住宅営業マン、12棟目はヤバい上司の不気味なクロージング
みなさんは、最近お買い物をする時に、「買ってください」というクロージングをしっかりと受ける機会はありましたか。
身近な小物ではなかなか細かい折衝をしませんが、高額の買い物になると、お客様の背中を後押しするために「クロージング」というステップが必要になります。
昔の住宅営業マンは、月末になると手書きのプランと見積をセカンドバックにいれて、夜に客宅に上がり込んで契約決まるまで帰らないというおぞましいクロージングをしていたようです。。。
恐怖ですね。笑
近年では、そういった顧客視点を無視したクロージングは流行らず、お客様との約束の再確認、といったクロージングの位置付けで、それよりはそこまでのプロセスを大事にする傾向があります。
今日はそんな時代と逆行する、ゴリゴリにクロージングにこだわる上司と受注するお話です。。。
展示場に来場のM様ご家族
三年目の冬にご来場になったM様は、30代の若いご夫婦に、小さいお子さま連れでした。
この頃の私は、仕事をバリバリやっている30,40代のお客様が苦手で、アポイントが取れているお客様はリタイア後の60代オーバー、私を子供と思ってくれるような世代ばかりでした。
なんとなく30代のM様に苦手意識を緊張しながら、M様の要望を聞き出していきます。
M様は奥さま実家の庭先での建築計画でした。
現在既に整地がはじまっていて、計画はすぐにでも進められる状況でした。
「当社は検討の候補としてはいかがですか。」と核心に迫る質問をしてみると。。。
「建築会社としては気に入っています。ただ、以前にモデルハウスにお邪魔したときに接客していただいた担当の方がどうも合わなくて。。。」
それは。。。一番お世話になっている先輩。。。
「なるほど、、、きっと、、、一回ではわからないこともあるかなって、、、(一応先輩をフォローしなければ!!)」
「いえ、私たちにはあの押しの強い感じは合わないと思います。」
ドストレートなM様に私はたじろぎました。
「そうですか、それでしたら、私の方で進めさせて頂ければと思います。」
私はこうなったら、こっそり商談を進めて、前にモデルハウスにきたことは知らなかったフリを決め込んでやる!!というやってはいけない決意をしました。
このM様との関係性においては、先輩のいい加減な顧客リストのフォロー状態もあり、私がこっそり進めたことに関しては、バレずに進んだのですが、基本的にはこういった行為はどこのハウスメーカーでもタブーです。
きちんと上席者への報告をして手続きを踏んだり、担当間で一揉めしたりしながら、担当変更をしないといけないんですね、大変。
なんかわからないけどボスがやる気満々
次回のアポイントが無事にお約束できて、私はルンルンで事務所に戻りました。
「みのくん、今月の契約はあるんかいな。」
この4月に赴任してきたばかりのゴリゴリ見た目ヤ○ザ支店長に話しかけられました。
「いえ、契約につながるのが見えているお客様はまだわからないんですが、今日アポイントがとれたお客様が計画もスピード感がありそうなんで、次回盛り上げられるように頑張ります。」
「そうか、じゃあもうプラン作ってもらえ。あと商談をあそこのブースで段取りしろ。ワシが出る。」
「は、はい。。。。ありがとうございます。。。」
(なんかわかんないけど今一瞬で次回までにプラン用意しないといけないし、支店長が同席することになってしまった!!)
(最悪だ。。。)
正直4月に赴任してきたばかりの支店長では、どんな商談をする人で、どんな準備をすればいいのかわからないし、それがお客様のためになるのかもさっぱりわかりません。
しかし、支店長に逆らえるような立場にない若手の私は、急いでプランを用意する準備をはじめました。
そこで、根本的な問題に気付きます。
「いや、とりあえず次回のアポイントで色々ヒアリングしようと思っていたから、間取りの要望なんて知らないじゃん。。。」
もうこうなったらヤケクソです。
適当な4LDKのプランを自分で下描きし、設計にエイヤ!と依頼してしまいました。
そんなこんなで、物凄い雑につくられたプランと、資金計画書を用意し、アポイント当日を迎えます。
この雰囲気、「YESと言うまで帰れま10」
アポイント当日、来場されたM様を、支店長指定の個室ブースにお連れします。
すると、そのブースはなぜか薄暗く、中には指し棒を持った支店長がいました。
「本日は、検討されていらっしゃるA社様と、弊社の工法がどう違うのか、1時間ほどかけて、ご案内させていただきます。」
机の上には、ずらーーーっと並ぶ釘、ボルト、柱の模型。。。
「M様は、2社でご検討のご予定と伺っておりますが、A社様の工法の特徴はご存じでいらっしゃいますか。」
柔らかい雰囲気の中で、押し付けるわけでもなく、質問から会話を始めているさすがの営業トークを展開する支店長。
でも、、、でも、、、、薄暗い中に見た目ヤ○ザのあなたが指し棒持っていたら、それはもう、、、監禁ヤ○ザ事務所なんです、、、
上司の説明は1時間ほどかかり、A様は生唾を飲む音が聞こえそうなほど緊張している様子でしたが、A社との違いを頭に叩き込まれたようでした。笑
「いかがでしょうか。A社との違いはご理解いただけましたか。」
「そうですね、みのさんの説明でなんとなく違いがあるのはわかっていましたが、その違いが何故生まれるのかが明確にわかりました。」
「では、当社で希望の間取りや金額で収まれば、ご用命いただけそうでしょうか。」
「そ、そうですね、御社は高いと聞いているので、支店長さんには頑張っていただかないといけないと思うんですが。」
「ありがとうございます。実は、M様には特別に、本日特別なご用意がございます。」
私はここまで聞いて、ピンときて震えました。
この支店長、私が勘でつくった適当参考プランと、何の根拠もない適当資金計画で、、、今日今から「契約クロージング」をしようとしている!!!!
