シロクマ文芸部掌編小説「爆ぜた手紙」
手紙には
荒々しくも、どこか震えたような文字で
こう綴られていた。
『LINEでええのに、俺とお前の仲でわざわざ手紙を書くってのは、その行為自体、どこか不自然で、どうしたって言い訳がましくなってまうな。
でも、スマホで文字打ってそれを送信するんがなんかできんかった。だからむしろ俺はその不自然さを求めて、あるいは不自然な感情の正体を探るために、
こうしてお前に手紙を書いてるんかもしれん。
きっかけは単純明快。
お前がトモちゃんと付き合い始めて、俺のなかで気持ちが変化したのに気付いたからや。
お前がトモちゃんのこと好きやったのは勿論知ってたし、その恋がLINEで告白して実った瞬間も知ってる。
実は俺な、あんとき、振られろって思っててん。
知っての通り、俺はお前と違って、
お前以外に友人と呼べるもんはおらん。
やから学校に行くんも帰るんも、遊ぶんも、いつもお前と一緒やった。でもそれがこれからは全部なくなってまう思ったら悲しなってん。
ほんで今、現にそうなってしもた。
しばらく、俺はただ自分の孤独感を癒やすためだけに
お前の幸福を呪い続けた。
けどな、ふと、俺が孤独なんは自分の責任で
お前はむしろそんな俺をずっと救ってくれてたんやって気付いたんや。
やったら俺はお前の恋愛を応援するべきやろって、
自分に言い聞かせようとしたら、
俺の身体ん中の血液が尋常じゃない速さで流れだして、ほんだらすぐ熱くなってきて、なんか、細胞の一つ一つがだんだん膨らんでいくって思った瞬間な、
音鳴って爆ぜてん。
せやな、焚き火のあのパチって音が鳴る感じ。
それが俺んなかで起こったのと同時に
俺はお前の恋愛を喜べん理由を悟った。
実際、お前にこんな手紙を書くのは
間違ってるような気もするし、
だから多分、普段から使ってるLINEでは言えんねやろと思う。
14の俺には、この気持ちの行場をどうするべきか、どう消すべきか、分からん。
けど1つこの手紙を書いて良かったと思うことがある。
お前が少し潤んだ目と震えた指で、
トモちゃんに告白の文章をLINEに打ち込んでるときの感情が今、分かったことや。』
その手紙は私がいつも朝早くに起きて散歩する道の
途中にある小さな公園のベンチの側の灌木の中にあった。
おそらくノートかなんかを千切って書いたものだろう、
名前や住所、個人の情報は一切書かれていなかった。
手紙は四つ折りにたたまれて、もう随分と長い間雨風に晒され、まるで焼け焦げたかのように、酷く汚れて落ちていた。
その手紙を拾い上げ、引け目を感じながらも読んだ私はしばらく当てもない感情を彷徨った。
そして、この少年の儚くも燃え滾る青春をこのままにしてはならないと決心すると、家に持ち帰り、押し入れから取り出した小さなビンの中へ入れて、
丁寧に閉じ込めた。