感想文『女の答えはピッチにある 女子サッカーが私に教えてくれたこと』

WEリーグが発足する2021年のサッカー本大賞を受賞した本書。帯の「韓国で「真のフェミ本」と話題沸騰!」という惹句に引いてしまう人もいるのでは、と懸念していたので、この受賞がより幅広い層に読まれるきっかけになると期待する。

さて、WEリーグが成功するためには、いかに女性のファン・サポーターを獲得するかがカギであると指摘されているが、本書にはそのヒントが散りばめられている。

主人公のホンビさんは、サッカーチームに入ればサッカーファンに入ればサッカーファンとたくさん会えるのではないかと期待していた。しかし、思ったよりたくさんのサッカーをプレーする女性たちの多くは実際のサッカーファンではなかった。プレーするきっかけと観戦するきっかけは違うのである。

そして、女性がサッカーファンであることを隠すのは、サッカーファンであることがわかるとマンスプレイニング(男性による、ジェンダー的偏見に端を発した、傲慢や無視がベースにある説明)に巻き込まれてしまうから。男性の私がなでしこリーグの観客席にいるだけでもちらほら聞こえてくるのだから、当事者たる女性はどれほど巻き込まれていることか。

本書の終盤では、元プロ選手であるチームの同僚と一緒に、韓国女子プロサッカーリーグのチャンピオン決定戦を観に行くくだりがある。プロに至るまでの体罰や厳しい練習、犠牲になる個人の生活、負傷の苦しみ、過酷なリハビリ。それらに耐えてプロになっても、手にする報いは悲しいほど軽い。チャンピオン決定戦でもチケットは無料。2500人で興行的には大成功。こうした厳しい現実が語られている。しかし、描かれた試合の最終盤から試合後までの光景は実に感動的であった。未読の方のためにくわしくは書かないが、ピッチ上の選手にいかに共感できるかが、応援の輪を広げるカギであることがわかる。

そうだ、本書の読書会をWEリーグの選手と女性限定でやってみてはどうだろうか。体育以外でのサッカーのプレー経験や女子サッカーの観戦経験が無くても、本書を通じて共感しあえるところが見いだせると思う。選手たちがどのようなことを考え、感じ、どのような人生を歩んできたかを知れば、自分ごととして応援したくなるにちがいない。

最後に、本書を読了してなお残る謎がある。それは、ホンビさんのパートナー(夫)とは一体どんな人なのか、ということである。
夫に関する情報は実に少ない。わかっているのは、ベテランKリーグファン(城南FCファン)ということくらいか。
でも、
「いやあ、サッカーってホント大したもんだな。キミが酒以外の何かに欲を出すとは」とやや驚いていた(そしておちょくっていた)。
という一文から、実に面白く、そして魅力的な人物ではないかと推察される。何より魅力的なホンビさんと結婚し、彼女のサッカーへの挑戦を後押ししているのだから。もしホンビさんの次回作があるのなら、ぜひパートナーの話が読んでみたい。

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