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死後会話

「やっぱり皆同じで死ぬ前日には必ず恐ろしい夢を見る物なんですかね」

「きっとそうよ。ここにいる皆見ていると思うわ。あぁ思い出してきた……私もうあんな夢二度と見たくない!もう恐ろしいこと限りなしよ。ほら、今私鳥肌が凄いでしょ」

「相当な夢だったんですね……」

「私、皆から顔色悪いって言われたわ。皆も顔色が悪かったけど私は特に酷かったらしいわ。まぁ熊に喰い殺される夢だったんだから顔色が悪くなるのは当然の事だけどね」

「それはお気の毒に……かなり痛々しい夢そうですね」

「痛々しいなんて騒ぎじゃないわ。密室で生きたまま3匹の熊に体中を貪り食われるのよ。堪ったもんじゃないわ。それに夢なのに痛さは生々しいほどはっきりと感じるの。頭も腹も爪で抉られて、内臓が飛び出ちゃって、目や鼻や耳はグリッと潰されたわ。なのに夢だから死ねないのよ。死にたくても殺してくれないのよ。泣き叫びたいのに顔はもう肉団子なのよ。なのに意識だけあるの。鮮明に意識だけはあるの」

「うわっ……それは流石にグロテスクすぎますね……聞いているだけで体中がもどかしくなる」

「夢の中でその苦痛を何時間味わったことか……」

「でも僕も形は違えど苦痛でそれはもう酷かったんですよ。
僕は激臭が充満する便所の穴の中に閉じ込められました。周りには糞や尿や毛だとか、動物の腐敗した死体もありました。とにかく多種多様な臭さが凝縮していて、酸っぱい臭いかと思えば、老廃物の臭い、カビ臭さや腐った臭いなどが生暖かな風と共に僕の体を突き抜けていくんですよ。もう気持ち悪いったらありゃしない。
しかも、途中で足を滑らせて顔面から転んでしまって、服にも肌にもびっとりと臭さが抱擁してきて、もうその時は吐いてしまいました」

「生理的に気持ち悪すぎる最悪な夢ね……やっぱりあなたも私と同じで夢の中で散々な目にあったのね……」

「恐らく、ここに居る全ての死者達も死ぬ日の前日にこんな夢を見ているんでしょう。
それはただの偶然では無い気がするんです。
多分僕が思うに、あの夢は僕達が人間界で犯した小さな過ち達を洗い流すための償い。ある種、地獄の様な物なのかもしれませんね」

「確かに今思うと償いの様な、そんな気がするわね。
んーっ、なんか溜ってた物を吐き出したから少し楽になったわ。ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ」

「でもやっぱり
人間いつ死ぬかわからないじゃない。
明日死ぬかもしれないし、明後日死ぬかも知れない。
つまりあの夢を見るのが今日かもしれない、そんな事実を死ぬ前に知っていたら私、死ぬのが怖いどころか寝るのがすごく怖くなってたかもしれないわ」

「でも、大丈夫。僕達はもう死んでいます。もうあんな夢、見ることは無いです。僕達はこんなことを忘れて死後の世界を気軽に過ごしましょうよ」

「そうね」



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