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【特集】独自の技術力が強み。欧州の宇宙関連スタートアップの最新情報

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

天地人は、昨年12月にEC(欧州委員会)とESA(欧州宇宙機関)が主催する衛星データを利用したビジネスアイディアを募る国際的なコンテスト「Copernicus Masters」の一部門で、アジアのスタートアップとして初優勝を飾りました。この他にも、欧州における複数のコンテストで受賞経験があります。

欧州でのビジネス展開を加速するため、フランスを拠点にするメンバーが複数おり、欧州の宇宙産業市場を注視しています。

本日は、天地人が注目する欧州の宇宙関連スタートアップを紹介します。

欧州の宇宙市場

2017年の欧州の宇宙産業市場は530~620億ユーロ(6.8~7.9兆円、2017)と推計されており、アメリカに次いで世界2位の規模と言われています。しかし、英国のEUからの離脱、中国宇宙産業の台頭等の影響があり、今後世界2位の座を保つには、長期的な戦略とEU加盟国間の協力・連携が欠かせない状況です。

出典:日本政策投資銀行「日本における宇宙産業の競争力強化」(2017)

欧州の宇宙関連スタートアップ市場

欧州における宇宙関連スタートアップへの民間投資額は、年々増加しており、2021年には約6億ユーロでした。さらに、欧州の各国では、国による資金援助も活発で、フランス(15億ユーロ)、イタリア(13億ユーロ)等が、民間の宇宙産業へ投資を行っています。

参考までに、日本では2020年に官民合わせて、約3億ユーロが投資されています。

出典:Ifri 「The Space Downstream Sector Challenges for the Emergence of a European Space Economy」

2021年時点で世界の宇宙関連スタートアップは1万社以上あります。米国に次ぐ第2位となるのが、英国(742社)です。

欧州の各国を見ると、日本(193社)よりもスタートアップ数の多い国として、英国のほかに、ドイツ(465社)、フランス(365社)、スペイン(276社)、オランダ(250社)が挙げられます。

出典:SpaceTech Analytics「SpaceTech Industry Landscape Overview 2021 Q3」

近年、中国、インドの宇宙関連スタートアップ数も増えてきていますが、米国の次に規模の大きい宇宙関連スタートアップコミュニティとして、現時点では、英国と欧州が位置づけられるでしょう。

注目の欧州宇宙関連スタートアップの紹介・解説

ここでは、宇宙関連スタートアップの多い、英国、ドイツ、フランス、イタリアにおいて、独自の技術を持つスタートアップを1社ずつ紹介し、解説します。

https://www.spaceforge.co.uk/

Space Forge

Space Forgeは、2018年創業の英国ブリストルを本拠地とするスタートアップです。微小重力下での素材開発実験を行うための、再利用可能な人工衛星を開発しています。人工衛星に実験対象を搭載後、LEO軌道へ打ち上げ、軌道上で自動で実験を実施したのち、人工衛星を大気圏に再突入させ、地上で実験対象を回収します。この一連のサービスをMicrogravity as a service(微小重力実験サービス)と呼び、今年中に人工衛星初号機Forgestar-0を打ち上げる計画です。

  • Space Forgeの技術:微小重力実験用の再利用可能衛星の開発

従来微小重力実験は、地上に設置された落下塔や小型航空機・大気球・ロケット、国際宇宙ステーション等で行われることが主流でした。落下塔等で実験を行う場合、微小重力環境になるのが10秒程度でとても短時間であることが課題となります。

また、国際宇宙ステーションでは長時間微小重力環境を実現できますが、宇宙飛行士が世界から募集された微小重力実験を行うため、実験回数が限られます。また、国際宇宙ステーションのLEO軌道上にはデブリや原子状酸素が存在し、実験に利用する素材が傷つき、劣化するリスクが高くなっています。

このような課題を解決するために、Space Forgeは人工衛星による微小重力実験サービスを展開する計画です。

Space Forgeの人工衛星は、軌道上に数カ月留まり、長期間にわたり微小重力実験が可能です。また、衛星を再利用可能とすることで、微小重力実験の機会を増やそうとしています。

実際にSpaceXは、再利用型ロケットの実用化に成功しており、衛星の再利用も技術的には可能と考えられます。

その際に課題となるのが、以下の4点です。

  1. 展開した太陽電池パドルや実験用部品の収納

  2. 軌道から離脱し地球に再突入する際の制御・推進

  3. 再突入時の空気抵抗による熱や振動から、衛星と実験対象を守るためのシールド・カプセル

  4. 衛星と実験対象の地上での回収

Space Forgeでは、3点目の課題に対応するシールドとカプセルについて、先進的な方法を用いると述べています。また、4点目の課題に対応するために、衛星と実験対象の着地地点の予測アルゴリズムを開発しています。

今年中に打ち上げが予定されているForgestar-0で技術的な実証を行い、再利用衛星による微小重力実験の実現可能性が示されれば、世界初の民間による微小重力実験サービスとして、世界の大学、研究機関や企業から期待される存在となるでしょう。

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