くだらない走馬灯。

外で、蝉や行き交う人々が叫んでいる声が聞こえた。
何も知らない扇風機はずっと首を振っている。
溶けてしまいそうなくらいのあつい夏。
今日の気温は何度かを考えるリソースを避けるほどの脳は機能していなかったようだ。
少し揺れる電線
スポットライトのように降り注ぐ太陽の光
切実にあついからやめてくれ。
冷凍保存して欲しいくらいのあつさ。
……なんて、こんなふうにダラっとすごしている世界の何処かで人は死んでいるんだろう。
まぁ、そんな他人のことをいちいち考えていたら生きるなんて難しくなってしまうし、ふと脳に過ぎった他人のことは気にしない事にした。

「……はぁ」


暑すぎて溜息すら出る。
広い部屋に、俺一人
魚のいない水槽
2人分の食器
そこに、ひとり。
前は友人が一緒に住んでいたのになぁ、
置いていかれてしまった。
ふと、外を見るとまた夏が降っている。

「今日くらいは雪でも降ってくれよ」

そんな愚痴を聞いてくれるのはもう扇風機しかいない。
お茶を口に含んで、飲み込む。
するりと喉を通っていく冷たい麦茶が気持ちよかった。
ドン、ドカン、バゴン。
そんな音がするのにはいつしか慣れてしまった。
流れ星のように降る、夏。
太陽は赤く光って、辺りを照らしている。
夏に当たった人はどうやら溶けて消えるようで、
目の前で当たった友人が儚く散っていくのを見たことがある。
どうやら世間では夏が恨まれているらしい。
可哀想な話だ。
夏を恨んだところでその人が帰ってくる筈もないのに。
何にもならない。
なににも、ならない。

「……あっつ」

扇風機を回しているはずだが、
何処かチリチリと焼けるような暑さがする。
あぁそういや、最近天国行きという電車が出来たらしい。
1回乗ってみたいものだが、中々勇気が出ずこのままダラっと生きている。
夏は小さくて短い、誰か一人を単体に当たる、と最近分析されたとか。
実際近くにいた俺には当たらず、友人のみ当たったしな。
眩しかった。まぶたの裏に未だ、あの眩しい光が残っている。

……なんだか暑さが増している気がする。
扇風機の風量を1段階強めた。
そういやアイスが1本冷蔵庫に残っていた気がする。
そう思いだして重い腰を上げながら冷蔵庫へと向かう。
ソーダ味の棒アイス、大きめで満足も出来るし、夏を感じれて好きだった。
シャリ、と音を立て口の中でほろりと溶けるアイス。
口の中に冷たさとソーダ味特有のサッパリさが残る。

「んま」

あつい夏にとってアイスは砂漠の中のオアシスのようだ。
ぽた、と腕に溶けたアイスが落ちる。
今日は溶けるのが早いな、中々このアイスは溶けずらいはずなんだけど。
棒アイスは終わったあとの棒すら上手く感じる。
口の中に入ったアイスが溶け、
腹の中へと移動する。

「ご馳走様でした」

食べ終わったアイスの棒を見ると、
あたり! とデカく書かれていた。
おお、人生の中で2回目のあたりだ。
些細な嬉しさ。
だがコンビニまで歩く気にならないぐらいあつい為、この棒アイスのあたりはきっと使用されないだろう。無念。南無三。

……暑さがまた増している気がする。
そういや、アイツが消えたのもこの時期くらいだったな。
そう記憶を辿ると、どうやら1年はたったらしい。時間の流れが恐ろしくてたまらない。
あぁそういや。
アイツから、俺が消えたらPCとスマホのデータを消しといてくれと言われたのを今思い出した。
すまん友人よ、お前のエロゲーのデータは家族に行き渡っただろう。
ご愁傷さま、と手を合わせる。
あぁ、あと。

……もう一個アイツに言いたいことがあるんだ。
チラっと目の前を見ると、俺に向けて迫ってくる夏。
そろそろ、俺もそっちに行けそうだよ。
ようやくだなー長かったなぁ。
この家ごと夏に押しつぶされてくれれば、俺の人生のデータを見られることは無いだろう。
まぁ、見るやつも居ないか。
しょうもない人生だった。
楽しかったな。
そう呟いて、
俺は夏に押しつぶされた。
眩しい。喉に張り付くような苦しさがする。
だが、目を細めて開けた先に。

………アイツが見えた気がした。

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