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天狼院、もうあかんかと思ったわー《天狼院通信》

記事:三浦 崇典(天狼院書店店主)

昨日のことである。昔からのお客様が京都天狼院の1階にいて、出張で京都に来ていたスタッフの平野とこたつ席で話をされていた。8月からの新しい講座にお申し込みに来られたという。僕を見るなり、お客様は、

「ちょっと、大阪の店舗は撤退するし、本もどんどんなくなっていくし、天狼院、もうあかんかと思ったわー。京都だけでも残ってよかったー」

僕も平野も苦笑いである。

「ご心配かけてすみません。コロナのときは本当に大変でした。でも、本当におかげさまで天狼院、V字回復をはたしているんですよ。書籍を減らしたのも一時的なもので、普通に他と同じ様に本を売ることは戦略的にやめたということで、実は映画を創っている百秘本を中心に、今、全国でまた書籍を増やしているんですよ」

伝わらないだろうな、と思いつつ、それでも真実を言う。

それもそうである。関西のお客様からすれば、大阪の店舗が撤退し、もうダメかと見えても致し方ないだろう。

目に見えて分かりやすいのは、店舗数など、リアルな姿だ。

けれども、僕らはここ数年間、常に数値を追っていた。

徹底して、表からは見えない数値と向き合ってきた。


その結果、2021年には、年間で1億2千万円の赤字だった償却前営業利益が、最新の決算ではなんとプラスに転じることができたのだ。

4年ぶりの償却前営業利益プラスに返り咲きである。

グラフで見てもらえば話は早いが、売上自体はわずかに減ったが、償却前営業利益が文字通りの「V字回復」をしているのが見て取れるだろう。

いったい、これはどんなマジックを使ったのか?

まずは、継ぎ接ぎのように池袋に広がった小型店舗を集約するための旗艦店構想が持ち上がり、最終的に最も立地と集客力、ブランド力のある渋谷宮下パークの渋谷店を旗艦店とすることにした。

本来、渋谷店は「天狼院カフェSHIBUYA」の元々の名称通り、カフェ主体であり、写真のギャラリーの機能もあり、書店としての旗艦店にするには不都合だった。これを、僕の設計とスタッフたちの尽力で、天狼院書店「東京天狼院」化を図った。今では書籍販売のスペースが以前の2倍以上にしている。

まるで、戦艦や巡洋艦として作った船を、空母に改装するような大掛かりな作業だった。

ゆるやかに、徐々に、けれども着実に渋谷店の旗艦店化は進めていった。

ここに、ハンギングチェアの「リーディング・チェア」や、百秘本、読継本、本を満載にした「本の玉座/ブック・スローン」などの新たなるギミックを”密かに”展開した。

”密かに”とは、そのほとんどを、インターネットなどでは発信せずに、現地の初めて見たお客様がどう反応するのか、見極めようとした。

思った以上の反応で、映画公開前から、百秘本などは想定以上に売れた。

渋谷店の店舗としての大改装は、60%まで終わっているが、今度はメニューの大改変があり、イベントの大改変が待っている。

つまり、渋谷店の旗艦店化は、サグラダ・ファミリアの様相を呈してきており、この直近の決算にはさほど影響していない。

渋谷店の改装が数値に現れてくるのは、今期である。

では、何がV字回復の要因となったのか?

まずは徹底したコスト削減である。とにかく、コストを削減し、一番多かった期と比べて、直近の決算期は年間で約1億円経費を削減した。パーセンテージとして約30%ほどの削減である。池袋の店舗はすべて渋谷に集約して、売上を落とさなかった。一方で、池袋のスタッフも渋谷に吸収し、渋谷店に行けばわかるように、今は渋谷店では社員のスタッフがかなりの常駐している。

大阪の店舗の撤退、池袋の店舗の機能すべてを渋谷に集約することで、店舗と拠点の数こそ前期は4店舗減ったが、売上は8.3%しか落ちていない。しかも、全体の売上は落ちたのに、全体の粗利益はなんと15.5%増の大幅増となった。

