見出し画像

政府、国民に何を隠している。

激しく、反対する声があったという。明治の元号が終わった1912年、咢堂(がくどう)・尾崎行雄が東京・荒川堤の桜を接いだ苗木3千本をべいこくに贈ったときのことだ。「門外不出の国の花」を外国に贈るのは「許すことのできない暴挙」とされたからだとか。

日露戦争の講和で労を尽くした米国に、尾崎は感謝を示そうとした。だが、多くの日本人はそうした事情を知らされておらず、米国に「恩義を感じている人は少なかった」。娘の相馬雪香さんが、そう振り返っている。返礼のハナミズキは戦中、切り倒された。

時は移り、あの戦争を遠く経て、おととい日米の首脳がワシントンで会談した。岸田首相の訪米お土産には、桜の苗木250本も含まれた。もはやそれに反対はないだろう。ただ、喜色満面の首相を見ていうと、どうにも不安になってくる。

なぜなら、首相は語っていないからだ。日本の安全保障が米国と一体化していくことが、いかに危険をはらむものか。同盟強化の負の面について、国民への説明ははぐらかしばかりである。

日本の外交は、不安定な一本足打法に陥っているのではないか。米国も豪州も欧州も、中国との首脳外交を進めているのに、日本はうまく出来ていない。米国の顔色をうかがうだけの外交ならば、危うくてしかたない。

荒川の土手にはいま、戦後に米国から里帰りした五色桜がある。きのう訪ねると、ウコン桜が散り始めていた。薄緑の花びらがヒラヒラと舞う。春の風に若葉が小さく、揺れていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?