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生きる Living 映画感想


・今回見た作品

「生きる Living」
監督:オリヴァー・ハーマナス
脚本:カズオ・イシグロ
主演:ビル・ナイ
原作:黒澤明 「生きる」

一度見ただけなので、やや細部が異なるかもしれませんが悪しからず。

感想 ①スピリチュアル・ペインという観点から

主人公(ウィリアムズ)は役所で仕事を機械的にこなす英国紳士であった。お堅い性格のウィリアムズは職場でも、家庭でも孤立しており、職場では陰で「ゾンビ」と呼ばれていた。
そんな中、医師から癌で余命半年と宣告されてから、充実した余生を求めるようになる。今まで死んでいるように生きていた「ゾンビ」から抜け出そうとしたのである。

ここで、スピリチュアルペインという概念を紹介する。
スピリチュアルペインとは、「自己の存在と意味の消失から生じる苦痛」(※1)のことである。
自己の存在は
関係存在(他者とのつながり)
自立存在(自己肯定感、自己コントロール感)
時間存在(将来、未来)
の3つの要素で構成される

自己の存在と、人生の意味の消失から人々は苦痛を生じるのである。

ウィリアムズには
関係存在の消失:家族からの孤立、職場での孤立
自立存在の消失:機械的な役所仕事の連続
時間存在の消失:癌で余命6か月
に加えて
生きる意味の消失
を抱えていた。
相当なスピリチュアルペインを抱えていたものと予想される。

ウィリアムズはスピリチュアルペインを癒す目的でリゾート地に繰り出して、夜の街で羽目を外しますが、苦痛の解消には至りませんでした。

羽目を外すという刹那的な快楽を求める行為は、言うまでもなく、上述のスピリチュアルペインの構成要素のいずれにも当てはまらなかったからだと考えられます。

ではどうすればよいのか。
時間存在の消失は解消できないので、他の要素に介入する必要があります。

そんな中、ウィリアムズはロンドンで元同僚のマーガレットに出会います。彼女は自分のやりたい仕事をするために役所を辞めて、カフェ?レストラン?で働いていました。
ウィリアムズには、自立心を持って生きているマーガレットがとても輝いて見えたようです。
その生き方をみて、自分も自律的に生きたいと思ったのでしょう。
これまで放置していた子供の遊び場計画を自分の意思でやり遂げようと思い、職場に復帰するのでした(自立存在・人生の意味)。
また、マーガレットと過ごした時間は関係存在の消失を癒したものと考えられます。

このような自律的な行動や関係性の構築により、スピリチュアルペインが癒され、充実感の中で旅立つことができたのでしょう。

感想②人は簡単には変われない

時間存在の消失、つまり、未来の時間の消失というのは、どんな人間も余命が限られているとは言え、ほとんど意識することは無い。

今回は余命の宣告という、時間存在の消失を強く意識させられる出来事から、スピリチュアルペインを強く感じた主人公が人生の意味を見出すという行動に至った。

しかし、時間存在の消失を意識しない我々は、’痛み’を感じないので、刹那的な快楽を求めたり、面倒な仕事を避けたりして、惰性的に日々を過ごしてしまう。

実際、最期の最期の方のシーンで 汽車の中で部署の人間は責任を持って仕事をするという誓いを立てたが、現実に戻ると結局はいつも通り機械的に仕事をこなす、余命宣告前のウィリアムズの働き方に戻ってしまっていた。(この理解であっているかな?ちがったらごめんなさい)

自分も同じように惰性で人生を浪費していることが多いと感じているが、特に人生の意味を見出すために行動しようとしてこなかった。

そもそも、人生の意味もまだ分からないし、何に自律的に取り組めばよいのかもぼんやりとしている。

常に、人生は限られているという痛みを感じながら、色々なことに興味を持って勉強しながら、人生の意味を見つけたいと思う。

もっと、色々な観点から振り返りができそうな、とても面白い作品でした。
主演のビル・ナイさんの演技がとても良かったです。

参考資料

※1 村田, ターミナルケア 12, 2002

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