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サーキュラーエコノミーとビジネス:最初の一冊

サーキュラーエコノミーという言葉は聞いたことがあるけど、内容は良く知らない。何から手を付ければいいのか分からない。ビジネスにどう活かせるのか知りたい。そんな方へ、おすすめの一冊をご紹介します。
本記事では、サーキュラーエコノミーを初めて学びたい方にうってつけの1冊から、現代におけるサーキュラーエコノミーの重要性や基本的なコンセプトをご紹介します。

今回ご紹介する本は、2019年に出版された、「新装版 サーキュラーエコノミー デジタル時代の成長戦略」です。
本書では、サーキュラーエコノミーとは何か、そして、サーキュラーエコノミーという概念をビジネスとどう結びつけて考え、行動すべきか。具体的な事例を交えて紹介しています。
本書は膨大なレポートやコンサルティングを行っている、アクセンチュアのノウハウが惜しげもなく盛り込まれており、サーキュラーエコノミーを語るうえで、欠かせない一冊となっています。


1.サーキュラーエコノミーとは何か?

サーキュラーエコノミーを表現する方法は様々ですが、本書では、「Waste to Wealth:ムダを富に」と表現されており、「究極まで無駄をなくし、新たな価値を届ける仕組み」と言えます。
こうした考え方は、「もったいない」「分ければ資源、混ぜればゴミ」と何が違うのでしょうか?

リニアエコノミー、リサイクルエコノミー、そしてサーキュラーエコノミーへ
大量生産・大量消費の時代には最終処分場ひっ迫の問題や公害問題など様々な衛生的な問題が発生していました。
こうした課題を解決するために、埋め立て処分の削減や衛生的なごみ処理のインフラが整い、日本は世界の中でもきれいな街の1つです。
近年では、金属やプラスチックの資源問題が大きくなるにつれて、そうしたモノをリサイクルすることの重要性が高まり、社会に浸透しつつあります。
しかし、リサイクルは「廃棄」された後の資源回収に注目しているため、いまだに、開発→生産→消費→廃棄のプロセスの中には多くのムダが存在します。

産業の歴史

そこで、リサイクルに限定せず、開発→生産→消費→廃棄のプロセス全体を通じて、新たな資源投入を削減し、製品や資産としての価値を高い状態で維持することで、環境負荷の低減や顧客に対する新たな価値を提供することを目指す。これがサーキュラーエコノミーの考え方です。

サーキュラーエコノミーへの変遷

2.ナゼ、イマ、サーキュラーエコノミーなのか?

ナゼ、こうした考え方が今の社会で重要なのでしょうか?
(1)資源の価格、(2)社会的要請、(3)テクノロジーの変化の3つの切り口でその必要性が増しており、その切迫度合いも高まっていることが背景にあります。

(1)資源価格の高騰

投入される資源量は大幅に増加しており、資源価格が2000年以降大幅に高まっています。
これまでは、省資源で高性能な製品を作る技術など、テクノロジーの進化によって、完成品の価格への転嫁をある程度抑えられてきました。
しかし、テクノロジーの進化を上回る勢いで資源需要の拡大により、資源価格が高騰しているケースも多く、高性能磁石に使われるネオジムの価格は10倍近くの価格変動が起こり、それにより、製品は7倍近い価格変動が起こりました。
加えて、近年は資源をめぐる情勢の不安定性による、サプライチェーンの脆弱性の課題も指摘されるようになってきました。

(2)社会的要請

SDGsやESGといったキーワードが社会に浸透しつつあり、大人から子供まで社会問題を共通的に理解されるようになってきました。
最近新たに設定された、日本のプライム/スタンダード/グロース市場の評価にもSDGsの概念が取り込まれており、経済活動を行う上でも、こうした社会的責任を果たし、発信していく力がより求められるようになっています。

(3)テクノロジーの進化

あらゆる業界でIT技術やデータ活用が競争力の源泉となり、データが中心になる社会へ進化している流れはいたるところで感じられます。
こうしたテクノロジーの進化はサーキュラーエコノミーを推し進める重要なキーです。
例えば、資源開発・製造・リサイクルに至るまでの素材のトレーサビリティーを高めることで持続可能な開発や資源の効率の見える化が可能になります。
また、製品・資産の稼働状況などをモニタリングすることで、利用していない資産を他社へ貸し出したり、機械の故障前に修理やメンテナンスをすることで、安定稼働が可能になります。

このように、社会的ニーズの高まりや資源制約が産業界に与えるインパクトの増大、それらを解決するテクノロジーの進化といった変化がサーキュラーエコノミーの注目度や実現可能性を高めています。

