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【読書日記】安心社会から信頼社会へ


 「アメリカ人は日本人より他者に対する信頼感強い」との意見に「えっ?逆じゃ無い」と疑問を抱きながら読んでいくと「なるほど」と納得させられる、斬新な日本文化論です。

安心と信頼

 著者は安心信頼を明確に区別して考えるべきだと主張します。 

信頼 : 相手の人間性を評価し適切な行動を期待する行為
安心 : 相手の損得勘定の基づく適切な行動を期待する行為

 マフィアの掟は安心の代表例です。マフィアのメンバーが取引相手の裏切を心配しないのは、相手の人間性を評価している訳では無く、掟を破ると酷い目に遭うからそんな損なことはしないという確信があるからです。

安心社会と信頼社会

 著者は社会を安心社会信頼社会に分類します。 

 安心社会では「よそ者」を排除した「仲間うち」での取引により取引費用(相手の信用調査など)が軽減されます。一方「よそ者」との取引を排除してしまうことで「そちらの方が儲かってたのに」と後悔する機会費用が発生します。

 信頼社会ではオープンな取引により機会費用が最小化されます。一方それまで面識の無い相手との取引も盛んに行われるので、取引費用(相手の信用調査など)は発生します。

2つの社会で求められる資質

 安心社会信頼社会では求められる資質が異なります。

 安心社会で求められるのは関係性検知能力、誰との関係が安心を生むかを見分ける能力です。この能力の高い人は仲間以外は信じない、排他的な傾向があります。

 信頼社会で求められるのは人間性検知能力、一般的な信頼の指針を持ち面識のない人を品定めできる能力です。この能力の高い人は楽観的でオープンな傾向があります。

日本は安心社会

 著者は従来の日本社会は、閉鎖的な集団の中で秩序を保つ安心社会であったとします。安心社会への最適反応として関係性検知能力を得た結果として日本人は他者を信頼しない特性を備えたと説き、様々な実験結果を使ってそれを実証していきます。

 同時に著者は現在の日本を安心社会を維持する事による機会費用が無視できなくなり安心社会の崩壊という状況に直面しているとします。

社会環境と人

 著者はこの日本の状況を信頼社会を築いていくための絶好の機会であるとし、その機会を生かすために私たち日本人は新しいかたちの社会的知性を身につけ、新しい社会環境を作っていく必要があるとします。

 日本人の関係性検知能力長けた特性は決して天性のものでは無く安心社会という環境に適応した生まれたものであるとし、環境の変化に応じて変えることができるものであるとします。

 そのためには社会環境も変革していく必要があります。社会環境と人間の行動は相互作用により形成されているからです。

 著者は、社会環境の変革の重要性を差別文化からの脱却を例に説明します。悪しき差別文化は、その行動を適応的な行動にしてしまっている社会環境と、それに適応してしまっている人間の双方に原因があり、これを変えるためには人間の意識変革に加え、社会環境の性質そのものを変えることが必要なのです。

お勧めする理由

 本書に書かれた信頼と安心という概念は非常に新鮮でした。これを用いることで社会を見る新たな視座を得ることができたと筆者は感じています。

 また、ここで紹介した理論を実証するために心理学者である著者が行っている様々な実験も非常に興味深く、面白く読み進めることができます。

 約20年前に書かれた本ですが、その内容は現在の我々にも様々な気づきを与えてくれます。

Photo by Ksenia Makagonova on Unsplash

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