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幼い頃から漫画を描き続けて書籍出版の夢を叶えた漫画家の話【まゆんさんの半生】

まゆんさんは、自閉スペクトラム症を持つ息子さん(太郎ちゃん)との日常を、WEB上で漫画にして発信している現役の看護師。

まゆんさんとの出会いは2年前。インスタグラム。

当時私は、偉人の自己紹介を妄想で考えてアフレコする"妄想偉人自己紹介"というアカウントを運用していた。(恥ずかしい・・・)

全くバズらない私のアカウントに対して、まゆんさんのアカウントはたくさんのフォロワーさんとファンの方で溢れていた。私もその中の1人。

今までに見たことのないような絵のタッチ
クスっと笑えてほっこり出来るエピソードの数々
エピソードに対するまゆんさんの興味深い解釈

気付けばインスタグラムを開くと必ず足を止めるアカウントとなり、仲良く出来たら嬉しいなと思っていた矢先"まさかまさかの"まゆんさんも私の"妄想偉人自己紹介"に足を止めてくれていた。「正岡子規が俳句で自己紹介する動画、めっちゃ面白いですね!」と。(どんなアカウントや)

その後、私は諸事情によりインスタグラムから離れていたのだが、インタビュアー見習いとして戻ってきた時に「待っててよかったです」とDMをいただいた。そのDMがきっかけで今回のインタビューに繋がった。

なぜまゆんさんにインタビューをお願いしたのか。

まゆんさんがインスタグラムを中心に発信している漫画の中で、まゆんさん自身が主人公となる話はまだ少ない。太郎ちゃんを初め、ほとんどが家族のお話だ。

私は漫画や書籍を見る度に"著者本人がどういうヒトなのか知りたい"という衝動に駆られる。書籍の後ろに書かれている経歴だけでは足りない。そのヒトが"どういう生き方をしてきたのか"も知りたい。それを踏まえた上で見る作品は、また違った見え方で読者を楽しませてくれるからだ。

このインタビュー記事を見ていただいている方の大多数は、まゆんさんのアカウントに日々足を止めているファンの方だと思う。

記事を読み終えた後に、もう一度まゆんさんの漫画を見てほしい。

昔から知っている方も、最近知った方も"まゆんさんの生き方""太郎ちゃんへの想い"に触れることで、漫画の見え方が変わるはずだから。そんな楽しみ方があってもいいと思う。

(取材・文・編集/奥行太郎 写真/まゆんさん提供)

【プロフィール】まゆんさん

長崎県五島列島出身。看護師でありシングルマザー。幼少期から絵を描くことが大好きで、自閉スペクトラム症で特別支援学級に在籍する息子の"太郎ちゃん"との日常を描いた漫画が、インスタグラムを中心に人気を博している。インスタグラムのほかに、リタリコ、ウォーカープラス、NAPBIZ公式ブロガーとして漫画、コラムを発信。2022年12月22日には初めての書籍となる『自閉スペクトラム症の太郎とやさしい世界』を出版。得意なスポーツはバレーボール。高校時代のポジションはセッター。

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幼少期から描き続けていた漫画


今回インタビューをさせていただくにあたって色々とまゆんさんのことを調べたが、幼少期のことはあまり語られていない。まずは幼少期の話からインタビューを始めた。

長崎の五島列島で産まれました。18歳までそこで過ごしてます。小さい時の自分は今と違って、めちゃくちゃ内向的でした。人前であまり喋れなかったんです。初めて幼稚園に登園する時に、母親が「娘は大丈夫ですか?」と幼稚園に電話していたことが記憶に残っています。よっぽど心配だったんでしょうね。"家の中では喋って外では喋らない"みたいな子でした。

このインタビューはオンラインで行ったのだが、顔を合わせての対面はその日が初めて。お互いに緊張していたとは思うが、内向的な一面は一切感じられなかった。まゆんさんが変わるきっかけとなったのは小学校の環境にあったそうだ。