そう、ここが外からは見えない部分だ。

我々は絶体絶命のピンチの中で、徹底したトリアージを繰り返していた。

優先順位として、真っ先に決めたのは、

「”一時的に”通常の書籍を普通に売ることのほとんどをやめる」

ことだった。同じ商品を他でも買えるし、そもそも、都市型の店舗だったので、お客様にとって書籍を買う代替店舗はいくらでもあった。緊急事態宣言をしていた我々にとって、ここは拘るべきポイントではなかった。

そう、落ちた売上の大部分は、通常の書籍だ。粗利率が極めて少ないので、ここの売上を”一時的に”放棄したところで、全体の利益にはさほど影響しないことがわかっていた。

ただ、もしかして、注意深くこれを読んでくださった方は気づいたかもしれないが、通常の書籍の売上のほとんどを諦めた割に、売上の落ち幅が小さくないか、というポイントである。

つまり、書籍以外のほとんどの分野・項目の売上が伸びたということだ。

経費を大幅に削減し、かつ、書籍以外のほとんどの分野・項目の売上を伸ばした。

いわゆる粗利率は、64.70%から、実に81.54%に飛躍的に上昇した。

一口に数値で言えばこうだが、もう少し、情緒的な側面を補足すると、最大18名いた社員は、前期は6名で、その少ない戦力で、より大きな粗利益を構築したということになる。

どれだけスタッフが獅子奮迅に活躍したかが見て取れるだろう。本当に、このV字回復はスタッフが頑張った成果である。

そして、何より、もうあかんかと思っても、心配してもなお天狼院を利用してくださった全国のお客様のおかげである。

お客様にも、スタッフにも、多大なるご迷惑をおかけした取引先の皆様にも、この場を借りて御礼申し上げたいと思います。

本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

また、徹底したトリアージによって、手がどうしても回らず、ご迷惑をおかけした多くの皆様にお詫び申し上げます。

本当に申し訳ありませんでした。

これから、天狼院は第二次成長期に突入する。

今期が、V字回復で大きな利益を上げるべき期となる。

年間の赤字のゼロ・リセットは達成したが、償却前営業利益は、年間5,000万円以上なければ、返済などを十分にはできない。
まだまだキャッシュフロー自体は脆弱だが、視界は開けている。

この状況下でも未来に対して、大きな布石をいくつも打ってきた。
ここ数年、大変、痛い目に遭い、僕らは少しばかり賢くなった。そして、逞しくなった。

これから新戦力の補強も始まり、いよいよ、渋谷店だけでなく、各店も盛り上がってくる。

いよいよ、天狼院の本領発揮である。

「天狼院は書店をやめたのか」

という声も聞こえてくる。

いや、ずっと本屋をやっていて、これからはどこよりも本屋らしい本屋になるだろうと僕は確信している。

新たな本のかたちを、これから天狼院が示していくだろう。

僕の頭の中には、その明瞭なる未来図がある。

ジュニア向けの講座に、寿命120年時代に対応する健康系の講座、そして、天狼院プラグインと「海の出版社」ブランドの本格的始動も控えている。全国の書店グループとのコラボレーションも本格的に始まるかもしれない。

未来に対して、仕事は満載である。

また、ここでオファーを出したいと思う。

一度、離れたスタッフも、ぜひ、戻ってきてほしい。
どうだろうか、外はつまらなくないか? 天狼院を出て初めてわかる天狼院の面白さはなかったか?
帰って来るのなら、大歓迎して迎えたいと思っている。

今、天狼院は徐々に”頭がおかしい”ことをやり始めている。

映画を創って本を売るということをやっている。
AIと一緒に真剣に本を読み解くという読書会をやっている。
店舗にブランコを数多く設置し始めている。
全国の面白い人たちにプラグインという仕組みで、小さな天狼院を数多く創ってもらおうとしている。

徐々に天狼院らしさが戻ってきている。

「天狼院、もうあかんかと思ったわ―」と心配されている全国のお客様や関係者の皆様に改めてこう言いたいと思います。

天狼院、これから史上最大級に面白くなります、と。

ただ、正直、こうも言いたいです。

「一時期、本当にあかんかと思ったわ―笑」と。

こう笑って言えるのも、すべて皆様のおかげです。

本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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