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鈍足バンザイ!

現在、選手育成の最前線だけでなく学校の部活まで、スポーツの現場のあらゆる場面に「ボジディブ思考」が採用されています。そしてスポーツ選手が堂々と明るい表情でインタビューに答えている姿をテレビで見ることも珍しくありません。今やスポーツにおいてボジティブ思考は当たり前。

しかし、実際の私たちの身の回りはどうでしょう?

確かにポジティブな人も増えてきていますが、まだまだネガティブな人、またはそのどちらにも属しない人も多いですよね。では、そんなポジティブではない人たちはどうしたら良いのでしょうか。

結果を残すため、又は人間的成長のために、強制的にネガティブからポジティブに思考を変えることが得策なのでしょうか。逆に、もしネガティブなままで成功したスポーツ選手がいるのであれば、その人の話を聞いてみたいですよね。そこで、今日はそのネガティブな思考のまま成功したスポーツ選手が書いた本を紹介します。

「鈍足バンザイ!」というこちらの本は元サッカー日本代表選手、そして海外のプロ・サッカーリーグで活躍した岡崎慎司さんが書いた本。私の専門はテニスなのでサッカーのことは詳しくわかりませんが、それでも興味深く読みました。

今回は、この本の中から気になるエピソードをいくつかピックアップしてご紹介します。もし私のNOTEを読み、こちらの本に興味を持っていただけたら嬉しいです。

岡崎選手のコンプレックス

この本の序章では、この本のタイトル通り「足が遅いという強烈なコンプレックスがあったからこそ、今の僕があると確信している」と岡崎選手は書いています。

足の速さではチームメイトに勝てない。それでもゴールを決めるにはどうすれば良いのか?そのことを常に考えてきた岡崎選手。彼は努力を惜しみませんでした。足を早くするためだけのコーチに指導を仰ぎ、自分よりも上手い選手を捕まえては教えを乞い、クラブの練習も毎日最後まで残って頑張りました。

強烈なコンプレックスが岡崎選手を動かしたのでしょう。もし得意なところだけ伸ばす教育を岡崎選手が受けていたら・・・このように日本を代表する選手にはならなかったかもしれません。

岡崎選手の恐怖との戦い

本の中にはこんな言葉もありました。
「僕はプレッシャーに弱いタイプ。プレッシャーなんて大嫌い。決定機で外したらどうしよう。周りの人の期待に応えられなかったらどうしよう。そんな考えが、アタマの中をグルグルまわっている」

いつも試合前は最悪の事態を想像し、気持ちを萎えさせる。この溜め込んだ負のエネルギーこそが岡崎選手の原動力だと紹介されています。これはとても面白い着眼点です。そしてこの自分の弱さと向き合った気持ちが、次の言葉にかかってくるのだと思います。「僕は自分に期待しない」

良いところは悪いところの裏返し

「日本代表の中で、僕は最も目が悪い選手かもしれない。視野が狭い。サッカーの世界では、よくそんな表現をする。僕は目の前のことしか見えない、ものすごく視野の狭い選手なのだ。これには結構悩んでいた」

こんな悩みを持っていた岡崎選手ですが、視野とピントを合わせる力を測る人に検査してもらうと「君は、目の前のものを見る能力がずば抜けてるよ」と言われたそうです。つまり、2つのものを同時に視界に捉える能力が低い代わりに、目の前のものを見つめる能力が高かった。まさに良いところと悪いところは表裏一体。

岡崎選手の頑張るエネルギー

なんとかプロになった岡崎選手ですが、技術が追いつかず失敗ばかりでコーチや先輩に怒られる毎日。失敗して怒られ続けたら、ほとんどの人は落ち込んで歩みを止めてしまうかもしれません。しかし、岡崎選手には頑張る大きなエネルギーが湧き続けていました。

「アタマの中にあったのはただ、先輩たちに『褒められたい』と言う思いだけだった。志が低いかもしれない。でもほんとにそれだけだった」

ある意味、純粋ですよね・・・

岡崎選手の成長論(1)先ず、難しいから始めよ

岡崎選手がテレビゲームをやる時、必ず「難しい」を選ぶそうです。当然、最初はすぐにゲームオーバー。しかし、これが言い訳になるので気楽にゲームを続けることができると言っています。

実際、岡崎選手はプロのチームを選ぶ時に、自分がレギュラーを取れそうなチームを選ぶのではなく、あえて競争率が高く厳しい環境を選びました。そうすることで、もし試合に出れなくても仕方ないと言えるし、いつまでも緊張感が保たれるので上手くいくと書いてありました。ただ、これは「ドM」と言われる岡崎選手の性格によるものかもしれませんが・・・