幼稚園は人数が多かったんですけど、小学校は分校で子供の少ない学校だったんです。1年生と2年生までしかいなくて。同級生はたったの4人。そこで2年間過ごしたんですけど、人数が少ないからコミュニケーションをとりやすかったんですよね。和気あいあい、皆兄弟だ!みたいな。1人1人の関わりが密になるので「ここまで言っても大丈夫なんだ」「主張してもいいんだ」みたいなところを学んで性格が変わっていきましたね。

そんなまゆんさんは小学校からバレーボールを始めるが、それよりも前に始めていたことがある。そう、絵本や漫画を"描く"ことだ。気付けば幼稚園から今の今まで、ずっと絵や漫画を描き続けている。

物心ついた時から書いてますね。1年生の時に絵本を書いたのが初めてで。絵本や漫画が大好きで、それだったら自分も書いてみたいと思ったんです。その絵本の内容は未だに覚えています!
ちなみにそれも今と同じ家族モノなんですよ。クマさんの子供が成長していくっていうクマさんの大家族の話。それをなぜ描こうと思ったのかはわからないんですけど、小さい頃から家族モノが好きだったんですよね。ちびまる子ちゃんやサザエさんを見ていた影響もあったかと思いますけど、自分自身の"家族という場所"の居心地がよかったのも、影響しているかもしれません。

そんなまゆんさんが描く絵本や漫画を、誰よりも楽しんで、喜んでくれていたのがお兄さんと妹さんだった。なんと最近ではお父様も読むことがあるそう。

漫画を描いてるところを皆に見せていたわけじゃなくて、一部の子にしか見せていなかったと思います。良き理解者がお兄ちゃんと妹で、私の漫画を見てよく笑ってくれて「面白い!」って言ってくれてました。そういう意味では兄弟にしか見せていなかった感じですね。今も実家にその漫画を残しているんですが、最近では父親が読んでいます。

中学・高校とバレーボールを続けるまゆんさんだったが、この頃もまだ漫画を描き続けていたとのこと。"漫画家"という夢が明確に見えてきた時、立ちはだかったのは"進路"という壁。担任の先生から言われた言葉によって、一度夢を諦め看護師への道を志す。

バレーは中高と続けましたが、その間もずっと漫画を描いていました。家に帰って勉強せずにずっと漫画。引き続きお兄ちゃんも妹も見てくれていました。自分はずっと漫画家になりたいと思ってて、りぼんに投稿したりしてたんですけど、むなしくも通りませんでした。
漫画家を目指したかったんですけど、高校の進路相談の時に「手に職をつけてから目指しても遅くないぞ」と担任の先生に言われたんです。親からも「手に職を付けた方がいい」と言われていたので、じゃあ私は看護師になりますと。
小学生の時から看護師という職業のことを、母親から聞いていたんですが、看護師なんて絶対にならないと思っていました。きつそうだし、一生勉強しないといけない印象もありましたしね。でも給料は高いっていうことだけ幼心にも頭に残ってて。なんだかんだで高校の時にも職業体験に行ったりしたんですけど「あっ嫌いじゃないな」と思ってしまったんです。おばあちゃんが亡くなった時についてくれていた看護師さんを見ても、かっこいいと思いました。

猛勉強の末、高校卒業後看護師となったまゆんさん。働き出してからの現実に随分と戸惑ったそうだ。ただやりがいを感じることも多く、気付けば20年近く医療に携わることになった。

働き始めはめっちゃきつかったです。体力的にも精神的にも予想以上のきつさ。こんなにもきついんかと。拘束時間が圧倒的に長いですし、自分の予想したようには動けません。急変とかもありますし。いつも何かに追われている感じでした。
私はヒトの心の動きや内面的なこと、哲学的なことが好きなんです。駆け引きは嫌いですけど。患者さんとのやり取りの中でも「あぁ今相手の心がなんか動いたぞ」と感じることが多く、少しでもそのヒトの人生に携われたと感じることが、やりがいとなっています。
個人的に一番好きな作品。ばあば面白い。



