「手紙処」誕生秘話 03 手紙を書く場所へつながる道
こんにちは。手紙寺発起人の井上です。
船橋の手紙処を作るとき、私は手紙を書くときのエッセンスになるようなものをところどころに散りばめました。それらを知っていただくためにも、もう少し、船橋の手紙処についてお話したいと思います。
大切な人に会うための特別な「道」
前回お話ししたように、手紙処を作るとき、私は当時見た韓国映画「イルマーレ」から大きなインスピレーションを受けました。
手紙が時空を超えて、会えないはずの二人を繋ぐ美しいラブストーリー。この物語に登場するものの中で、私は、ポストのほかに「道」にも大きな意味合いを感じました。当たり前に私たちの生活に存在する「道」。しかし、実はとても大切な役割を果たしているように思うのです。
イルマーレに登場する主人公の住む家は、干潟の上にポツンと建っています。潮の満ち引きで砂地が見えたり、ポツンと海の上に立っているような家です。家と陸地を繋ぐ桟橋が道の役割を果たしています。家から出て桟橋の道を渡り終わったところにポストが置かれています。物語の中では、なんども主人公が手紙を書くために「道」を進んで家に入り、ポストへ投函するために「道」を歩いていきます。
その「道」を歩くということはとても美しく、なにか大切な儀式のようにも感じました。手紙を書くための部屋に向かうためだけの「道」。ポストに向かうためだけの「道」。
前回のポストをご紹介する際にも書いたように、ポストは大切な人に出会うための場所でした。そして、主人公の住む家は大切な人に当てた手紙を書く空間でした。そう考えると、主人公にとってポストと家をつなぐ続く道もまた特別なものではないでしょうか。
「道」を進みながら、気持ちが整っていく。
手紙を書くための大切な場所。届かないはずのひとに手紙を届けてくれる特別な場所。そのような場所へ向かうときは心の準備が必要なのではないかと思いました。そして、そのために「道」はとても大切なのだと思います。
手紙処にも、その道がきっと必要です。
そして、その道を通らないと手紙処へたどり着くことができない特別な道でありたい。そしてできれば、その道は、長く、少し不便なくらいでありたい。
その道を進み始めた時には、日々の慌ただしい気持ちが残っているでしょう。その道を歩きながら、手紙を書く相手のことを考えはじめます。
道を抜けた時、あなたはすでにその人に話しかけいるかもしれません。そして、手紙処に着いたときには、あなたの言葉が手紙に溢れるくらいになっている。
まるでお寺の参道のように「道」を歩みながらこころを整えていく。
手紙を書く前に「道」はとても大切だと感じ、埼玉に手紙処を作る構想を練っていたとき、手紙処へ続く道にはそんな想いを詰めました。
わざわざ、長く続く階段を登った先にお寺があるように、手紙処にはステップを歩んでから入るようにしたいと考えました。
最初の構想段階では、それを埼玉の手紙処で実現する予定で、建築家の押尾先生と繰り返しモックアップを作りながら語り合いましたが、それはまた別の機会にお伝えできればと思います。
実は船橋に完成した手紙処でも、そこに至る「道」に同じ思いが込められています。次回は、船橋の手紙処についてもっと詳しくお話しをしたいと思います。
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井上 城治 | 手紙寺 発起人
1973年生まれ。東京都江戸川区の證大寺(しょうだいじ)住職。一般社団法人仏教人生大学理事長。手紙を通して亡くなった人と出遇い直す大切さを伝える場所として「手紙寺」をはじめる。趣味は、気に入ったカフェで手紙を書くこと。noteを通して、自分が過ごしたいカフェに出会えることを楽しみにしています。
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