よく見る光景の何でもないような小さなことで泣きたくなるのはなぜだろうか
数年前のことだ
とある田舎の駅を降りた
駅を降りて周りを見渡しても
目に留まるものが特になかった
人通りもほとんどなかった
過疎という言葉が浮かんだ
ちょっと離れたところで
「募金お願いしますぅ」
と子どもの声がした
少し先の方を見ると
3人の小さな子どもが
募金の呼びかけをしていた
周りに大人は私ひとりしかいなかった
20メートルは離れていただろうか
でも
3人の子供たちの視線を感じた
私はゆっくりと歩いていった
素通りすることはできない
私と3人の子供たちの世界
私が近づくと3人は私の目を見た
私は手を差し出して
右の男の子に小銭を手渡した
その子は満面の笑みを浮かべて
「ありがとうございますぅ」と言った
最後は「すぅ」って言ってた。
男の子の笑顔に屈託がなく
とても凛としていたので
しばらく眺めてしまったが
なぜか恥ずかしくなって
目をそらした
ふと男の子の隣を見ると
横にいた2人の子も笑顔だった
女の子ともう1人の男の子だ
そしてもう一度私に向かって
3人そろって満面の笑みで
「ありがとうございますぅ!」
と言ってくれた
私は少し照れながら頭を下げた
そして
後の2人の募金箱にも小銭を入れた
再び3人の満面の笑みと
「ありがとうございますぅ」を
私は全身に受けとめた
私はなぜか急に逃げたくなった
そそくさと頭を下げて
その場を離れた
しばらく歩いてふと振り返ると
まだ子どもたちは頭を下げていた
私は泣きそうになっていた
理由はわからないけど
涙がこみ上げた
もう振り返らなかった
もう1回振り返ったら
号泣しそうだったから
今は何の募金だったかさえ覚えていない
でも
彼ら3人の笑みは今でもたまに思い出す
そしてその度に
心がほっこりとして温まり
同時に少しだけ
寂しい気持ちになる
人は気づかないうちに
与えている以上に
何かを与えられている
それも予期しない瞬間に
そういう小さなことを
そういう小さな痛みを
私は忘れないでいたい
朗読しました♪