「みのくん、プランと資金計画ちょうだい。」
支店長はM様の前にプランと資金計画を広げ、説明を始めました。
「これは正直ボリューム確認のプランでしかありません。しかし、大きさとしては、M様ご家族にとって十分だと思いませんか。」
「そうですね、間取りはちょっと変えたいですが、広さとしては十分です。」
「そうですよね。ボリュームが変わらなければ、そこまで大きく間取りは変えずに進めることができると思います。大事なのは、予算を把握するためにボリュームを確認することです。」
「なるほど。ボリュームはこれ以上大きくすることはないです。」
「では、このプランに対しての資金計画がこちらです。ご予算と比べて大きくオーバーしていますよね。」
「はい、これではさすがに予算からかけ離れているので、建てたくても建てられません。」
「わかりました。これは、ここまで私の話を真剣に聞いてくださったM様だからご提示できるのですが、まずは本体工事価格に対してのお値引きがこれで、、、、次にここの項目をサービスして、、、ついでにこれもお付けして、、、」
上司がテーブルの上の資金計画表に赤いマジックペンで次から次に数字を書き込んでいきます。
「これで、最終的にこの金額でご用意させていただきます。これならご予算内になるかと思いますが、このまま進めて頂けませんか。」
もう、私はこのスピード感に全くついていけません。。。
わずか2時間弱。
上司はお客様に契約クロージングをやり切ってしまいました。
「い、いや、さすがにまだ検討したばかりでお返事はできないです。」
(M様、よくいった!そりゃそうだよ!大事な判断をそんな簡単にできないよ!)
「そうですか、残念です。どういった点がご不安ですか。」
「ボリュームは確認できましたけど、希望の間取りができるかわかりませんし、予算についてもこの予算でどこまでの設備が入っているのかわかりません。」
「なるほど、ごもっともですね。みのくん、設計さん呼んできて。プランつくってもらって。その間にみのくんが設備を案内したらええ。」
この支店長、全く諦めていない!!!!!
私はあわててブースを飛び出し、事務所の設計に声をかけます。
「なんか、支店長が、今すぐプランをつくれと、、、、」
「うそだろ?この忙しい時に?今じゃなきゃダメなの?」
「なんか、今、契約クロージングしてるんです。。。」
「え。。。」
設計が察してくれました。笑
あわててジャケットを着て、ネクタイを締めると、M様と支店長が待つブースに入っていきます。
「お待たせしました。設計のIと申します。間取りについてお伺いするところからはじめますね、、、」
そこから、30分ほどかけて再度プランのヒアリングをすると、設計の筆が走り出します。
それに合わせて、私が仕様設備のご案内をはじめます。
1時間後、設計がつくったプランが完成し、私の仕様設備のご案内も一通り終わりました。
一度中座していた支店長が戻ってきます。
「M様、いかがでしたでしょうか。設計さんのプランはご満足いただけましたか。みのくんの仕様設備案内に納得いただけましたか。」
「そうですね、こんなに早く満足いく間取りができるとは思っていなかったですし、仕様設備もいいグレードのものが入っていると理解できたので、安心できました。」
「ありがとうございます。それでは、来週までに、この内容でプラン・見積をまとめたものを契約書という形で綴じさせていただきますので、実印をもってまたきていただけますか。」
「わかりました。これからよろしくお願いいたします。」
え、、、、、、、
決まってしまった、、、、、、、
マジですか??
衝撃でした。笑
展示場にお越しいただいてから、わずか1週間。
2回目の面談で、M様に当社で建築することをご決断いただけました。
正直、2回しか面談していないので、お客様とのコミュニケーション不足もあり、乗り越えなければいけない壁も多くありましたが、M様にはとても満足いただけるお住まいがお手伝いできました。
こういうクロージングは正しいのか?
これを読んで、皆様は「ハウスメーカーの営業はひどい!」「顧客をバカにしている!」って思いましたか。
当時の私はそう思いました。笑
今でも、このままは真似はしたくないと思っています。
でも、それはお客様に提供できている情報量と、お客様の心理状態を利用したクロージングが問題なのであって、スピードは問題なかったんだと段々気づきました。
例えば、私が初回接客できちんとヒアリングができて、お客様の満足いくプランができていたらどうでしょうか。
また、そのプランに対して、根拠のある見積がご用意できていたらどうでしょうか。
お客様が知りたいのは、「自分たちが建てたい家がどんなものでいくらなのか」がメインですよね。
なので、必要なのは情報量であって、時間を重ねることでは決してないんだと思います。
今、僕は「最短で契約してもらうためにはどうしたらいいか」ということを真剣に考えます。
それは、建築会社側の都合だけとは思いません。
お客様にとっても、一か月かけて出てくるものと、1週間ででてくるものが一緒であれば、1週間で満足いくものが出てくるのであれば、そっちの方が時間のムダがないので、満足度は上がりますし、家族の時間ができたり、プラスアルファの検討ができますよね。
この上司はのちに予想通り、トラブルを起こして異動してしまうのですが、この物件を通じて、家づくりのスピード感の最短を学ぶことができました。
尊敬はできないけど、勉強にはなった支店長。
とってもこわかったです。笑
あれから7年ほどが経ち、こういった強引なクロージングは今、私の周りでしている人はいません。
お客様が正常な思考判断ができないかもしれない状況を作り出して、数字をつくっていったとしても、最終的な満足度があがらなければ、会社の評価が回りまわって下がってしまいますもんね。
これから、もっともっとお客様志向の住宅業界になりますように。
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