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煎茶が足りない en Roma
「計算を間違えました。煎茶が足りません。どうしたらいいでしょうか」
夫から携帯にメッセージが届いた。
修学旅行の引率で、夫がイタリアに行っていた。
2023年6月のことだ。
長い間下書きにおいてあったのを忘れていた。
テトリス
一週間ぐらい前から、行きたくない、行きたくないと駄々をこね、スーツケースの準備に大層時間がかかった。
「イタリアで何が買えるかわかりませんから」
そんなことを言って出発前日に準備したのがこれだ。
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飲み物はオレンジジュース6パックのほかに、水、アーモンドミルク、
ペプシ、煎茶、水だし煎茶、ほうじ茶を入れている。
今回も、行き先は砂漠ではない。大都市ローマだ。
まるで子どもの遠足だ。
葛根湯、青汁、龍角散、塩分チャージ、忍者めしは私の方で準備し持たせることにした。
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500g分作ってほしいと出発前日に注文を受けた。
優しい優しい私は怒りもせず、
そしてイタリア土産を期待する気持ちから
500g分をせっせと焼いた。
いつもテトリス(パッキングのこと)に時間がかかるのに、今回は荷物が少ない。一人分ということと、滞在するホテルでの朝食やレストランなど既に予定が細かく決まっているので、持っていく食料も少なかったらしい。
洋服を入れてもスーツケースの半分は空だったようだ。
「きっと普通は皆スーツケースにそのぐらい余裕を持って旅をしているんじゃないかなあ」
「そうでしょうか。スペースがあったら、入れたくなるのが人間というものです」
と言いながら、絶対読まないだろうというような本と自分でつくった味噌をスーツケースに詰めていた。
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〇印は「まだ入れていません」を示す
◆
「お義母さんのお菓子袋はどこですか」
以前、母が「はい、あなたにはこれ」と言って、チョコレートやビスケットなどのちょっとしたお菓子を巾着袋に入れて夫に渡していたらしい。外出時は、その袋を持って出かけるのが習慣になり、今ではお菓子袋がないと旅行にも行かなくなってしまった。
慣れというのはこわいものである。
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今では私がお菓子袋を夫に持たせている。
「引率」という響きだけでとても大変そうだが、煎茶やらお菓子袋を持って行った夫がどうやってその仕事をこなすのかはわからない。
修学旅行の数日前、夫の学生さんたちにばったり会った。
・朝、寝坊しないように
・たっぷり水分補給
・ピザは1日1枚まで
冗談で、夫についてはこの3つを気をつけておいてねと学生さんたちに言った。
中学生の彼らは嬉々として、ミッション!、ミッション!と叫んだ。
出発当日
持ち物の最終チェックを済ませ、同僚との待ち合わせ場所まで夫を送っていく。
無事、飛行機に乗ったと連絡があった。
その後、送られてきた写真とともに、夫のローマ旅を振り返りたい。
「写真を送りますから、見たらあなたは返事をしなければいけませんよ」
そんな脅迫めいたことを言って、夫は出かけて行った。
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ゲートが変更になり出発が遅れたようだが、無事にローマに着いたようだ。
「アウェイです。生徒さんたちが元気いっぱい過ぎます!」
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このとき既に22時ごろ。
ガイドさんの案内で、バスでホテルに向かったようだ。
ところが、着いたホテルは、違うホテルだったらしい。
早速おかしい。
夜ご飯は23時前にKFCで食べることになったという。
学生さんたちはKFCに大層喜んだとか。
ホテルに急須がないので、煎茶のパックを直接コップに入れて飲んだらしい。そんな写真を見ながら、私は寝ることにした。
ローマ引率
翌朝、ホテルで朝食を済ませ、ローマの街へ出かけたようだ。
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普段、旅行をするときはこけしを連れて歩いている。もう10年以上になる。私たちの旅のパートナーだ。
しかし、今回の旅では代わりにこちらを持って行くと夫が言った。
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このあたりから、自撮りも送られてくるようになったため、以前のマドリード1ユーロ旅のように、画角がおかしい。
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雨が降っていたため、慌てて何も考えずに入ったところが観光客用のレストランだったようだ。
あれはぼったくりだ!と皆の意見が一致したらしい。
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たくさん写真が送られてくるので、この人は本当に引率をしているんだろうかと不安になったが、一応ちゃんとやっているらしかった。もう一人の引率の先生から、来年も是非あなたと組みたいとラブコールがあったそうだから。
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めちゃくちゃおいしかったらしい。
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前日の二の舞にならないよう気をつけたかったらしい。
このレストランは大いに気に入ったらしい。
カルボナーラとコトレッタにしたようだ。
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よくお店の人に止められなかったものだと思う。
