【サントラ解説】『となりのトトロ』(久石譲)
こんにちは。
作曲家の天休です。
今回はサントラ解説シリーズで久石譲さんの「となりのトトロ」のサントラ解説を僭越ながらさせていただきたいと思います。
「となりのトトロ」といえば何度もテレビ放映されている超有名ジブリ映画ですが、今回はサントラの視点から振り返ってみましょう。
いろんな専門用語が出てきます。
まずは僕が書いた「劇伴音楽の作り方」の記事を読んでから、この記事を読むことをオススメします。
それでは早速やっていきましょう!
※古い作品ではありますが、一応ネタばれ注意です!!※
※また、本記事は個人の分析、感想です!!※
1.映画の概要
「となりのトトロ」は1988年4月に公開されたスタジオジブリによる長編アニメ映画です。
原作・脚本および監督は宮崎駿さん。
同時上映は高畑勲監督作品「火垂るの墓」。
ジブリ作品としては「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」に次ぐ3番目の作品です。
概要については僕がここで語るよりも岡田斗司夫さんの動画を見た方が早いです。
2.久石譲さんについて
久石譲さんは国立音楽大学作曲科卒の作曲家です。
今や宮崎駿監督作品のジブリ映画の音楽で有名ですが、もともとは現代作曲家志望の方でした。
久石譲さんといえばオーケストラというイメージをお持ちの方も多いかも知れませんが、もともとは電子音楽を基調とするミニマルミュージックという現代音楽を専攻されていました。
ミニマルミュージックとは、短いメロディの断片をひたすら繰り返すことで音楽を構築していくジャンルです。
現代作曲家であり映画音楽作曲家でもあるフィリップ・グラスさんが有名です。
そういう意味では、幼少期からベートーヴェンに傾倒していたすぎやまこういちさんとは好対照です。
そして、30歳前後でミニマルミュージックから脱却しポップスの道へと転向。
初のオリジナル・アルバム『INFORMATION』を1982年に発表しました。
そのアルバムをきっかけに初の映画作品となる宮崎駿監督映画『風の谷のナウシカ』の音楽を手掛け、以降のジブリ作品の音楽を制作するようになります。
ちなみに久石譲というのは偽名で、アメリカの音楽家クインシー・ジョーンズさんから採っているそうです。
3.サントラ解説
では、サントラ解説です。
〇1曲目「さんぽ -オープニング主題歌-」
もう1曲目から解説が大変です。
僕はこの曲を、「となりのトトロ」の本質を表す「メインテーマ」だと考えています。
宮崎駿さんは「となりのトトロ」を非常に論理的に構築しながらも、あくまでアニメは子どものためのものというスタンスを崩さず、表面上は子供向けアニメとして作られました。
宮崎駿監督が企画書の段階から「オープニングにふさわしい快活でシンプルな歌と、口ずさめる心にしみる歌の二つ」が必要だと言っていたのも、このスタンスを保つためでしょう。
音楽でも同様なことが起きており、「となりのトトロ」におけるメインテーマ2曲「さんぽ」「となりのトトロ」はどちらも子供向けのような作りになっています。
その根拠のひとつして挙げられるのが、「さんぽ」がマーチ(行進曲)であるという点にあります。
マーチはもともと軍隊が行進するために確立された、歩くための音楽です。
それが戦時中の音楽統制により、子供でも親しみやすい軍歌としてマーチが取り入れられてきました。
1942年に制作された「お山の杉の子」などがその一例です。
その影響もあってか、戦後の子供向け音楽はマーチ形式のものが目立ちます。
例えば「ミッキーマウス・マーチ」(1955年)。
日本初の連続テレビアニメシリーズ「鉄腕アトム」(1963年)のオープニングテーマもマーチです。
「さんぽ」もこの系譜を汲んでいると僕は考えています。
「となりのトトロ」の舞台設定は昭和30年代前半なので、西暦にして1955年~1960年頃。
この辺りを久石譲さんは意識していたのでしょう。
しかし「さんぽ」が今までの子供向けマーチと決定的に違う点があります。
それはバグパイプの使用です。
「さんぽ」の一番最初、有名なメロディを奏でている楽器はバグパイプという楽器です。
バグパイプはスコットランドやスペインなどで広く使われる、いわゆるヨーロッパの楽器です。
ではなぜ、日本が舞台の、日本の子供向けの楽曲にバグパイプを使用する必要があったのでしょうか?
