『自分の心に、従ってあげてね。』 そう優しく俺の頭を撫でて言ってくれた人は、 「……なんて、名前だったっけな」 顔も名前も忘れてしまった。 そんな夢だったかのような不思議な人を、たまに思い出す。 あの人は確か俺の担任教師だった気がした。 何年何組の先生だったのかも、もう忘れてしまってるけれど。 あの頃は小さな疑問が沢山浮かんでいた。 そんな俺の抱えきれなくなった悩み達を優しく拾って聴いてくれた先生だった。 先生は居ない、俺が居るだけの保健室にその人はふらりと現れて、
『婚約いたしました。』 そう告げる文面が、幼き頃の恋心を思い出してしまった。 ・ ・ ・ 床に転がった空き缶。忘れられたようにくしゃくしゃになったスーツ。 思い出してしまった感情を忘れれるように、また一口ビールを口に運んで溜息を吐いた。 カチッ、と音を立てライターを付ける。ゆらゆらと揺れる火がどこか暖かく感じた。 暗い部屋。 カーテンの隙間から漏れる月明かりだけが光となった部屋。 そんなここが心地よくて仕方ない。 ふぅ、と肺から煙を吐き出して机の上のハガキに向き合う。 「
ジメっとした暑さと、うるさいくらいの蝉の声がする。 ……そんな夏の日だった。 特にこれといった特徴もなくただ平凡に学生を過ごして、今の季節は夏。 そう、学生にとって夏とは何か。 青春、プール、海……思い浮かべるのは人それぞれ違うだろう。 まぁそれは置いといて、俺にとっての夏は夏休みだ。 宿題に追われつつ青春を過ごす夏休み。 俺もその1人……とは言えない。 宿題に追われているのはそうだ 宿題はいくら嫌だとしても全生徒に平等に配られるから。 青春、言わばアオハル。 ……なんだそ
こわくてたまらないから抱きしめてほしいなんて思うけれど、 抱きしめてくれるような優しい相手なんて居なかったことに気づいたから、ただ好きな、やさしい音楽を聴く。 片耳は音の聞こえない、使い古したイヤホンで。 死が鮮明に形を持って近づいてくるたびにこわくなる。 しんどいね、つらいね、こわいね。 そりゃ世間には俺なんかよりずっとずぅっとつらい奴はいるだろうけど、 俺にはこのくらいのつらさでも耐えられないような人間なんだからゆるしてほしい。 天気予報は見ない。風の吹くまま生きていきた
こんなにも、俺の価値観を作り上げてくれた人らは決まってもう、この世よりずっと遠くに行ってしまっていて、 なんでって言葉ばかりが喉の奥にのこる。 ずっと残されてばっかだ。 いやまぁ関係性なんてゼロだし、 俺なんかただの一般人に過ぎないけど、 それでも俺なんかよりずっと、ずっと長生きすべきなのに。 また一つ歳を重ねる。 何もしないで過ぎていく人生がいつか劇的に変わるのかもしれないと思うと怖くなるな。 誰かが言った、 いつも摘まれるのは三葉のありふれたクローバーじゃなく、四
外で、蝉や行き交う人々が叫んでいる声が聞こえた。 何も知らない扇風機はずっと首を振っている。 溶けてしまいそうなくらいのあつい夏。 今日の気温は何度かを考えるリソースを避けるほどの脳は機能していなかったようだ。 少し揺れる電線 スポットライトのように降り注ぐ太陽の光 切実にあついからやめてくれ。 冷凍保存して欲しいくらいのあつさ。 ……なんて、こんなふうにダラっとすごしている世界の何処かで人は死んでいるんだろう。 まぁ、そんな他人のことをいちいち考えていたら生きるなんて難しく