インスタグラムに描き始めたきっかけ


そもそもインスタグラムに漫画を描き始めたのは何がきっかけなのか。実はインスタグラムの前に"はてなブログ"で太郎ちゃんとの日々を漫画にしてアップしていたそうだ。

初めは"はてなブログ"でアップしていたんです。今と変わらず太郎ちゃんとの日々を描いていました。それがちょっとだけ伸びたんですね。そのタイミングでブログを見ていた友達が「絵が独特で目を惹くし、文章も面白いからインスタで書いてみたら」と言ってくれて。それがきっかけですね。
そもそも太郎ちゃんとの日々を"はてなブログ"に載せ始めたのは、自分の日記にしようと思っていたんです。ブログとかだったら誰も見ないだろうし。そしたら閲覧数が増えてきたんでびっくりしました。絵のタッチは今も昔もずっと同じです。

冒頭に書いたが、まゆんさんは幼稚園から今の今までずっと絵や漫画、似顔絵を描き続けている。看護師として働く中で、一度だけ絵や漫画を描くことから離れた時期があったそうだが、テーマがなくて描けない時や気が乗らない時はないのであろうか。

そうですね、元々"描く"のが心底好きなんですよ。今インスタ漫画とかウォーカープラスさん等で連載をさせてもらってるんですけど、なんかヒトの気持ちの動きとか、ヒトの根底にあるものを表現して発信し続けたいと思ってるんです。
自分自身は普段から表現が下手なんですよ。嬉しいとか、悲しいとか、嫉妬するとか、そういう表現が苦手で。だから「何で自分はあの時こう思ったんだろう」とか「今の気持ちはなんなんだろう」とか、そういうことを後で振り返る機会が多いんですね。
その振り返りが、今描いている漫画になっているのかなと思っています。"描かなきゃいけない"じゃなくて"自分の気持ちの整理"として漫画を描いているのかもしれないです。だから続けられているのかな。
ある意味日記みたいなものなので、描いていたら自分でも気付きますもんね、こんなこと思ってたんだって。日常的にはボーっとしてる時に「ハァ!」って気づくこともあるので、それをメモしたり。私のことをあっさりしていると思ってる方が多いと思うんですけど、1つのことを深く考えるタイプです。

まゆんさんの漫画を見ていると、日々の細かな事象に対する観察眼に驚くことが多い。"日常"にすごく敏感で、中々ヒトが気付けないところにも気付ける。まゆんさんの人気の秘訣はそこにあると感じているが、なぜそこまで"気付く"ことが出来るのだろうか。

"もし自分が逆の立場だったら"っていうのを常々考えるんですよ。それは幼い頃からそうで。私は兄弟に比べて容姿が良くない方で、ある親戚に「あなたは妹に比べて可愛くない」と言われ続けてきました。そういう環境で育ってきたからか、自分の発言には気を付けますし"相手が今どういう気持ちか"ということをすごく考えるようにしています。
その時に私を救ってくれたのが、よく漫画で出てくる"ばあば"こと私の母親で。「あなたの容姿を悪いと思ったことなんて一度もない。すごく可愛いよ。しかも愛嬌もあるし、何より笑顔がいいから」って言われて。それを言われた時隠れて泣きましたよね。ニコニコしながら泣いてました。だからその親戚にはすごい感謝ですし、今の私があるのはその方のおかげです。


まゆんさんの作品の中でも特に心温まるストーリー



まゆんさんと太郎ちゃんの未来


日中は看護師として働き、帰宅後は好きな漫画の執筆、そして太郎ちゃんの生活に対する日々のサポート。まゆんさんはそれらの責任を一手に引き受けている。相手の立場に立って物事を考える余裕がなくなる時はないのであろうか。

太郎ちゃんの発達障害がわかる3歳頃までは、どうしていいのかわからない日々が続きました。「なんでそんなに泣くの」とか「私の言うことがわからないの」とか、ものすごく自分中心になっていましたね。
診断されてからは「あぁ、いけない、いけない。自分の気持ちを相手に押し付けすぎてたな」と自分で感じるようになりました。子供には本当に色々気付かされますね。私も一緒に成長できているのかなと思っています。
もちろん余裕がなくなる時もありますが、元々の性格や子育ての経験から、常々"理想を作らないようにしている自分"がいます。なんでも柔軟に動ける自分でいようと思うから、気持ちをいつもフラットにしていますね。「何が来ても大丈夫!」という感じで進もうとしているし、感情もあまり表に出しません。たまにパーッとなりたい自分もいますけど。
それでもモヤモヤした時は、、、とにかくもがきます。そしてこのモヤモヤはなんなんだろうと、意味を見つけるためにも誰かに話してますね。もちろん信頼のある人にです。私の場合はばあば。必ず何かのヒントが返ってくるんです。
違う誰かにもう少し話してみることもありますが、そうやって話してるうちに"本音を話している自分"に気付くんですよ。それは意図的に話してるわけじゃなくて"これが本音"だと後で気付く瞬間があるんです。そこまで来ると、モヤモヤに対する答えが出やすいので、とにかく1人で悩まないことが大事ですよね。相手が悩みを解決してくれることはないかもしれないですけど、ヒトに話しているうちに自分で悩みを解決します。