それは「となりのトトロ」という映画が、日本を舞台にしているけれども、その本質的なテーマはもっと奥にあるからです。
「となりのトトロ」の「ロマンアルバム」にあるインタビュー記事では、次のように書かれています。
久石「(「となりのトトロ」は)日本の風土に根ざしたドラマではないでしょう。宮崎さんの作品にはそういう風土感がないと思うんですよ。『トトロ』も日本が舞台ということがわかっているんだけれども、土着的な日本でしか生まれないふんい気というものは感じられなかったんです。
つまり「となりのトトロ」という作品は、昭和の日本の美しさを描いているというよりは、もっと根源的なテーマである「古代神(原始の自然)」と「人間」を描いているわけです。
あえてテーマ曲の冒頭にバグパイプを入れることで、これは日本だけの物語ではないと音楽が暗示しているのです。
このように別の国の民族楽器を取り入れることで、土着感を出しつつ、しかしテーマ性をブレさせない技術は、後の「もののけ姫」でも登場します。
オーケストラのハーモニーの中に篳篥(ひちりき)と南米の民族楽器ケーナを混ぜることで、土着感を出しつつ、国籍にこだわらない音楽が生み出されています。
そして宮崎駿さんが「出だしの5分が全てを決めるね」と言っているように、この映画冒頭で流れる「さんぽ」も「となりのトトロ」そのものの世界観を見事に表現しています。
一聴しただけでは子供向けのマーチであるにもかかわらず、バグパイプが入っていることで先に述べたようなテーマ性への布石になっている。
まさに「メインテーマ」と呼ぶにふさわしい楽曲でしょう。
また、「さんぽ」の伴奏がシンセサイザーで作られている点にも注目です。またもや「ロマンアルバム」からの引用です。
久石「ちょっといい方が難しいけれど、普通のオーケストラだけの曲を書くと、ごくあたりまえの幼児映画になってしまうんですよ」
すなわち、「さんぽ」を普通のオーケストラの曲として作ると、ただの子供向けの音楽と変わらなくなってしまう。
先ほどバグパイプを使うことでテーマ性への布石をうったと書きましたが、オーケストラではなくシンセサイザーを使うことでも、普通の子供向け音楽と一線を画そうとしているわけですね。
また、やや楽典的な部分にも触れておくと、「さんぽ」はCメジャーという調で作られています。
Cメジャーという音階はピアノの黒鍵を使わず、白鍵しか使わないことから「純潔、清潔さ、かわいさ」という意味があります。
調性の選び方ひとつとっても、久石譲さんの思慮が分かります。
〇2曲目「五月の村」
映画冒頭、農村の風景が映るカットと、おばあちゃんと会った後川に水を汲みに行くカット、後半のおばあちゃんの畑で収穫した野菜を食べるシーンでも使われています。
分類的には「日常」でしょう。
ジャンルとしては、ガーシュインを思い起こさせるシンフォニック・ジャズです。
先ほどの「さんぽ」はシンセサイザーでしたが、「五月の村」は生演奏です。
この曲がなぜ生演奏なのかは後々重要になってきます。
さて、ここでは、なぜ日本の古き良き田舎のシーンにジャズのBGMなのかということについて考察したいと思います。
以前、久石譲さんが早稲田大学で講義したい際に挙げられていた例として映画「2001年宇宙の旅」を見てみます。
宇宙には空気が無いので音はありません。
当然音楽もありません。
しかし、ここに「美しき青きドナウ」というワルツをつけるキューブリック監督の采配!