岡崎選手の成長論(2)ミスがメンタルを鍛えてくれる

「『ミスを恐れたらだめだ!』そんな言葉をよく耳にする。その通りだと思う。でも、プロ1年目の僕はミスを恐れながら毎日の練習に取り組んでいた」

岡崎選手はプロ1年目、毎日練習でミスを恐れていたそうです。しかし、この辛い経験が後に試合に出れるようになってから役立ったと書いてあります。

「試合に出て重圧がかかる状態は、その時の気持ちと重なる。ミスを恐れてばかりいた1年目をどうにか乗り切ることができた。だから、『この試合も何とかやれればいいな』と考えられる。そう思うと、いかにもリラックスした気持ちでプレイできるのだから、不思議だ」

若い時のミスを恐れる気持ちが、後の自分の財産になったと岡崎選手は言っているのです。これも現代のポジティブ思考の指導法とはだいぶ違いますね。

岡崎選手の成長論(3)マイ・アイドルを作る!

試合で大きな怪我をした岡崎選手、病院に運ばれてベッドに横たわっていた時に、看護婦さんに「ゴン中山選手に似てるわね」言われます。

日本人として初めてワールドカップでゴールを決めた中山選手に似てると言われて嬉しくなった岡崎選手。そこから、中山選手を強く意識するようになったそうです。

「ゴンさんがゴールを決める姿に目を奪われたし、ボールをかけるときの顔もカッコイイなと思っていた。相手チーム選手がどんな顔してプレイをしているかは、けっこう目に入る。苦しそうな表情だったら、自分たちが優位に立っている証拠。逆に自分たちがリードしてるのに、相手が活き活きとした表情していたり、鬼気迫る表情で迫ってくると、『ヤバイな』と感じる。だから、ゴンさんがカッコイイ表情している時、相手チームの選手にとってはかなりの脅威になっているのだ」

ちなみに岡崎選手はプロになってからも中山選手を追い続け、練習試合の時に知り合いに頼んでサインをもらってしまったそうです。そして、そのサインを合宿所の一番目立つところに掲げて毎日眺めていたそうです。「いつかゴンさんのようになれたらといいな」と思いながら・・・

岡崎選手の成長論(4)グランドは最後に出る

「昔から変わらないことがある。僕は最後までグラウンドに残って練習するようにしている。別に監督にアピールしたいからではない。そうしないとなんだか落ち着かないのだ」

岡崎選手はいつも最後まで残って練習します。練習を早く切り上げて家に帰っても落ち着かないそうです。練習で全力を出し切ることは難しいし、本当に全力を出せたかは本人にもわからないでしょう。でも、最後まで練習に残れば、誰よりも練習したといえる。そういった理屈っぽい心の拠り所が欲しいのかもしれません。

岡崎選手の成長論(5)成功しても、アラを探す

プロの試合で成果を残し日本代表にも選出された岡崎選手、ゴールを決めた試合でヒーローインタビューを受ける機会がありました。

「ナイスゴールでした」と言ってくれるアナウンサーに対し、「そんなことないです。それよりも2回目、3点目を取るチャンスを外したこと、あと、それ以外でもミスが多かったんで」と素直に喜びません。

良いプレーができた試合があっても反省点を無理に探し出して悩んでしまう。きっと全ての試合の全てのプレーがうまくいくことが基準なのでしょう。それ以外はダメだと。他のポジティブな選手からは呆れられてしまうわけですが、岡崎選手はこうも考えています。

「ゴールを決めても反省している方が、成長できるんじゃないかなと思っているんですよ!」

最後に

このNOTEを書くにあたって本書を再読しましたが、やはりスポーツ選手が書いた本だけあって感覚的というか、少し整理が足りないというか、ただ単に変わった人というか・・・でも、そういう部分も含めて実に面白い本だと思いました。

スポーツ経験者の多くはこの本を読んで、「私も同じことを考えたことある!」と感じるのではないでしょうか。私もたくさんの共感できるエピソードと出会いました。

ただ、そうなると、私(たち)と岡崎選手を分けたのは一体なんでしょう?

今思えば「期待」だっと思います。若い時、自分は自分の成長に期待していました。試合をすれば相手にミスを期待していました。先輩からは可愛がってもらえること、後輩からは慕われることを期待していました。

岡崎選手はネガティブに徹することで、「期待」をせずに愚直に頑張り続けたのだと思います。まさに鈍足バンザイ!


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