私もまゆんさん同様、子供がいて両親もいる。家族とも両親とも、いい関係を築けているが、ちゃんと子供を育てていけるのか、両親はいつまで元気でいてくれるのか等、家族を取り巻く未来を考える機会が多くなっている。最後にまゆんさんと太郎ちゃんの未来について聞いてみた。

そうですね、やっぱり太郎ちゃんの将来のことを考えますね。自閉スペクトラム症という診断を、もう本人には伝えたのですが、そこをクリアにした上で、太郎ちゃん自身が仕事に就けるのかどうか。そこが一番考えるところですね。
本人も今の状況はわかってきていて。自分はなぜ他の皆と違う特別なクラスなのかと。「出来ないことが出来るようになるために、今ここにいるんだよ」と先生も伝えてくれているので、そういう自分はわかってはいるみたいです。幸い本人を馬鹿にしたりする子が身近にいないのが、救いだと思っています。
私自身の将来の夢として具体的なものは本当になくて。ただただ皆が笑っていてほしいなと思います。太郎ちゃんが苦しんで育ってきた姿を見ているので、ずっと笑顔でいてほしいです。太郎ちゃんが笑顔になることを、私はずっと応援してあげたい。無理矢理何かをさせようっていう気はないです。何事も楽しんでやることが大事なので。
あっ、太郎ちゃんが描く絵はすごいと思っています。下絵なしで書くんですよ。面白い絵を描きますよね。発想がすごい。私の発想には絶対にない絵だなと。線をいっぱい書きたがるのも特徴です。絵の方で何か一緒に出来ることがあったらいいなと思っています。それをぼんやりと夢見てますかね。





◯△□ ◯△□ ◯△□





編集後記


12月に出版された書籍のタイトルは
自閉スペクトラム症の太郎とやさしい世界

太郎ちゃんやまゆんさんを取り巻く環境を"やさしい世界"と表現されているのだと思うが、今回インタビューをさせていただき気付いたことがある。

その"やさしい世界"はまゆんさん自身が創っているということだ。

全てを書ききることは出来なかったが、インタビュー中まゆんさんの口から「本当に家族に色々と気付かされています」とか「周りのヒトに支えられています」という類の言葉が口癖のように出てきた。直接話した本人だから断言出来るが、それは上辺だけの言葉に聞こえなくて"心の底から湧き出た気持ち"を言葉にしているように聞こえた。

まゆんさんが持ち続けている周りへの感謝の気持ちや、物事へのフラットな見方や考え方が"やさしい世界"を創り出している。そして何よりもまゆんさんが描く漫画や絵が"やさしい世界"の連鎖を生み出している。







インタビューの最後におこがましいお願いをした。
「私の似顔絵を描いてもらえたら嬉しいです」と。

このお願いは、これまでのまゆんさんのインタビュー内容と真逆の"全く相手のことを考えないお願い"だ。書籍化に向けてめちゃくちゃ忙しいタイミングだったと思うし、私の顔を見たのはオンラインの2時間だけ。そんな中でもまゆんさんは私の似顔絵を描いてくれた。これもまゆんさんが創り出す"やさしい世界"

まゆんさんは書籍を出すという夢に向かって描いていたわけではない。純粋な気持ちで日々の気付きを描いた先に、自分の夢がつながっていた。

長年の夢であった書籍の出版を、"ファン"ではなく"1人の友達"として心から祝福いたします。

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