サムライ 第14話

【前回の話】
第13話https://note.com/teepei/n/nf20163267c69

 その日の午後から山辺は仕事に復帰した。それまでは森井の下にいる人間というだけで、ろくに話を聞いたことがなかった。だから、森井と山辺は学校がまるで違うことも初めて知った。貧しい家庭に育った山辺は、そのことが負い目で幼い頃から周囲と馴染めないことが多かった。そのまま年を重ね、気付けばろくに学校にも出ず、街をふらつくことが多くなっていた。しかし仲間とつるむようなことはなかった。ある日肩がぶつかったという理由で、五人程度の連中と一人で対峙する破目になった。多勢に無勢で容赦なく打ちのめされ、ボロボロになって倒れてもなお攻撃を受け、そんな絶望的な暴力の中、現れたのは森井だった。とは言え、森井も仲間とつるむタイプではない。まさかのたった一人でこの渦中に首を突っ込んできたのだった。いかれてる。痛みに打ちひしがれながら、微かにそんなことを思った。そして確かににいかれていて、大して喧嘩は強くなかったものの、ボロボロになりながら連中を撃退したのだ。
「ほら、立てよ」
 と差し出された手を掴みながら、どこか危うさを抱える目の前の人間に興味を覚えた。
 それからは森井を見かければ声を掛け、話すうちに行動を共にするようになったという。山辺にとって森井は初めて絆を感じることが出来た人間だったのだ。
 そんなことを話しながら、こなす仕事は以外に勤勉だった。そして気遣いも細かい。山辺を壁にして森井と疎遠になった、と思っていたが、森井がいることで見えなくなっていた山辺の部分もあったのだ。復帰後の山辺は、仕事ぶりを高く評価されていた。それでもなお、森井のことは気に掛けている。仕事を辞めた後の森井は荒れていたそうだ。手当たり次第に喧嘩を吹っ掛け、カツアゲし、そのお金で酒を飲んだりパチンコに行ったりして、また喧嘩をした。そのうち、つるむことをしなかったはずの森井がキナ臭い連中と関わりだしたと言う。
「金になる話があるらしい、って。そんなこと言ってたけど、それでも誰かとつるむような人じゃないんだ。それだけあの人も、自分を見失ってたんだと思う。だから、目を覚ましてくれって、そう言ったんだけどさ。案の定キレちまって。そこから音信不通さ」
 そこまで話すと山辺は俯き、まるで引き留められなかった自分を責めているようだった。
(続く)

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