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夫はなぜかティラミスのことを「テラミス」という。
面白いのでそのままにしてある。
ローマのテラミスはおいしかったらしい。
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お店の前に飾られていた車の前で写真を撮っていた夫は、オーストラリア人の男性に話しかけられたようだ。
「なんのためにそんなことをしているの」
「妻に送るためです」
「ほほお!それはおもしろいね」
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青空にこの姿勢の良さが映える。
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半旗がかかげられていた。
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「あー、かわいい!」
日本語が聞こえ、びっくりした夫は振り向いた。
夫「あ、これ日本で買ったんです」
日本の方1「え??そ、そうなんですか」
日本の方2「さ、さようなら」
夫「さようなら」
急に日本語で返事をした夫に、日本人の観光客の方たちは軽く引いたようだ。申し訳ない。
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私がだんだんいらいらしはじめたころ。
バッファローチーズピザなるものを食べたらしい。
ピザは1日1枚はかろうじて守ったとのこと。
私がミッションを課した学生さんが夫のことを毎日見ていてくれたらしい。
どっちが引率しているのかわからない。
リトル忍者チキンの写真を結構な枚数撮っていた夫は、この後イギリス人の男性にも質問されている。
「それはなんですか」
「リトル忍者チキンの写真を撮っているんです」
「へえ、なるほど!後でインスタとかに載せるの?」
「いいえ、ただ撮っているだけです」
「……うん、きっとね、その方がいいと思うよ。自分用だけに撮っておいたほうがね、うん、それが一番だな……」
小さいマグネットをいろいろな場所に置いて嬉しそうに写真を撮ってい様子は、多少なりとも怪しく見えたのかもしれない。インスタなどにアップして、これ以上怪しく思われないように、とのアドバイスだったようだ。
ローマ、自由行動
夫は旅行に行くと必ず現地のスーパーに行く。
いつもこのnoteを読んでくださっている方はご存知かもしれない。
今回は引率なので、まだ一度もスーパーに行けていなかったが、自由行動の時間がやってきた。
学生が聞いた。
「先生はどこに行くの?」
「そうだなあ、スーパーかな」
そう答えた夫に、中学生たちはいくつもの質問を浴びせた。
なんで旅行に来てまでスーパーに行くの?!
おしゃれなお店とか美術館に行った方がいいでしょ!どうして?
スーパーに行くと、地元の人たちのリアルな生活の一部分が見えるでしょう?そうか、みんなこういうものを食べているのかって。
地元でどういうものが売られているのか、スペインでも買える商品がいくらぐらいで売られているのか、何かここでしか買えない面白いものがあるか、地元のスーパーを見ればその国の経済やいろいろなことが見えてくるよ。
そんなことを答えたらしい。
すると、学生数人が、半信半疑ではあるものの、まあ先生がそう言うなら一度行ってやってもいかと、夫と一緒にスーパーに行くことにしたらしい。
数分後、興奮した声がスーパー内に響いた。
「先生!水はキオスクで買うより、こっちのほうが安いよ!」
「先生!これ、スペインの方が安い!」
「何、こんな味のお菓子見たことない!!」
「ほらほら見て!僕の好きなこのお菓子は、こっちで買ったほうが得だな!」
「3センティモ!スペインより3センティモ高いー!」
初日のレストランでぼったくりにあった学生たちは、「ローマは何もかもが高い」、「何もかもがぼったくりだ」と思い込んでしまったようだ。そんなわけはないのだが。
アンダルシア田舎の中学2年生、1ユーロの価値がどのぐらいかもこのときに初めてわかったらしい。
毎日の予算が決まっていて、これだけしか使えないという中で、レストランでその日の予算を使い果たした彼らは、買い物をするのもおっくうになっていた。そんなときに行ったスーパー(カリフール)で、夢のような体験をした。ああ、僕らはローマでも生きていける!と。
すっかりスーパー巡りにはまってしまったようだ。
最初は5人の学生しか来なかったようだが、その後の自由行動時間には、だんだん学生が増えてしまい、最終的にはほとんど全員がスーパーに来てしまった。それ以来、いつ、いつスーパーに行けるの??と聞き始める始末で、ゆっくり一人でスーパーに行きたかった夫の希望はかなわなかったようだ。学生さんたちと夫が皆でスーパーに行くところを想像するだけで笑ってしまう。
中学生ということで、これまで自分たちだけでスーパーで買い物をしたことがなかったのだろう。子どもだけの目で見た地元のお店の様子はとても刺激的だったらしい。
そんなこんなで4泊5日の旅行を無事に終えて夫が帰ってきた。
ほぼ一年ぶりに下書きと写真を見直し、こんなことを昨年はやっていたのかと思うとどっと疲れた。同時に、たくさん笑わせてもらった。
間接的ではあるが、旅の振り返りは楽しいものだ。
ローマで煎茶が足りなかった夫は、帰ってきてからいつもよりたくさん煎茶を飲んだ。これからの旅の持ち物リストには、「煎茶(多めに)」が加わると思う。
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スペイン、メリダつながり
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おまけ
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さて、リトル忍者チキンはどこに隠れているでしょうか。
わかった方は、今日いいことあります。
ローマにはいつか行ってみたいと思う。
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