見出し画像

『悪名の棺 笹川良一伝』(著: 工藤美代子)

【内容】
戦前戦後と活躍した右翼の大物、笹川良一の生涯を描いたノンフィクション。


【感想】
幼い頃からある意外な人物が幼馴染であり、よく遊んでいたのだという…
その名は、川畑康成。
右翼の大物として、戦後まで活躍した笹川良一と、ノーベル文学賞を取った川端、2人はその後、川畑が自殺するまでの交流があったのだという。
ただこの本は、対照的な生き方をした2人の対比的に描くことで日本の大きな時代のうねりを描く…
なんて本ではなく、文の末尾に『人類皆兄弟』というよくわからない一文(親父ギャグ?)を挟みながら、わりと昭和な価値観で笹川を評した本でした。
最後に、この親父ギャグ(?)が回収されるような文章的な工夫がされているものだとばかり思っていたので、特になにもなく本が終わっていたので、それも何だかなあといった気持ちにさせられました。


笹川良一といえば、私の小さい頃、テレビCMで盛んに「人類、皆兄弟」とのキャッチフレーズを流していた日本船舶振興会に出ていたおじさん(お爺さん?)で、競艇の牛耳っていた右翼の大物という印象以外なかったのですが…

笹川はガキ大将として育ち、浄土宗の寺に修行で2年入れられ、その影響もあって物凄い倹約家。
父から相続した資金で、株や小豆相場でその資産を一気に増やして億万長者となり、色々会社経営を行うようになる。その中には、北大路 欣也の父の市川右太衛門の会社もあり、そこでは社長をしていたり…
その後、国粋大衆党での政界への進出…
自身で買って操縦する飛行機でヨーロッパに行き、イタリアへ行きムッソリーニとの会談し…
そして、巣鴨プリズンに収容されている時に、東條英機で親密になり…
その他、児玉誉士夫や山本五十六との関係など、興味深い人物だなあと思いました。


この本では、男の下半身は別人格的な表現が頻発するので、そこら辺は嫌な人はちょっと受け付けない本ではないかなあと思ったりしました。
ちょうど、この本を読んでいる途中で、声優の大物の古谷徹が不倫でコナンなどの声優を降板させられたり…
日本最大のドラッグストアチェーンであるウェルシアのトップが不倫で辞任したりとか…
今の時代に男性がこの書き方でノンフィクション書いたりしたら、色々と炎上しそうだなあと思いながら読んでいました。

本の後半では、笹川が晩年の愛人に語っていた、「200歳まで生きる」と言っていたという記述が出てきていました。
うーん、最近読んだ本で見掛けた気が…
何かと思ったら、先日読んだ『成瀬は天下を取りに行く』(今年の本屋大賞の本)で、主人公の女子高生が語っていたセリフでした。
天下を取り行く女子高生の成瀬と、右翼の大物として日本で「天下を取った」笹川…
成瀬のファンに怒られそうだなあと思いつつ、考えてみると、200歳まで生きる発言とか、は昭和の保守系のおじさんとかが冗談で言いそうなセリフでもあるなあとも感じたりもしました。
このセリフの後、40歳以上離れた女性を何年もかけて外堀から固めて、愛人にするまでの過程が描かれていたり…
今だったら完全アウトなエピソードで、更にてんこ盛りのエピソードが続いていきます…
一人の才能ある女性舞踊家が、日本の大物フィクサーの愛人として生きなければいけなかった話として読むと、これはこれでなかなかヘビーな話しになりそうだなあとも思ったりもしました。
笹川が『天下』といったとすると、それは金、権力、女、社会的な評価といったものへと繋がっていくんだろうなあとも思い、そう考えると、成瀬がいう『天下』は物凄く抽象的だなあと…
『虎に翼』で、日本に女性弁護士が生まれていた時代は、こうしたゴリゴリの昭和のおじさんが活躍していた時代だったのだと思いました。


ただこれは筆力のある脚本家などによって映画化したら、戦前戦後の日本を裏から描いた『ゴットファーザー』以上の凄い作品になるのではないかと感じたりしました。
まあ怖くて、そんなものを映像化するような人間はいないでしょうが…
ハリウッドでは、実名で生きている政治家や経営者を題材にした映画がバンバン作られていたりするのをみると、日本でもそうした感じで作品作りが出来るようになると、題材になりそうな人物は無数にいるんだろうになあと思ったりしました。


ちなみに、自分個人には、この本の笹川良一礼賛的な文章に、かなり違和感を感じましたが…色々と感じるところもあり、もっとこの時代に関する様々なノンフィクションも読んでみたいとも思えた作品でした。

https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344420007/

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?