静かで、高級感があり、宙を漂うような雰囲気が醸し出されています。
このミスマッチ感こそが、映像に深みを持たせてくれているわけです。
この「五月の村」でも同様の手法が使われています。
古き良き日本の田園風景。
しかしそこに日本っぽい音楽を付けては説明的過ぎるという久石譲さんのポリシーが感じられます。
久石譲さん著「感動をつくれますか?」という本より、そのポリシーが如実に分かる箇所を引用します。
当たり前だが映画というのは、ドキュメンタリーを除いて、すべてフィクションである。
作り物の世界はともすると、過剰な状況説明をしてしまうことがある。
例えば、誰が見ても恋人同士だとわかる男女がいる。その二人を見つめ合わせ、セリフで「好きだ」といわせ、バックに甘いメロディーを流す。最近のテレビの手法は、ほとんどこれだ。それだけでは飽き足らずに、ナレーションかテロップで「彼らは愛し合っていた」と説明する。くどい。
映画でもこういう説明過剰なやり方は多い。
そういうのはうすら寒くて嫌だという北野(たけし)さんの考え方に、僕は共感するところが大きかった。
さて、この曲が使用されている箇所が全て人間が自然を享受しているシーンだということにも注意しましょう。
後々重要になってきます。
〇3曲目「オバケやしき!」
サツキとメイが屋敷に到着したシーン。
お父さんの「どうだ、気に入ったかい?」というセリフを受けて音楽がスタートします。
分析的にはコミカル寄りの「行動」です。
冒頭のシンセサイザーのピッツィカートの音色は、次の「メイとすすわたり」でも登場する特徴的な音色です。
ある意味すすわたりのテーマ(音色)です。
このシーンからこの音色を使っていることによって、このお屋敷のすすわたりの存在を暗示しています。
このすすわたりのテーマがシンセサイザーで奏でられている点に注目です。
他の曲と違い、すすわたりのテーマがメロディではなくリズム主体になっているのにも注意してください。
そうすることで、さも1音1音が集まってすすわたりとなっているような、すすわたりらしさが描写されています。
音楽の最後はサツキが腐っている柱を直したところで音楽が止まります。
セリフを受けて音楽が始まったり、登場人物の行動によって音楽が止まったりなど、かなり精密な音楽設計がされていることが分かりますね。
その後の2階への階段を探すシーンでもこの曲が使われています。
お父さんの「階段を見つけて2階の窓を開けましょう」というセリフを受けて音楽がスタート。
後半はだんだんと遅くなる編集がされていたり、繰り返しになっていたりするので、ここは後から編集で音楽が付いた個所だと思われます。
〇4曲目「メイとすすわたり」
この曲はメイがすすわたりを捕まえようとするシーンでかかります。
サントラの前半部分はこのシーンでは使用されていません(この後のおばあちゃんがすす渡りの説明をした後、一瞬すすわたりが映るシーンで流れます。)が、この前半部分にすすわたりの「声」が入っています。
これはアフリカのピグミー族の声をサンプリングしたものだと久石さんのインタビューにあります。
サンプリングとは音声や音楽の一部を編集して再構築することで、新たな音楽を作る技法のことです。
久石譲さんが「風の谷のナウシカ」から愛用していたフェアライトCMIという機材も、録音した音をサンプリングして演奏するための装置です。
ファッションに詳しい方であれば、マルジェラの再構築の技法がよく似ていると気が付くはずです。
音楽におけるサンプリングは、当然技術の進歩がなければ作れない音楽でした。
サンプリング技法を使った世界初のヒット曲は1979年の「Rapper's Delight」だと言われているので、かなり新しい音楽を作ろうとしていることが分かります。
ちなみにイントロの途中で入ってくる打楽器はタブラというインドの楽器で、久石さん自身で演奏されているそうです。
すすわたりが逃げるシーンから、メイがすすわたりを捕まえるところまでは生演奏、それ以外の箇所はシンセサイザーで作られていることにも注目です。
あとで重要になってきますので、覚えておいてください。
〇5曲目「夕暮れの風」
後に出てくる「風のとおり道」のアレンジバージョンです。
引っ越し屋さんとおばあちゃんが帰っていったあと、夕方になるシーンでかかります。
久石譲さん自身この「風のとおり道」を”映画全体の隠しテーマ”と呼んでいます。
かなり重要なテーマなので、後の「風のとおり道」のパートで詳しく説明したいと思います。
重要なのは、この曲がシンセサイザーではなく、生演奏で作られているという点です。
あとでまとめて説明したいと思います。
〇6曲目「こわくない」
お風呂のシーン、サツキがメイをくすぐるシーンでかかります。
