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手相鑑定で運命は変わった①

私は小説を書いている。
そのきっかけとなった出来事を話そうと思う。
10年ほど前の、ある平日の午後。
大型ショッピングセンターで買い物を済ませた私は、何か口さみしいと、飲食店がある階に立ち寄ることに。
何処に入ろうかと飲食街を歩いていると、店と店の間にある通路に休憩場所があり、そこの一角に占いコーナーがあった。
ブースは三か所あり、なんの気なしに見ると、三か所の内一つは鑑定中、もう一つは休憩中の札が立てかけてあり、残った一つが客待ち状態だった。
占い師にこだわりがなければ、必然的に占ってもらうのはその占い師になる。
ちらりと目があった占い師は、見たところ60代後半か70代前半の女性占い師。
占いが特別好きなわけでもないのに、ふらりと吸い込まれるようにその占い師のところに行く。

「いいですか?」
「ええ、どうぞ」

人生初の、料金を支払って鑑定してもらう占いだった。
私と同世代の女性はご存じかと思うが、「My Birthday」という占い雑誌が一世を風靡して、読まない女子はいなかったほど人気の雑誌だった。
毎号、毎号の発売日が楽しみで、クラスで回し読みをしたり、休憩時間には一冊の雑誌に群がって読んでいたことを思い出す。

「何を占いましょう?」

占いにもメニュ表があるのだと初めて知り、総合、恋愛、仕事、人間関係など細かく分かれているその中で、無難な総合というメニューをお願いした。
運命線、環状線、生命線と誰でもわかる線を見て、占いが始まった。

「嫌いな人と好きな人がはっきりしている」

その通り。

「人にあれこれ指図されるのが嫌」

その通り。

「感情の起伏が激しく涙もろい。情に厚く、困っている人を放っておけない質」

感情の起伏が激しく、涙もろい。当たってる。

「ああ……」

なんだろうか、悪いことだろうか。

「今まで危険なことがあっても、避けられて、助かってきていますね」

危険!? ずいぶんと物騒なことを言う。

「大怪我をするところを、小さな怪我ですんでいるし、病気をしても軽度ですんでいますよ、それに、大きな事故に遭遇したとしても、助かる運命です。長生きの線が出てますよ」

えええっ!

これにはびっくりした。手相でそこまで分かるのかと、すっかり占いに引き込まれる。こうして占いは信者を作っていくのだな。

「あとは、物を書くのがいい、とてもいいです、うん、小説……」
「ええ、文章を書くのは好きです」
「エッセイ、自分のことを書くのがとてもいいですよ」

てっきり物語かと思ったが、エッセイがいいと占い師は言った。

「とてもいいから書いたほうがいいです」

平日で時間に余裕があったのか、じっくりとその占い師は見てくれた。
そうか、書くことが向いているのか。長生きだと言われるより嬉しいのは、なんなのだろう。
胸がざわついて、落ち着かない。なに、なんなのだ、この気持ちは。
これが、私が小説書くきっかけとなった出来事である。


②に続きます。

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