【記憶より記録】図書館頼み 24' 3月
忙殺必至の年度末も終わりを迎えようとしております。
とは言え、全てが3月31日に片付くわけがありません。特に、今年は次男坊の進学に伴う引越しやら何やらで、4月に入ってからも慌ただしい日々が続きそうです。もっとも、その辺のゴタゴタは織り込み済み。けれども、一日は24時間であり、体は1つ。腰を痛めただけで万事休すになるわけですから、平素より慎重かつ確実に予定をこなすよう努めておりました。
といったわけで、忙殺の年度末は「緩めの本」を借りて、就寝前の30分限定で読書しておりました(寝落ちの日々)。故に、進捗も捗々しくなかったのですが、なんとかこの2冊だけは読了。
されば、3月の「図書館頼み」を備忘して参りましょう。
1:江戸の怪談がいかにして歌舞伎と落語の名作になったか
著者:櫻庭由紀子 出版:笠間書院
本書に関しては、題名が内容を顕著に表しているので、あらましに触れる必要は皆無だろう。
いずれにしても、落語や歌舞伎、講談といった古典芸能は、分かち難き相互関係を保ってきたことは言うまでもない。
落語の「淀五郎」「仲村仲蔵」などは、歌舞伎の舞台裏を描いたヒューマンドラマだと言えるし、仮名手本忠臣(前出の二演目も同様)を題材にした「四段目」「七段目」などは、芝居好きの人間達が織りなす滑稽噺である。
本書は、こうした分かり易い関係性の後ろ側を読者に見せようと試みている。しかも、テーマを「怪談」に絞っている点が潔い・・・と云うか、絞らないとまとめることが困難であったことは想像に難くない。
悠久の時をかけて根と枝葉を広げてきた古典芸能(或いは、文化・民俗的な分野)を取り上げることの難しさを思う。
著者の櫻庭氏は、ライターであると同時に三遊亭楽松さんの女将というお立場でもあられる。いわゆる研究者や識者ではないが為に「分かり易く伝えよう」という意識が強く働いているのだろうか。また、噺家を支えるパートナーというだけあって、落語にまつわる話のディテールが粒立っており、頗る好感をもった。
落語をこよなく愛する身としては、古典芸能の魅力を伝えようとする著者の責任感に対して、ただただ敬意を表するばかりなのである。
2:ヌシ 神か妖怪か
著者:伊藤龍平 発行:笠間書院
こちらも題名から察することができる一冊である。
日本には有名無名を問わず数多の川や湖沼が散在していて、それら水に関係する場所の多くに「ヌシと思しき存在」を想起させる逸話が遺されている。それは正に、日本が島国でありながら、水資源に恵まれた国であることの証でもあろう。
かつて著者の伊藤氏が記した「ツチノコの民俗学」「江戸の幻獣博物誌」を読んでいたこともあり、内容に過不足なしと信じて借りたのだが、読み進めていく内に本書を評価するのは難しいと感じてしまった。
著者は、自身が定義した「ヌシ」を、独自のイシューに沿って取り上げているので、文章を追うことはできても、著者が伝えたかった事柄を受信するまでに時間を要した。
著者が提示したそれぞれのイシューは面白いと思う。ただ、読者が置き去りにされたような印象は最後まで拭えなかった。
今月の「図書館頼み」で取り上げた図書からは、内容よりもむしろ、知見を一冊にまとめる難しさ(或いは読者を選ばない内容に仕立てる難しさ)を教えてもらったような気がしている。
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