冒頭の複雑なリズムは、打楽器は普通の4拍子なのですが、その他のシンセサイザーは強拍以外のところにアクセントがあることで、拍子が分かりにくくなっています。
このように、アクセントの位置をわざとずらして拍子を分かりにくくする技法はミニマルミュージックでよく使われる技法です。
そしてすすわたりが映ったシーンですすわたりのテーマになります。
そのまますぐ、クスノキが映るカットで「風のとおり道」がシンセサイザーで演奏されます。
先ほどのすすわたりの声が、すすわたりが映っているカットまでは伴奏で使われていて、映らなくなると伴奏から無くなる。
こういった芸の細かさも素晴らしいですね。
〇7曲目「おみまいにいこう」
「さんぽ」のカラオケバージョンですね。
お見舞いに行くために3人が自転車に乗るシーンで流れます。
こちらはシーンに音楽がついているため、「さんぽ」より編成がかなり小さめです。
リズムはスネアドラムのみ、メロディはクラリネットのみ、低音はコントラバスのピッツィカートのみです。
「劇伴音楽の作り方」でも書きましたが、こうしたシーンの曲は薄いリズムから始まっているのが特徴です。
いきなりメロディなどが入ってきてしまうと視聴者に違和感を与えてしまうためです。
最後は病院の遠景が映ったところでカメラのパンとともに音楽が終わります。
この終わり方はやや昭和アニメっぽい技法で、最近のアニメではあまり見かけないように思います。
〇8曲目「おかあさん」
「さんぽ」「となりのトトロ」に加えて歌が入っている曲になります。(後で出てくる「まいご」にも歌が入っている)
お見舞いに行ったシーンおかあさんの「あなたはかあさん似だから」というセリフを受けて音楽が流れます。
タイトルからも分かる通りおかあさんのテーマです。
サントラには収録されていませんが、歌なしのバージョンも後半のおかあさんが手紙を読むシーンで流れます。
ここで、ジブリ作品のサントラの特殊な作り方について触れておきましょう。
普通の映画と違い、ジブリ作品の多くはサウンドトラックを制作する前に、その映画をモチーフにしたイメージアルバムを制作します。
そのイメージアルバムの曲を一部使って映画用のサウンドトラックを作っているのです。
実際に「となりのトトロ」も映画公開前にイメージアルバムが制作されています。
初期設定では女の子は1人だったので、ジャケットではサツキとメイを足して2で割ったような女の子が一人映っているだけですね笑
「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」でも同様のイメージアルバムが制作されているのですが、「となりのトトロ」ではこの2作とは異なる点があります。
それは、全曲歌付きの曲だと言うことです。
宮崎駿監督は、企画書の段階からトトロの歌への想いをこう綴っています。
『この作品には二つの歌が必要です。オープニングにふさわしい快活でシンプルな歌と、口ずさめる歌の二つです。往々にして、アニメーションの主題歌はアイドルの売り出しに使われたりしていますが、流行したとしても、結局声が出ず音域の狭い今様の歌は、子供達の心をとらえていません。せいいっぱい口を開き、声を張りあげて唱える歌こそ、子供達が望んでいる歌です。快活に合唱できる歌こそ、この映画にふさわしいと思います。もうひとつの歌は、挿入歌です。淡い物語を彩る歌ですが、劇中で子供達が唱歌のように唱える歌にしたいと考えます』
このアルバムの中の「おかあさん」という曲のアレンジバージョンが、今回の曲なわけです。
音楽的には、Aメロの後半で「となりのトトロ」のテーマが引用されているのも面白いです。
〇9曲目「小さなオバケ」
サツキが初めて小トトロを見つけるシーンでかかります。
この曲こそフィルムスコアリングの真骨頂でしょう。
ものすごく精密に音楽が設計されています。
まずオタマジャクシがいる水たまりにメイが手を突っ込む箇所で、水面が揺れているかのように揺れる木管群。
それが、手を引っ込めるカットでぴたりと止まります。
メイが駆け出した瞬間にマーチのような金管。
メイが止まるとリズミックな音楽もとまり、バケツを持ち上げるカットでドンっとオーケストラのTutti(合奏)。
メイが底抜けバケツをのぞき込み、メイの視点になったカットでアルペジオの和音。
その後のメイの歩きと金管の動きもあっています。
どんぐりのカットでハープの音。
どんぐりにクローズアップするのと同様にサスペンデッドシンバルのクレッシェンド。
どんぐりを拾うたびに木管の駆け上がりの音が入ります。
小トトロの耳が映るシーンでハープの音。
ハープの単音は「疑問」や「不思議さ」を与えます。
