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【大吉原展】現代人には不可解なサロンと苦界の間を探る。

上野・東京藝大校舎内の美術館にて開催中の吉原遊郭を主題とした初の大規模展覧会『大吉原展』。そろそろ会期末というので観に行ってきました。

開催前にSNS上で微妙に炎上していた本展、非難を受けて会場の解説文は多少変更されたとはいえ、出品作品に変化はないそうです。
前期後期で出展物をガラリと入れ替えたそうですが、私の見た後期展示の範囲内には「女性の権利侵害を助長する」ような要素はほとんど見当たらず。(というか、何でこの展示内容で炎上するんだろう…?)
大英博物館所蔵の貴重な浮世絵や肉筆画の数々が鑑賞出来る、素晴らしいクオリティの美術展でした。


会場の様子

会場は3つの展示室に分かれています。
第一展示室ではイントロダクションとして、吉原の夜の賑わいを描いた屏風や遊女の一日を描く浮世絵などが紹介されています。
特に屏風については描かれた人々の職業を解説する動画が壁に投影されており、吉原の世界観を知るのに役立ちます。花魁行列の付き人とか、色々なスタッフが混じっているものですね。
出展作品は大英博物館や国立博物館など、由緒正しい所蔵元から集められた絵画で、歌川広重喜多川歌麿酒井抱一といった著名な画家の作品が並びます。
江戸浮世絵展覧会としてもレベルが高い!

第二展示室では江戸初期~明治初頭までの吉原の歴史を年代ごとに俯瞰しています。
度重なる火事による移転、吉原を訪れる客の作法、遊女の呼び名の変遷など、豊富な資料とともに当時の吉原の様子が詳しく解説されます。
美術資料を用いる関係上、描かれるに値した女性=仲見世通りに連なる有名店の上級遊女の比重が高くなるのは避けられませんが、吉原で身を売らざるを得なかった苦しみと、一方で高度な教養を身につけ、浮世絵師のモデルとなるなど流行最先端に立っていた彼女たちの複雑な姿が浮かび上がるようでした。

第三展示室は、会場そのものが格子戸や赤い提灯などで飾られ、往時の吉原の雰囲気が再現されています。
その中の一区画では吉原で暮らした琳派の画家・酒井抱一の足跡も特集されていました。抱一の妻は吉原の花魁出身だそうで、彼女が書いた漢詩も出ていましたが、美しい字体から貴族ばりの教養が窺えます。

会場の一番奥には、遊郭一軒の構造をまるごと再現した大型ジオラマが展示され、当時の遊郭内部の様子を見られる仕掛け。30年前に作られた『江戸風俗人形』という作品だそうで、撮影可だったので画像を掲載しておきます。

辻村寿三郎・三浦宏・服部一郎 『江戸風俗人形』
『江戸風俗人形』より、格子戸と花魁道中
『江戸風俗人形』より、楼閣二階の個室に居る遊女


まとめ

吉原を主題とした初の大規模な試みである大吉原展は、詳細な調査と細やかなキュレーションによって吉原周辺で生み出された絵画芸術を探る、良質な内容でした。
浮世絵と肉筆画を通して、小説やドラマ、漫画などで描かれてきた吉原遊郭の(多少理想化された)実態を知る貴重な機会だったと思います。

遊郭は決して褒められたものではないですが、同時に多くの芸術家を輩出した場所であるのも確か。苦界と最先端文化サロンが同居する、現代の我々の目には何とも奇怪な場所です。
その実態を多少なりとも掴むために、こうした展覧会は意義深いものだと思います。抵抗感がなければ一度眺めてみることをお勧めします。

ちなみに展示内容が盛りだくさん過ぎ、1時間半では見終わりませんでした
じっくり解説を読みたくて図録を買ったのですが、かなりぶ厚め(去年のやまと絵展の図録くらいある…)

混雑もそれなりですので、時間と体力に余裕を持たせていきましょう。

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