【ショートショート】試作品3「ジョン・ノレン」
――1966年。来日公演前の自国のホテルにて。
ジョン 「ポール。僕らもいよいよ、日出ずる国へ赴くんだね」
ポール 「ジョン、君の教科書はちと古いな。今はデモクラシーを経て、『ニッポン』と言うらしいぞ」
リンゴ 「ジュードーが盛んな国らしい。相手を倒すと『イッポン』と言うから、『ニッポン』と言う国の名前になったんだってな」
ジョージ
「みんな見たかい? 公演が決まった時のニッポン人の熱狂ぶりを。もうすでに、搭乗ゲートに寝泊まりして、僕らを待っているらしいぞ」
ジョン 「ありがたいことだよ。僕らの音楽が国を超えて、人種を超えて届いていると言うことだもの」
ポール 「なあ、リンゴ。新聞記事の写真で見たんだが、ニッポン人が掲げていた、あの『welcome』と書かれたflagのようなものはなんなんだい?」
リンゴ 「flag? ああ、あれか。あれは確か、『のれん』と言うものだよ。客人を迎え入れる時に使うものさ」
ポール 「なるほど。――ん? 今、ノレンと言ったか」
リンゴ 「ああ、そうさ。偶然だが、ジョン。君の名前と同じなんだ」
ジョン 「なら、公演の成功は決まったも同然じゃないか」
――ジョンのジョークに皆、声を上げて笑う。やがて夜も更け、それぞれ自分の部屋へと戻っていく中、ジョージは何かを思い出したように、ふと振り返り、ジョンに問いかける。
ジョージ
「なあ。もし君の名前が『ジョン・レノン』だったら、どうだったんだろうな」
ジョン 「ははは。ジョージ。面白いことを言うじゃないか。――おそらくだが、その彼には、彼の生きる世界があるだろう。それだけさ。彼は彼で、ジョージ、君みたいな男に、なあ、もし君の名前が『ジョン・ノレン』だったら、どうだったんだろうな、と質問されているはずさ。そして彼は、こう答える。――君が作詞作曲した曲の通り、think for yourselfとね。安心しなよ。僕は独りになったりはしない。無事、ニッポン公演を終えたら、次はアジアツアーだ。そうして世界をすべて回る。そうしたらきっと、その『ジョン・レノン』という彼にも、僕らの音楽が届くはずさ」
おわり
※みなもすなるしょふとしょふとといふものを、われもしてみむとてするなり。
『灰かぶりの猫日記』より
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