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スーパーいじわるばあさんの終わり:認知症介護のスタート

母はネット専用銀行で怒っていた


2021年の11月、「銀行で通帳が出せないっていうのよ」と81歳の母が半怒りで電話をかけて来た。母からの電話は何かしらの不満のサインだ。私はできるだけ明るい声で「あら、そうなの〜?困ったね〜」とのらりくらり詳しく話を聞き出した。相談には乗らなくてはならないし、ダメなものはダメなどとは否定せず、やんわりと話すのが常だった。
それまでも午前3時に税金の話をしてきたり、別に暮らしている私の家の気温は何度なのか?自分の家は寒いからと、ヘンテコなことを話すようになっていた。

ただ、お金の困りごとは初めてだった。
「あなた、近いうち一緒に銀行に行ってよ」と母。

その数日後、駅前で待ち合わせた。
約束の時間に行くと母はタイヤ付きのカートを手に、私が作った布のマスクをしてすっくと立って待っていた。ベンチにも座らずに。「30分くらい前に来ちゃった」と笑っていた。


イオン銀行の窓口へ行くと「ネット専用銀行なので通帳もないし明細も紙では出せないんですよ〜」と受付の若い男性が丁寧に説明してくれた。慣れた感じだったのでそういう客が多いのかもしれない。母は暗証番号も間違えていたようで、「一緒にやってみる?」とATMを操作して残高が印刷された小さい紙を母に渡すと、じーっと見た後、納得。笑顔になった。
落ち着いた母は、「少し早いけどお昼を食べましょうよ」と一緒に昼ごはんを食べた。

母にとって「お金」は常に最重要課題だ。
貧しい生まれだというコンプレックスを生涯抱え、40歳前に父と離婚した後、再婚もせず一生懸命働いた。
「子供達に面倒はかけない」主義のもと、本当によく働き、よく遊んで、旅もして、マンションも買って犬も飼った。仕事で経理を長くやっていたこともあり、経済的合理性優先、無駄遣いが嫌い。しっかりした人だ。

その母が、銀行の仕組みを理解できなくなり暗証番号も忘れていた。

いよいよ来た。
今後は母の一人暮らしを助けなくてはならない。
これが介護のスタートだった。


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