陪審員が騙された確率の誤謬
確率の誤用の例としてよく引き合いに出されるコリンズ裁判というのがあります。この裁判では、陪審員が確率の誤用に騙されて有罪の判断をしてしまっています。
コリンズ裁判
アメリカで発生した強盗事件、目撃者から下記の証言が得られました。
犯人は黄色い車に乗った二人組、一人は顎髭と口髭をたくわえた黒人男性、もう一人はブロンドでポニーテールの白人女性。
警察はこの特徴を元に都市全域に大捜査網を張り、数日後証言にある特徴を持つ二人組を捕まえました。二人は容疑を否認しましたが、検察官が提示した理論により有罪の判決を受けます。
検察官は証言にある個々の特徴の確率を提示し、それら全てが合致する確率は非常に少ないとして、有罪の大きな証拠であると主張し、陪審員はそれに同意し有罪の判決が下ったのです。
個々の特徴の確率
顎髭の黒人 1/10
口髭の黒人 1/4
ポニーテールの白人女性 1/10
ブロンドの白人女性 1/3
黄色い車 1/10
異人種カップルの車 1/1,000
全ての特徴が合致する確率
1/12,000,000 (1/10 x 1/4 x 1/10 x 1/3 x 1/10 x 1/1,000)
有罪の決め手となったのは、全ての特徴が合致する確率が1200万分の1であるという主張、これのどこがおかしいのでしょうか?
同時確率の誤解
検察官はそれぞれの確率を掛け合わせていますが、これは誤りです。
下記の例を見るとこの理論のおかしさがわかると思います。
サイコロの出目の確率
奇数が出る確率 1/2
3以下が出る確率 1/2
1の目が出る確率 1/6
奇数で3以下で1の目が出る確率
1/24 ???? (1/2 x 1/2 x 1/6)
実際は
「奇数で3以下で1の目が出る確率」は1/6
実際は奇数で3以下で1の目が出る確率は1/6です。
個々の確率の掛け算で同時確率を出すのが適切なのは、お互いの事象が独立の場合だけです。
追跡者の誤解
百歩譲って、もし1200万分の1という見積りが正しいとしてもそれで二人を有罪とするのは間違っています。
今回は証言にある特徴を元に、大捜査網を張って二人を捕まえています。非常に珍しい一致確率でも、大量の候補を探れば偶然同じ特徴を持った二人組が発見される確率は高くなります。
例えば1200万分の1という非常に小さい確率でも300万組を調べれば該当する特徴を持った二人組が見つかる確率は10パーセントを超えます。
参考書籍
「NUMB3RS : 天才数学者の事件ファイル」は米国警察の数学を使った犯罪操作を元に作成されたテレビドラマです。この本はドラマで使われた数学の手法を解説していて、楽しく数学の考え方に触れることができます、今回紹介した例も載っています。
参考文献
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