2.ビジネス化に向けた5つのソリューション

サーキュラーエコノミーに対するニーズの高まりとそれを実現する技術が発展しつつあります。
一方で、多くの企業はその必要性を理解しながらも、具体的なビジネス化の道筋が見えていないことが大きな課題の一つです。
本書では、大きく5つの切り口でビジネスへの糸口を提案しています。これら5つの切り口は相互依存的で、重なる部分も多分にありますが、考え方として参考になります。


5つのビジネスモデル

①サーキュラーエコノミー型のサプライチェーン

製品製造に必要な資源の確保や原材料をサステナブルに供給することは資源リスクの低減とともに、環境配慮経営の重要な活動の1つです。
オランダの化学メーカーのアクゾノーベル社は塗料分野の世界大手企業ですが、バリューチェーンにおけるエネルギーの消費量は全体の6%しかなく、改善インパクトは限定的ですが、上流下流のステークホルダーに働きかけることでそのインパクトの最大化を図っています。
再生材やサステナブル素材の活用は供給量や質、価格に課題があることがあり、一定規模以上を安定的に確保することが重要です。
 

②回収とリサイクル

廃棄物の改修・再生材への注目度が高まっており、近年では、再生プラスチックの価格は3倍以上になり、需要に対して供給が追い付かない状況です。
アメリカウォルマートでは、食品廃棄物を中心に80%の直接埋め立てを削減し、発電やサプリメントといった価値のある製品に転換することで、新たに2.3億ドルの事業価値を創出しています。
再生するためには回収のプロセスが重要であり、輸送や選別のコストをいかに抑えるか、仕組みづくりが重要になります。

③製品寿命の延長

製品の長寿命化は高付価格製品やライフサイクルが長い、定期的な専門のメンテナンスが必要などの製品に対して有効なビジネスモデルです。
2003年アメリカカリフォルニア発祥のifixitはPCやスマホなどの電子機器の修理ガイドを無償提供するとともに、修理ツールなどを提供しています。
長寿命化できない製品、安価なモノ、流行に左右されるものはこうしたビジネスモデルには不向きとされています。
 

④シェアリングプラットフォーム

十分に利活用できないモノを自分だけでなく、多くの人と共通の資産として使うことで利用率を高め、収益性を高めるビジネスモデルです。
ピアバイでは、個人間のレンタルマッチングサービスを提供するなど、海外では徐々に個人間のシェアリング経済圏が確立されつつあります。
日本でもカーシェアなどいくつかのサービスが既に提供されていますが、BtoBのビジネスは非常に限定的で、心理的ハードルやリスクのコントロールがハードルのようです。

⑤サービスとしての製品

購入・運用のコストを抑えたい、モノそのものは価値を感じない、サービスをつうじてつながることに価値を感じるなど現代のニーズに応える、いわゆる、PaaS型のビジネスモデルです。
フィリップスが提供するフィリップスライティングは照明器具の販売から光そのものの提供へ転換した好事例です。サービスの中には、ライトの提供・メンテナンスはもちろん、IoT技術を使った快適な空間の提供や省エネへの貢献を行っています。
PaaSの実現のためには、一定程度以上のまとまったニーズの獲得が必要であり、そのためには、サービス提供側だけでなく、顧客にサービスの価値を正しく理解してもらうことも重要です。

①~⑤の様々なビジネスモデルがありますが、これらすべてを達成することは非常にハードルが高く、多くのケースではこの中の1つに焦点を絞り、スモールスタートして改善を重ねています。
また、製品の特性や事業の範囲などによっても適したビジネスモデルは異なるため、自社の特徴とビジネスモデルを掛け合わせて、新たな可能性を考えることが重要です。

3.まとめ

「サーキュラーエコノミーとは何か?」全体像をご紹介しました。
>>開発→生産→消費→廃棄のプロセス全体を通じて、環境負荷の低減や顧客に対する新たな価値を提供すること。

「ナゼ、イマ、サーキュラーエコノミーなのか?」必要性をご紹介しました。
>>「社会的ニーズの高まり×資源制約インパクトの増大×テクノロジーの進化」がサーキュラーエコノミーの注目度や実現可能性を高めています。

「サーキュラーエコノミーをビジネスに取り込むには?」ビジネスモデルの切り口をご紹介しました。
>>大きく5つの切り口でビジネスへの糸口があり、製品の特長や自社の強みを生かせる領域での展開を考えてみることで新たなビジネスチャンスを見つける。

サーキュラーエコノミー型のビジネスモデルが実現されているケースは少ないですが、こうした視点が新たにビジネスを考えるきっかけになればいいなと思っています。
本書にはより詳しい、概念のとらえ方やビジネスの紹介がされていますので、読み応えのある一冊ですが、興味がある方は是非一度読んでみてはいかがでしょうか。


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