さきほどのどんぐりのところで鳴ったハープの単音の原因(どんぐりを落とした主)がここでかみ合うわけです。
そして小トトロが映っているシーンで「となりのトトロ」のテーマの断片が流れます。
メイが歩き出すと低音がマーチ風のリズムを鳴らします。
小トトロの全体像がハッキリ映ると再び「となりのトトロ」のテーマが始まります。
しかし、それも小トトロが消えるシーンでハープの単音とともに無くなります。
再び小トトロが映ると、先ほどのマーチ風低音が演奏されます。
小トトロたちが走り出すと、低音の動きも速くなり、メイが縁の下をのぞき込んだ瞬間に音楽も怪しげなものに変わります。
メイが場所を移動する足音に合わせて木管が鳴り、再びのぞき込むと元の音楽に戻ります。
その後の3連符のフルートの動きは蝶々の動きとマッチしています。
再び中トトロ、小トトロが出てくると忍び足のような木琴とファゴットがマーチ風のリズムを刻みます。
どんぐりが落ちるところでティンパニ。
トトロたちが走り出すと、「となりのトトロ」のテーマが帰ってきます。
その後の金管はメイが草むらにぶつかると同時にストップ。
トトロたちの抜け道をのぞき込むと怪しげなストリングスのトレモロが鳴ります。
トトロたちが追いかけてきたメイに驚くと同時に金管が入り、その後はトトロのテーマの変奏。
大きな杉の木が映るとテーマは「風のとおり道」になります。
このように映画と音楽が密接に関わっていて、かつ音楽的にもスムーズな流れになっています。
テーマも意味のあるテーマが変奏されており、説明的過ぎてもいません。
久石譲さんの技術力の高さが垣間見える1曲です。
ちなみに、過剰に映像に音楽を合わせる技法を「ミッキーマウシング」と言います。
この曲では効果音までは音楽で付けていないので「ミッキーマウシング」ではありませんが、そのエッセンスは感じられます。
すなわち、メイがトトロたちと出会うシーンをテンポよくコミカルに見せることで、トトロという存在を視聴者に受け入れやすくしているのです。
〇10曲目「トトロ」
メイが初めて(大)トトロと出会うシーン、トトロがバス停で傘をもらうシーン、トトロが植えた木を成長させるシーンで使われています。
トトロのテーマといえば「♪となりのトットロ トットーロ」をイメージす方も多いかと思いますが、あれは映画全体のモチーフであり、トトロのテーマはこの曲です。
なんと言っても特徴的なのは、この曲が7拍子だという点です。
普通、今耳にする音楽のほとんどは4拍子か3拍子でできています。
これは4拍または3拍で1小節のかたまりとなる音楽のことです。
7拍子とは7拍で1小節の音楽のことで、特殊な拍子であることから変拍子に分類されています。
クラシック音楽でも7拍子の曲が出てきたのは19世紀後半のようです。
しかしそれまで7拍子の曲が無かったのかといえば、そうではありません。
例えば、ブルガリアの民俗舞踊は7拍子、12拍子、13拍子などと解釈できる曲があります。
アフリカの伝統音楽にも複雑なポリリズムの音楽が多数あります。
つまり、何が言いたいのかというと、この「トトロ」のテーマは7拍子にすることによって、西洋音楽感を消そうとしているわけです。
西洋音楽(クラシック音楽)とは、もともと人間が祈りを捧げるために歌っていた音楽を、より高度に体系化し、洗練してきた姿です。
まるで人々が原生林を伐採し、そこに街を形成してきたように。
おまけに、この「トトロ」という曲は7拍子であると同時に、メロディらしいメロディが出てきません。
さらに楽器編成は人の声や木琴(マリンバ)など民族的なものです。(生演奏ではなくシンセサイザーですが。)
すなわち、西洋音楽が発達する前にあったであろうもっと原始に近い音楽を表現しているわけです。
「となりのトトロ」のテーマのひとつである「原始の自然(古代神)」をこのようにシンプルに、しかしシンセサイザーを使って新しく描いているのは驚くべきことです。
ちなみにこの曲がシンセサイザーを使って作られているのにはもうひとつ理由があります。
が、それは最後にまとめてお話ししたいと思います。
一応、古代の教会を意識して制作されたレスピーギの「ローマの松」より”カタコンバ付近の松”との類似性も指摘しておきます。
こちらも変拍子で、モチーフも似ています。
***
さて、無料版はここまでです。
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後半では、名曲「風のとおり道」を徹底解剖。
最後に、久石譲さんがこのサウンドトラックに託した想いなどを分析してみたいと思います。
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