くくのぼう

黒猫と暮らす25歳男 京都生まれ 小説家志望 主に掌編から短編小説を書いていきます…

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黒猫と暮らす25歳男 京都生まれ 小説家志望 主に掌編から短編小説を書いていきます。 お気軽にフォロー、コメント等宜しくお願い致します。

最近の記事

シロクマ文芸部掌編小説「十二月の雨の日」

十二月の雨の日、ぼくは街の小さな商店街のベンチに腰掛け、流れる人波を見ていた。 驟雨はそろそろ止む頃だから、わざわざコンビニで傘は買わなかった。 そのせいでぼくの髪や衣服は雨に濡れ、冬の冷たい風によって、剥き出しになった心が裸のまま街へ晒されている。 悪くない感覚だと思った。 長く続くぼくの憂鬱が雨と一緒に、あの小洒落たドーナツ屋の前にある排水溝へと流れていくような気がしたのだ。 ぼくはそのまま白いベンチに座り続けた。 行き交う人々がずぶ濡れのぼくを傘を差して見る。 傘を

    • 毎週ショートショートnote掌編小説「機械」【着の身着のままゲーム機】

      多忙極める毎日の中 私は常にゲーム機を持ち歩いている。 いや持ち歩いているというより寧ろ 着ているといった方が正しい。 それは些かも過剰な表現などでなく、 実際左太腿の側面にビニールテープで直接ゲーム機を巻き付けてあるのだ。 私は今年で40代半ばに差し掛かるが、 この歳になるまでゲームというものに微塵も興味が沸かなかった。ゲームだけでなく、汎ゆる物事に強い関心を抱かない性格で、幼少の頃より「機械」というあだ名を貰っていたほどである。 私は限りなく受動的に生きてきた。そして

      • シロクマ文芸部エッセイ「にゃあ」【詩と暮らす】

        詩と暮らしている。 大体「にゃあ」としか言わない。 薄紅色の朝の日差しを共に眺めていると、どこからかバケツを地面に置く乾いた音が明け方の街へ響いた。 詩は僕の傍らにて目を細め、何やら感慨深っているが、二羽の小鳥が窓を横切ると焦ったように目を見開き、鳥の飛んだ先を睨んだ。 それから僕の顔をちらりと覗き、 小さく「にゃあ」と鳴く。 僕はそれに微笑み 「なんて言ったの?」 と問うてみるが、やはり少し瞬きをするだけで、またすぐに窓の外へ目をやった。 常夜灯の橙色に包まれた部屋の一

        • 毎週ショートショートnote「ろくでもない世界」【強すぎる数え歌】

          明るい大学生活を終え、就職して社会人になった途端、まるで家の電気をスイッチ一つで消したように暗転し、 世界が変わってしまった。 入社した初日、社員全員が朝の会議に招集され、俺を含む新入社員の自己紹介が終わると、唐突に明朗なメロディーが流れた。 一、一切を会社の為に尽くせ! 二、人間性を捨てたまえ! 三、燦々たる太陽のように燃えよ! 四、死ぬまで働くがよろし! さすれば! 五、極楽往生行き決定!! その狂気じみた歌を皆は叫ぶように歌い終えると、俺は呆気に取られた思考の末に

        シロクマ文芸部掌編小説「十二月の雨の日」

          シロクマ文芸部20字小説「娘のひとり言」

          病名なんていらないわ。可愛いくないもの。 #小牧幸助文学賞

          シロクマ文芸部20字小説「娘のひとり言」

          シロクマ文芸部掌編小説「青い蟹」【逃げる夢】

          「逃げる夢を見たの。昨夜。」 「逃げる?何から?」 「巨大な青い蟹から。」 若い夫婦が橙色に染まった寝室のベッドの上で寛いでいる。 夫は妻のその奇妙な話の切り口に、11月の冬へと向かう薄暗い夜の冷たさを感じ取っていた。 「まあ、巨大といっても私の背丈の半分くらいの大きさなんだけれど、とにかく夢の中でその青色の蟹が私の跡をずっと追ってくるから、私はひたすら逃げているわけ。最近、そんな夢をもう何度も見てるわ。」 妻は夫の顔を見ないで、天井に浮いた影の線を目でなぞっている。

