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【作品紹介】陸前國 春告魚 -豊穣の海に春の訪れを告げる魚-

 三陸の海や山の食文化や慣習に根差した根付作品「 陸前國シリーズ 」の 第2弾となる陸前國 春告魚りくぜんのくに はるつげうおが完成したので、お披露目をばさせて頂きましょう。


1:モチーフ

 作品のモチーフは、春告魚と呼ばれるメバルです。
 本作では、身の厚い良型のメバル(凡そ8~9寸)を、雪氷を敷いた古い竹笊に2尾並べてみました。
 場面としては、この十数分後には調理場でおろされて、美味しい煮魚となって僕らの胃袋に入る … といったところでしょうか(涎)。

2:メバルという魚

 メバルの種類は多く、今日こんにちまでにクロメバル・シロメバル・アカメバル・ウスメバル・トゴットメバル・ウケクチメバル・カタボシアカメバル といった種類が確認されています。
 ※メバル属に範囲を広げるとアコウダイやソイ各種、ヨロイメバルといった魚種まで含まれます。特に、前出のクロ・シロ・アカの3種に関しては、遺伝子解析により3種の学名と和名が決定(2008年)されています。

 船釣りを嗜まない僕(息子たちも)は、もっぱら県内の漁港や地磯で釣っていたのですが、釣れるサイズは総じて20cm前後と小さく、メバルの種類としては圧倒的にシロメバルが多かったですね。割合的には、シロメバル・C型 99%(残り1%はアカメバル・A型)といったところです。

 この値は、あくまでも私的かつ限られた範囲のデータに過ぎませんが、長男が小学校4年生の時に、夏休みの研究として「宮城県沿岸の港で釣れるメバルの生態を調査する」というテーマを掲げてしまったことから、6月~8月までの間に、北は女川港界隈から南は鳥の海(阿武隈川河口付近)まで釣り歩いて得た結果でもあり、僕自身は実態を著しく逸脱していない値(割合)であると捉えています。※分類は、主に胸鰭むなびれ軟条数なんじょうすうで判断。

 おっと、余談が過ぎましたね。
 いずれにしても、製作者としては特定のメバルをモチーフにしたというよりもむしろ、メバル属がもつ特長をデフォルメして彫るように努めました。

3:メバルと根付の親和性

 前作陸前國 海宝參品りくぜんのくに かいほうさんぴんでは、根付の要素として大切にしている ” 言葉遊び ”” ゲン担ぎ ” といった裏テーマの色彩が薄くなってしまいましたが、本作は ” さに非ず ” です。

 メバルは、漢字で書くと「眼張」「目張」となります。
 皆さん如何でしょう?「目を見張るような …」 と言ったような文句が思い浮かびませんか? そうなれば、後に続く言葉は「活躍」とか「成果」といったようなポジティブな言葉が当て嵌まるはずです。

 実際、メバルという魚は、海藻や牡蛎棚の間に身を潜めながら、身に迫る危険を察知し、かつ効率よく捕食すべく、常に上を向いて海の中をホバーリングしています。この「上向き」ってのも好ましいですね。食べても美味しい魚ですから、あらゆる面でポジティブな要素を感じることができる魚だと言えるでしょう。

 と言った具合に、あくまでも僕の ” こじつけ的な言葉遊び ” で申し訳ないのですが、此度の製作を機に、メバルという魚を  ゲンを担ぐに相応しいモチーフ ” として認識したというわけです。僕にとっても新しい発見となりました。

4:根付の装飾について

 此度も、目に水牛の角象嵌ぞうがん)を活用しました。あえて斑な部位を使いましたが、生命感が高まったように思います。また、各メバルの差異を際立たせるために、目の大きさや出っ張り具合も変えてみました。

 また今回は、使い古された風体の竹笊の上に、雪氷を模した(雰囲気が伝われば幸い也)鹿角の薄板をあしらってみました。

 完成ホヤホヤの現在は、木部と鹿角のテクスチャーの異なりによるコントラストが強く出ているように思われますが、使い込んでいくうちに馴染んでいくはずです。(経年変化に期待)

5:根付「春告魚」に込めた願い

 数多ある釣り物の中で、僕にとって最も ” 家族との思い出が濃い魚 ” になっているのがメバルです。特に、長男がメバル釣りを好んでいた事から、メバルのシーズンを迎えると、毎週のように漁港へ足を運んだ(運ばされた?!)ものです。

 僕が大好きな川(渓流)を舞台にした釣りは、幼い子どもにとって難易度が高く、相応の危険(熊や毒蛇・渡渉を伴う遡行など)を伴うため、僕は息子たちに海釣りを教えることから始めました。
 そんな時間を過ごしていく中で、ハゼやメバルといった小型だけれど釣り味の良い魚達(子気味よい引きを堪能させてくれる魚)が、息子たちを釣りという味わい深い愉しみに没入させていってくれたのだと感じています。

左:胸鰭の軟条数を数える 右:桂島のメバル(2008~2009年頃)

 釣りによって待つことを覚え、マナーや危険予知能力を身に付け、そして自分で獲った魚を食べる喜びを知ることは勿論、釣り人がもたらす負の部分をも学ぶことができたように思います。
 そんな「 成長の場 」となる海や川や山が、いつまでも僕たちの傍にあらんことを切に祈るばかりです。


 と云うことで、三陸に寄せる想い思い出深き魚 メバル をマリアージュさせて製作した「 陸前國 春告魚 」の紹介を終えさせて頂きます。なお、興味のある方は、下リンク先を訪問して頂ければ幸いです。

【使用材料】
 本体:黄楊(ツゲ:御蔵島産)
 目の素材:水牛の角(象嵌)
 装飾の素材:鹿の角(雪氷をイメージ)
 仕上げ材:染料(ヤシャブシ)、イボタ蝋
 付属品:桐箱、手作りクッション、正絹組紐
【サイズ・長さ】  
 本体サイズ:縦径 42㎜ × 横径 43㎜ × 厚み 20㎜(最大部分で計測した凡その寸法)

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