすぎである。考えてみたら、砂漠にでもいくような装備であった。私にも責任がある。
1ユーロをどこで使ったんだろう。
すっかり田舎暮らしが板についた夫の話を聞きながら考えたがわからなかった。
「アトーチャ駅のお手洗いですよ!」
使用料が要るお手洗いだったらしい。
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