シロクマ文芸部掌編小説「かき氷の恋」
「かき氷みたいな恋だった。」
と君は言った。
二年付き合った男と別れたばかりの頃は
衝動的になっていた君も
一か月ほどたった今
悲しみを悲しみ抜いた後の
どこか開き直った毅然とした態度で
前へ踏み出すため、恋に名前を付けたんだ。
「彼と会うとき、いつも頭痛がしてたの。」
君は恋愛の盲目的になっていた自分自身を
今、取り返そうとするかのように
話し始める。
「ほら、ちょうど、できたばかりのかき氷の一口目、
口に入れた瞬間のあの頭痛のように。」
君は僕を見ないで、遠くのほうに目線をやっている。
「いつも、そんな一瞬の頭痛を感じて、
けれど、時間が経てば、彼といるのが楽しくて
きっと忘れてしまっていたのね。」
君の憂いだ横顔は
僕にとって勿体ないと思うほど
美しかった。
失恋をしたばかりの君を僕は
そんなふうな目で見てしまっていた。
「知ってる?かき氷を食べて、頭が痛くなるのは、
脳の勘違いだって。」
君はそう言って僕の顔を見た。
長い間、君に見つめられていると
何か僕の心が細やかに削られていくような感覚になった。
「きっと、私は初めから気付いていたの。
彼との恋がうまくいかないことを、
感覚的に、頭痛という形で。」
僕は君の声に頷きながらも
胸のあたりが細かく削られていく感覚に浸って、
その削られたものが
徐々に高く積みあがっているのを感じた。
「恋をすると夢中になって、
自分の大事な感性にも気付けなくなる。
そうして、こんなふうに
全部溶けてなくなった後に
思い出して、涙を流すんだわ。」
いつの間にか潤んでいた君の瞳から
一粒の涙が溢れた。
頬に流れるその涙を
僕は思わず
その高く積もった心の上で
確かめるように
指で拭った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?