『機動警察パトレイバー2 the Movie』(劇場アニメ)
視聴環境:U-NEXT
※ネタバレします。
【内容】
1999年、東南アジア某国で、PKO部隊として日本から派遣された陸上自衛隊レイバー小隊が反政府ゲリラ部隊と接触し、本部からの発砲許可を得られないまま一方的に攻撃を受け壊滅する。独断で敵装甲車に反撃し、たった一人の生存者となった小隊長がそこで見たのは、異教の神像が見下ろす古代遺跡であった。
【感想】
ちゃんと元々パトレイバーのもっているコミカルな要素を残したエンタメ映画ではありつつも、リアティーを感じさせる絵作りだと感じました。
説明台詞が多いながらも、上手く映像としての見せ場にしていると感じました。
台詞が上手いなあと…
ここら辺は脚本の伊藤和典の手腕なのかあと思ったりしました。
その後の『攻殻機動隊』などの押井守との作品や、平成ガメラシリーズなどをその後の日本のアニメや特撮に与えた影響は大きい脚本家だったのだと、改めて感じたりしました。
時間のある時にでも、ここら辺の脚本も読んでみたいと思ったりしました。
映画ぽい絵作りとかも、この時代のハイクオリティーなアニメ映画にしかない説得力を感じました。Aftereffectsなど動画ソフトによる撮影前の映像としての説得力というか…アナログならでは、質感の強さとか…
昔のかなり前時代的なCGと、エアブラシなどを多用した精緻に描き込まれた背景とか…
画面の構図とか絵作りとかは、後のエヴァンゲリオンへの影響とかもあったのだとも感じました。
庵野秀明のエヴァやシン・ゴジラなどへの映像の作り方への元ネタは、ここら辺から持ってきている部分も大きいんだろうなあと感じたりしました。
映画公開当時の自衛隊によるPKO活動をテーマとすることで、戦争と平和についてを問い直していく…
ここら辺の社会問題を扱いつつも、きっちりとエンタメにしていく手腕は、上手いし、見どころがあるなあと感じました。
リアリティーのある古代遺跡内でのロボットによる戦闘とかも、当時のロボットものでは斬新な印象を持って見たことも思い出したりしました。
声優に根津甚八や竹中直人なんかが出ているのも、映画としてかなり良い味出していると感じました。
登場人物の住む家や部屋が、それぞれ当時の日本の普通雰囲気の感じが良く出ていて、それもある種のドキュメンタリー的な雰囲気を醸し出しているなあと…
様々な謎をミステリー仕立てで探っていくことで、物語の求心力を維持して、所々にハイクオリティーな状況描写や戦闘シーンを導入することで、飽きずにみさせることで、エンタメ映画として成立させているなあと…
というか、この映画の最後への展開は、パトレイバーという作品世界を終わらせる気満々なのもすごく伝わってきました。
ここら辺の組織内の不和や、登場人物たちの体制への反抗といった展開も、エヴァぽい構造だなあと感じたりしました。
オリジナルビデオシリーズやテレビアニメシリーズ、漫画などのメディアミックスで積み上げてきた世界観をメタ的な視点で利用し、或いは巧みに破壊していくのだから、当然シリーズもの以外では出すことの出来ない物語の重層性や物語を紡ぐことが出来ているんだなあと…
ある種、こうした安定的な世界という作品世界をベースした物語の根幹をぶっ壊すのだから、それは盛り上がるし、話としても面白くなるよなあと…
『ドラえもん』の二次創作の最終回が面白いと同じ理論で、ある種の反則的な手法だなあと…
あれ、『うる星やつら ビューティフルドリーマー』も『攻殻機動隊』もそれまであった世界観を壊すことで、面白くしているパターンかも…
そういえば、エヴァのアニメシリーズの最終回も、お決まりのパターンのキャラクターや世界そのもの、アニメという構造そのものを崩壊させるという反則技で話題になった作品だったなあと思い至ったりしました。
そういう面では、エヴァ以降の庵野秀明の作品って、押井守の影響って大きいのかも知れないと感じたりしました。
個人的には、その後作られる『攻殻機動隊』以降の押井守の他の単発もので、ここまでの作品になりきっていないのは、そこら辺の作り上げられた世界を批評的に再構成して、物語を作り上げるという手法が使えないものだったりするのかも知れないなあと感じたりしました。
まあ、押井守以外のパトレイバーの企画を立ち上げたメンバーは、面白くなかったことは想像に難くないなあと思ったりしました。
とはいえ、この頃のアニメが持っていた可能性を思い出したりしていました。
描き込まれたリアルな現実に緻密に取材した背景美術と、市井の人々のリアルな生活空間を丁寧に描いていくことでしか醸し出すことの出来ない独特の映像感覚…
1993年に作られたこの作品の後、1995年から放映されたエヴァンゲリヲンの影響で、ここら辺の作品に存在したある種の開かれた世界観が、一気に自閉的に変わっていったような…
押井守のこの後、攻殻機動隊で更にパトレイバーで進めていた手法を突き付けていった感じもありますが、それまであったエンタメ映画としての側面がなくなっていったような…
この傾向もある種の自閉的な傾向なのかなと思ったりしました。
時代の雰囲気の影響も大きかったとも思いますが…
最近まで以前観た映画やアニメなどを見直すことはほとんどなかったのですが、ここ数ヶ月ほど、古い作品を見直していて、かなり色んなことに気付かされたりしています。
今回、10数年ぶりに見直していて、こんな内容だったのかと、改めて驚かされたりもしました。
東京都心のど真ん中にまき散らせれる色付きの毒ガスを思わせるガスとか、その後のサリン事件を思い起させたり…
オウム信者が『ガンダム 逆襲のシャア』に影響受けていたとかって言っていたこと考えると、もしかして、この映画が地下鉄オウム事件の発想の元になっていることもあり得るのではないかとも、思ったりしました。
前作の映画の主犯格は映画冒頭に自死していますが、この作品の首謀者は最後逮捕されて終わるというそこら辺は、より人間的な業とかみたいなものを描こうとしているとも思える展開で悪くないなあと…
ただこうした事件を起こすような人間は、必ずしもそんなに理路整然とした理由なんてなかったりすると、オウム事件の時に嫌というほど見せつけられたりして、こういった文学的な雰囲気でテロを描くことの弊害なども感じたりもしました。
かなりとっ散らかった感想となってしまいましたが、ここら辺の時代の変節点となったような作品は、見直す度に物凄い発見や気付きがありますね。
ネット検索していたら脚本家の伊藤和典の古いWEBサイトが出てきて、この作品に関して「戦争に対する押井守の研究論文」という記述が出てきたりして、興味深いなあとか…
押井守によるロボットアニメという枠組みを使った戦争論といった内容のアニメだと感じた作品でした。
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