天井と耳

初めまして。天井と耳と申します。 stand.fmというアプリで音声配信をする傍ら、こ…

天井と耳

初めまして。天井と耳と申します。 stand.fmというアプリで音声配信をする傍ら、こちらでは日々の配信で話しきれなかったことを綴ります。 https://stand.fm/channels/632aec4b8fc92d08ba92e618

最近の記事

父とローストポーク(後編)

祖父の家に預けられてからは、帰りの遅い父を待って玄関先の絨毯の上で眠ってしまうことが、ほとんど毎日であったと聞かされている。その都度祖父は寝床まで僕を運んでくれていたらしい。 翌週から新しい保育園に移った。 新しいお友達に質問してみよう!という時間を設けられて教室の前に置かれた先生用のピアノの椅子に座り、大勢の知らない子たちが柔和な表情で僕をじっと見ている。 他人から注目を浴びるのは内心苦手な方だったが、少しさびしさを抱えていた当時の僕には若干の心地よさもあった。 はい

    • 父とローストポーク

      保育園年中の頃、近所の友達と歩きながら帰っていると 自分の進行方向よりも少し先のところの路肩にグレーのローレルを寄せ、歩いてくる僕を眺めながら佇む父がいた。 友人と戯れることにそれまで夢中だった僕は、父の姿を見て落ち着きを取り戻し、父のいるところまで歩み寄っていった。 「乗りなさい」 後部座席のドアを開け、乗車を促すように父は言った。 何が起こっているかはまだ分かっていなかった僕は友人たちに「じゃーねー」も言わずに戸惑いの中乗車し、父は車を発進させた。 父は忙しい人だっ

      • 畳5畳半との別れ

        なにぶん古い寮の押し入れというものは、 大事にしているものほどそこに仕舞っておく気にはなれないもので。 少しずつ部屋の隅に追いやり、 ふと気が付くと彼らは埃をかぶっていることがざらであった。 その時に気づかなかったのだが、 本来の僕は埃をかぶった物を見つければ 即座にふき取る性分であったはずだ。 よくよく気にしてみると 服はどれもよれよれだったし、 玄関の靴もつま先やソールに穴が開いている。 洗面台の切れた照明には蜘蛛の巣が張っていた。 郵便受けに入っているチラシも放置

        • 畳5帖半の貧乏生活

          こんにちは。 今回はたらたらと実態だけを書いていきますのでご承知おきを。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー いったんそれまでの仕事を辞め大学院に入った私は、 それまで住んでいた部屋を解約して寮の方に移った。 畳5帖半、家賃は7500円。ありがたい。 家具も最低限のものを残して処分した。 ベッドなど置こうものならそれだけで残りのスペースが手狭になってしまう。 残したものは台所用品、冷蔵庫、机、PC、卓上本棚のみ。 洗濯乾燥機が寮についていたのはありがたかった。

        父とローストポーク(後編)

          その言葉に”何”を乗せるか、ヒト。

          これを読む前に次のことを試してみてほしい。 やることはシンプル。それは、 どうだろうか。 「あぁ」「うぇ」「んー」「はぁ」何でも構わない。 おそらく普段よりは無味乾燥で、どこか情けない発音が伴った「声」が口元から出てきたかもしれない。 人は声を発するだけでも必要最低限のコミュニケーションをとることはできるが、それはきっと指示や相槌程度のもので上のように短絡的な「単音」だけでは、建設的な会話はもちろん望めないだろう。 だからこそヒトは遠い昔に社会を作り上げる傍らで、同時

          その言葉に”何”を乗せるか、ヒト。