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【特集】地理的な利点を生かし、グローバル市場を目指すオセアニアの宇宙関連スタートアップの最新情報

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。
Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
天地人noteでは、過去8回に渡り、アメリカ欧州日本カナダインド中国アフリカ中南米宇宙関連スタートアップを特集してきました。
今回はシリーズ第9回、オセアニア編です。近年宇宙産業において、衛星サービスを中心として成長が見えてきたオセアニアの宇宙市場と注目の企業について紹介していきます。


オセアニアの宇宙産業市場

オセアニアの宇宙産業市場は、主にオーストラリアとニュージーランドが中心であり、アフリカと同様にまだ発展途上の段階にあります。しかし、近年は大きな変化が見られており、オーストラリアは2020年に国家宇宙機関(ASA)を設立。ニュージーランドでは政府が設立した宇宙機関(NZSA)や、民間企業が運営するロケット・ラボ社など様々な宇宙関連の組織があります。

2020年時点でオーストラリアの宇宙産業市場規模は約4,000億円で、2020年に発表されたオーストラリアの宇宙戦略によると、2030年までに市場規模を約1.5兆円に拡大することを目指しています。また、ニュージーランドもロケット・ラボ社を中心に小型衛星打ち上げ市場で世界的な地位を確立しようとしています。


出典:20220905.pdf (sjac.or.jp)

オーストラリアの国家宇宙機関(ASA)は、宇宙科学や探査ミッションの推進に焦点を当てています。同国はNASAとの協力関係を築き、月探査計画においても重要な役割を果たしています。また、オーストラリアは豊富な資源や優れた技術力を活かして、宇宙産業を成長させる取り組みを進めています。

一方、ニュージーランドでは地球環境や気候変動にも配慮した宇宙開発を目指しています。
ニュージーランド宇宙機関(NZSA)は、2016年に政府が設立した組織で、ニュージーランドの宇宙政策や戦略を策定し、国際的な協力や規制を推進し、宇宙産業の発展やイノベーションを支援しています。 NZSAは、ニュージーランドの地理的な利点や技術的な能力を活かして、小型衛星の打ち上げや運用、地球観測や通信などの分野で活躍しています。 NZSAはまた、教育やアウトリーチ活動も行っており、若い世代に宇宙への関心や知識を高めることを目的としています。
ロケット・ラボ社は、小型衛星の打ち上げロケットの開発に特化した米国の会社であり、ニュージーランドに子会社があります。ロケット・ラボがニュージーランドに進出した理由は、2つあります。1つ目は、人口密集地から離れており、高頻度の打ち上げが可能だと見込まれたからです。そして2つ目は、南太平洋に位置し、打ち上げ方向や角度に制約が少なく、衛星の軌道調整が容易であるからです。同社は革新的な打ち上げ方式を導入し、効率的で低コストな衛星打ち上げサービスを提供しています。その結果、ニュージーランドは小型衛星打ち上げ市場で世界的な地位を確立し、急速に成長しています。
また、ニュージーランドは、米国と共同で「メタンSAT」という宇宙ミッションに参加しています。メタンSATは、2024年1月に打ち上げが予定されている地球観測衛星で、気候変動対策のために地球全体のメタン排出量を監視および研究します。 この人工衛星には高性能分光計メタン感知システムが搭載されており、メタンの発生源や流れを高精度で測定することができます。 メタンSATは、ニュージーランドの射場から、ロケット・ラボ社のエレクトロンロケットで打ち上げられる予定で、ニュージーランドの宇宙機関(NZSA)や環境省(MfE)などが協力しています。 メタンSATは、メタンが地球温暖化に与える影響を明らかにし、メタン排出の削減策を提案することで、環境持続性を考慮した宇宙開発に貢献することを目指しています。

オセアニアの宇宙産業市場の成長には、地理的な利点も寄与しています。この地域は大気の状態が安定しており、静止軌道への衛星打ち上げに適した場所として認識されています。さらに、政府の支援や投資の増加、地域内外の協力関係の強化なども成長を後押ししています。これにより、欧米や中国といった大国との協力や競争が盛んです。例えば、オーストラリアはNASAとの月探査計画で、ニュージーランドは中国と衛星の打ち上げで協力しています。

以上のように、オセアニアの宇宙産業市場はまだ発展途上ですが、オーストラリアとニュージーランドの取り組みによって急速に成長しています。2030年までに市場規模が約1.5兆円に達するという目標を掲げるなど、この地域の宇宙産業の将来は非常に期待されています。地理的な利点や協力関係の強化により、オセアニアは宇宙産業の重要な拠点となる可能性を秘めています。

オセアニアの宇宙スタートアップ市場

オセアニアは、地理的に広大で人口密度が低い地域であるため、衛星やロケットなどの宇宙技術を活用することで、通信、農業、防災、環境などの分野で様々な課題を解決する可能性があります。近年、オセアニアでは、宇宙を活用したビジネスアイデアコンテストやインキュベーションプログラムなどが開催され、多くの宇宙スタートアップが誕生しており、オーストラリアでは約216企業が活躍しています。
(参照:https://note.com/tenchijincompass/n/n4f5eda3a43e8) 