          シロクマ文芸部掌編小説「青い蟹」【逃げる夢】

          シロクマ文芸部20字小説「不意、外国人。」

          ーThank you. ーゃあうぇるかっ! #小牧幸助文学賞

          シロクマ文芸部20字小説「不意、外国人。」

          シロクマ文芸部20字小説「ひきこもり」

          こんな俺でもみんなと同じように腹は減る。 #小牧幸助文学賞

          シロクマ文芸部20字小説「ひきこもり」

          毎週ショートショートnote「戦国時代の自動操縦」

          「戦国時代に自動操縦ができればどんな風だったろうか。」 嗄れた声で友人が僕にそう言った。 「なにそれ?」 友人の突然の妙な例え話しに僕は戸惑いながらもそう聞き返す。 「おおよそ、500年前の戦国時代において、自動操縦なんてものは存在しない。分かりきったことだろう?」 僕は再度困惑した顔を浮かべて、とりあえず頷いた。 「もし、その時代に自動操縦が開発されていれば、人は自分の手で刀や銃を握らなくて済んだんだよ。」 そう語り出した友人の目線の先は、電車に揺られる人々にある。 僕と友

          毎週ショートショートnote「戦国時代の自動操縦」

          シロクマ文芸部20字小説「憂鬱」

          憂鬱は幸福を連ねる。 きっと。 多分。 そう。 #小牧幸助文学賞

          シロクマ文芸部20字小説「憂鬱」

          シロクマ文芸部 短編小説「誕生日、喫煙所にて。」

          誕生日というのは些か不明瞭なものである。 幼い頃より私は誕生日を迎える度、家族や友人、恋人に祝ってもらう都度、 「ああ、私はこうしてまた一つ、死に近づいているのだ。」 と考えていた。 その感覚は勿論、今でもある。 誕生日、だからといって手放しで祝福されるのが自分でも妙に納得がいかない。 かといって、誰とも一緒に過ごさない自分の誕生日ほど、寂しいものはない。 ただの天邪鬼、と言われてしまえばそれまでかもしれないが、ただ私は自分の誕生日が訪れる度、そのどこかはっきりとしない感情

          シロクマ文芸部 短編小説「誕生日、喫煙所にて。」

          シロクマ文芸部20字小説「背後」

          今まで吐いた嘘が行列を作って並んでいた。 #小牧幸助文学賞

          シロクマ文芸部20字小説「背後」

          毎週ショートショートnote「ごはん杖」

          旅の途中、ある街へ訪れた時、 ごはん杖と呼ばれるものがこの街で流行っているのだと、私はそこに住む老人から聞いた。 「悪趣味だな、ありゃ。足が不自由な者ならともかく、健康的な人間まであれを使っとる。」 店先の錆びたベンチに腰を掛け、煙草の灰を長く垂らした老人は怪訝そうな顔で私に向かってそう言った。 「どういう理屈かは知らんが、ごはん杖を持つと、自分のエネルギーと引き換えに、まるで地面を飛ぶように歩くことができるんだとよ。」 私は幾つもの疑問符を脳裏に浮かべながら 「杖

          毎週ショートショートnote「ごはん杖」

          シロクマ文芸部20字小説「或いは黒猫」

          暗暗裡、 私を見つめる小さな目がある。誰? #小牧幸助文学賞

          シロクマ文芸部20字小説「或いは黒猫」

          シロクマ文芸部掌編小説「ある先生との会話」

          「紅葉鳥という言葉をキミは知っているか?」 「いいえ、知りません。先生。」 僕と先生は秋風に吹かれながら 夕暮れの赤く色づく公園沿いを歩いていた。 「名前の通り、鳥のことではあるんだが、もう一方で鹿の異名として使われることもあるらしい。」 先生は白く生えた顎髭を少々触りながら 「恥ずかしいことだが、私はこの歳になるまで紅葉鳥という言葉を知らなかったわけだが。」 「キミ、生きていれば、生きている限り、こうして知らない言葉を知ることができるんだよ。」 と厚い眼鏡の奥

          シロクマ文芸部掌編小説「ある先生との会話」

          短編小説「朝、ゼリーを踏む。」

          「私、最近朝、必ずゼリーを踏むようにしてるの。 そうしないと玄関のドアを開けられないから。」 貴方がそんなことを綺麗な目をして言うもんだから、わたしは口へ運んでいたポテトを落とした。 「朝、ゼリーを踏まない日はドアの気圧に負けちゃって、外に出られないわけ。」 平日の昼前、ということもあり閑散としたモスの店内にわたし達は向かい合って座っている。どこか虚ろでどこか嬉々としている貴方の危うい表情から、わたしはとりあえず当たり障りのない言葉を選んだ。 「朝ゼリーを踏むことと、

          短編小説「朝、ゼリーを踏む。」