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光の中にいるように見える野口聡一さんの『どう生きるか つらかったときの話をしよう』で知った”影”

光と影

 野口さんにとっての光は、「宇宙飛行士である自分」だった。子供たちのあこがれ、いや大人も憧れ目指す人の多い宇宙飛行士だ。自身も子供のころから宇宙飛行士にあこがれていた野口さんにとって、その光は強烈に強いものであったのは当然である。だからこそ、「突然注目されなくなった自分」という影もまた色濃いものになる。宇宙に行ったら人生観が変わるのでしょうね?という悪意はないが固定概念がちがちの質問もまた、野口さんを苦しめた。もちろん、音も命も感じられない漆黒の宇宙で、船外活動で目の当たりにした地球はとてつもない存在感と美しさで、一対一で対峙した野口さんは、「僕と地球は、いずれも宇宙空間にたった一人で浮かぶ「命」であり、対等な一対一の存在だ」という一種の哲学的直観を得ている。にもかかわらず、なぜ、彼は「どう生きるかつらい」という状況になったのだろうか。

光の正体

 野口さんご自身はこのように書いておられる。

 当時の僕を含め、多くの人は、やりがいが感じられることに取り組むこと、周囲の人から称賛されること、必要とされることなどによって、「自分が自分たりうる」という自信を抱きます。
 逆に、それらが無くなると、自分の存在意義を見失い、自分が何をやりたいのかわからなくなってしまうわけです。

『どう生きるか つらかったときの話をしよう』アスコム,2023年(P43)

 つまり、なりたくてなった宇宙飛行士でさえ、それ自体を楽しむという以上に、周囲の「宇宙飛行士へのまなざし、あこがれ、尊敬、最優先のケア、etc..」がご自身の価値を定める物差しに、知らず知らずのうちになってしまっていたということだろう。自分自身でなく、他者が当てる光の中に立ってしまっていたのだ。人間は社会的な生き物だ。本来は自分が定めた価値だったはずのものでも、いつの間にかこうして周囲の価値にすり替わってしまうことすらあるのだ。怖いことである。長い時間かけて目指した宇宙飛行士でさえそうなのだから、何となく乗っかってしまった受験戦争、気づいたら走っている出世競争、そんな状態にある我々庶民は、心して自分をしっかり持つことが必要だ。

どうやって自分のアイデンティティの核を見出すか

 野口さんはこれについて、
 ・自分は何が好きか
 ・自分には何ができるか
 ・自分は何を大事にしているか
の3つが、自分のアイデンティティの核となり、人生の方向性や目標、果たすべきミッションを見出す手がかりとなるとしている。
そして、自分ひとりでアイデンティティの核を築くためには次の3つのステップが必要だとわかったという。
 ステップ1、「自分の価値と存在意義」を自分で決める
 ステップ2、自分の棚卸しをし、最後に残るものを見極める
 ステップ3、これまでの選択、人生に意味づけをする
 それぞれのステップについて、本書では詳しく書かれており、気づきを与えられるので、ご関心があればぜひお読みいただきたい。聞きかじった話でなく、ご自身で苦しみ、考えてつかみ取られた文章には重みが宿っている。いやらしさも全くない。

 何が好きか、だけでなく、現在生きづらさを感じているのであれば、具体的にどんなことに苦しんでいるのか、嫌だと思うこと、生きづらさを感じることをどんどん紙に書きだす、という手法もすすめてくれている。

わたし自身の幸せを見出す

人が幸せになる唯一の方法は、競争に勝って世界中の富を独占することでも、地位や名誉を手に入れることでも、チヤホヤされることでもなく、今、自分の手の中にあるものでいかに満足できるかということにかかっているのです。

同書、P171

 この箇所からは、
「何が君の幸せ? 何をしてよろこぶ?」というアンパンマンのマーチの問いが浮かんでくる。そして、
 「わからないまま終わる そんなのはイヤだ!」と呼応する叫びも。
 他者軸でなく、自分軸で何が自分の幸せかを知っている人間は強い。そして、幸せであろう。

 愛する家族と、そこそこの健康と、そこそこの地位とやりがいの仕事と。今わたしは幸せの絶頂にある。しかし、時に、特に仕事の事において、そのことを忘れそうになる。目の前に競争や、他者の価値観で是非を決められるからだ。
 「会社」という閉じた小さな社会から精神的距離を置き、自立した大人として、自分の価値観でこの幸せを抱いて毎日を生きよ。そう教えていただいた本だった。


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