オセアニアの宇宙スタートアップは、「ボーン・グローバル」と呼ばれる、創業時からグローバル市場を視野に入れたビジネスモデルを採用していることが多いのが特徴です。
しかし、オセアニアの宇宙スタートアップは、「資金」「事業化を担う中間人材」「世界における認知度」の3つの不足があると言われています。

これらの課題を克服するために取り組んでいる対策を紹介します。
「資金」面では、オセアニアの国内市場は小さく、宇宙関連の投資家やベンチャーキャピタルも少ないため、海外からの資金調達が必要です。そのため、オセアニアの宇宙スタートアップは、海外の投資家やベンチャーキャピタルと積極的に交流し、ピッチイベントやデモデイなどに参加して自社の技術やビジョンを発信することで、資金調達の機会を増やしています。例えば、ニュージーランド人がCEOを務めている小型ロケット開発のロケット・ラボは、米国や英国などから累計3億ドル以上の資金を調達しています。

「事業化を担う中間人材」とは、宇宙技術とビジネスモデルの両方に精通した人材のことで、オセアニアではこのような人材が不足していると言われています。そのため、オセアニアの宇宙スタートアップは、海外の宇宙関連企業や機関と協力し、共同開発や技術移転などを行うことで、宇宙技術の蓄積や市場開拓に役立てています。
例えば、オーストラリア発祥で小型衛星を開発するフリート・スペース・テクノロジーズは、NASAや欧州宇宙機関(ESA)などと提携し、農業や鉱業などの産業におけるIoT(モノのインターネット)ソリューションを提供しています。

「世界における認知度」とは、オセアニアの宇宙スタートアップが提供するサービスや製品が、海外の顧客やパートナーに知られているかどうかのことで、オセアニアはこの点も弱いと言われています。そのため、オセアニアの宇宙スタートアップは、海外の宇宙関連イベントやメディアに積極的に参加し、自社のサービスや製品を紹介することで、ブランディングやマーケティングを行っています。例えば、オーストラリア発祥で小型再突入衛星を開発するエレベーション・スペースは、英国を拠点とするSeraphim Space(注:宇宙およびドローン技術を持つスタートアップに特化した世界初のベンチャーファンド)のアクセラレーションプログラムに選出され、世界の宇宙関係者と交流しています。

オセアニアの宇宙スタートアップは、資金、人材、認知度という3つの課題を克服するために、さまざまな取り組みを行っています。これらの取り組みは、オセアニアの宇宙スタートアップが「誰もが宇宙で生活できる世界」を目指すための重要な一歩となります。

オセアニアで注目の宇宙関連スタートアップ

Saber Astronautics (Australia)


https://saberastro.com/

Saber Astronautics社は、2008年創業のオーストラリアに拠点を置くスタートアップです。人工衛星のミッション計画の立案から、人工衛星のテスト、その後の人工衛星の打ち上げから運用までをサービスとして提供しています。

Saber Astoronauticsの衛星オペレーションセンター(米国とオーストラリアに2拠点所在)

オーストラリアと米国の、政府機関・軍が保有する衛星の運用を請け負っているほか、多数の民間企業の衛星運用も行っています。
人工衛星は開発、打上、運用それぞれのフェーズで多大なコストがかかることが知られており、従来、衛星を保有する企業が全てのフェーズを抱えるため、非常に高コスト高リスクな事業でした。そのため、衛星を保有できるのは大企業や、大規模な投資を呼び込めるスタートアップ(SpaceX等)に限られていました。
しかし、近年になってそれぞれのフェーズでのサービスを切り出して売る、XaaS(X as a service)が、宇宙業界でも注目されています。
2022年9月23日配信のTenchijin Tech Blogでは、XaaSの一種である「地上局ビジネス(Ground segment as a Service: GSaaS)」を紹介しました。GSaaSは、地上局の整備・運用を衛星オペレータ向けに提供するサービスです。
Saber Astoronauticsが提供するのは、衛星運用サービスで、Operation as a Serviceの1種です。衛星の打ち上げから運用終了に至るまで、衛星へコマンド送信し、衛星のミッションを実現したり、他の衛星との衝突回避をする軌道マネジメント等を行います。
Saber Astoronauticsは、衛星運用の経験を活用し、世界の衛星の所在のわかるWebブラウザツールや、衛星のミッション設計に役立てることのできる軌道シミュレーションツール等のソフトウェアも販売しています。
今後、人工衛星が増加していく時代において、自社で実施するよりも低コストでの衛星運用が実現可能なサービスを提供している点で、Saber Astoronauticsは宇宙への参入障壁を低くする存在として、世界で注目されるでしょう。

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