春はふき味噌から始まる

春は苦い。
苦い思い出もたくさんあるが、ここでは苦い食材の話をしたい。

ふき味噌は大人の味

実家の裏庭というか、裏畑(そんな言い方があれば、だが)にはフキが生えている。きっと昔、誰かが植えたのだろう。春が近くなってくるとフキノトウが出てくる。まだつぼみのうちに採ってくる。
子供の頃、フキノトウの食べ方はふき味噌にするだけだった。祖母は何でもたくさん作る主義である。ふき味噌もたくさん作る。朝も晩も食卓にあったが苦かった。美味しいとは思えなかった。美味しいと思うようになったのは高校に入った頃だ。台所仕事は母が担当するようになっていた。

熱々のふき味噌と熱々のご飯

母の口癖は「たくさんは作らない」である。父がほどよい量のふきを早朝に採ってくる。細かく刻み、フライパンで炒め、味噌と砂糖を入れて更に炒める。フキノトウの香りと味噌の香りがお互いを引き立て合う。これを熱々のご飯にのせて食べるのは最高だった。朝のお楽しみである。フキノトウが余ると、母は刻んで味噌汁に入れた。味噌をとき入れてひと煮立ちさせたところにパッと入れる。フキノトウの香りがふわっと漂う。
ふき味噌を大量に作って冷蔵庫で保存、なんてことはしない。なんともいえないドロッとした色に変色し、水っぽくなってしまう。ふきの香りも味噌の香りも半減する。母の作るふき味噌は出来立てが最高なのだ。ご飯にたっぷりとのせて完食してしまう。
ちなみに、母はフキノトウの天ぷらもよく作る。夕飯がフキノトウの天ぷらと豆腐のお吸い物だけということもよくあり、精進料理みたいだったが、これまた美味しい。ご飯にも合う。天つゆではなく、塩をつけて食べる。または醤油をかけてもよい。天つゆだとフキノトウの香りが引き立たないような気がする。

ふき味噌食べたいよ

今、私はめったにフキノトウの調理をしない。早朝に実家の裏庭に行ってフキノトウを採ってきて、ふき味噌を作って朝食に出すのは大変だ。実家でこれが可能だったのは、採ってくる父、調理する母という連携があったからである。勤務日は忙しいからやりたくないし、休みの日はのんびりしたいからやりたくない。第一、我が家の人たちはふき味噌が好きなわけでもない。香りの強い食べ物が苦手なのだ。
……そう思っていたが、子どもたちを実家に預けたとき、母のふき味噌をぺろりと食べたそうである。そろそろふき味噌の魅力がわかる年齢になったらしい。
早起きしてフキノトウを採ってみるか。

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たか
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