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【35年の歴史を持つ名店「深川つり舟」が見てきたもの ❘ TEDxHitotsubashiU2024 インタビュー企画】

私たちTEDxHitotsubashiUは2018年の設立以来「一橋大学内で新しい視点と出会う機会を提供すること」を理念として活動してきました。

来場者の皆様や一橋大学の学生に弊団体のイベントを通して、一橋大学が位置する国立という街の魅力にも出会ってほしいという想いから、今回国立市のお店や、国立市で活動されている方々に、今年度のイベントのテーマとなる”+roads(クロスローズ)”を主題にインタビューを行いました。

本企画を通して、国立というまちの魅力を再発見すると共に、今年度のテーマの核となる”人生における様々な選択”について再考する機会をお届けできたら幸いです。


インタビュアー

池田:Speakerチーム所属、社会学部4年生。20年入学、24年卒。出身は北海道札幌市。

清水:Speakerチーム所属、社会学部2年生。22年入学。出身は愛知県一宮市。



今回インタビューを引き受けていただいたのは、国立駅から徒歩3分の場所にある「深川つり舟」の女将、湊 由紀江さん。

1989年の開業以来、多くの国立市民や一橋大生に愛されてきた「深川つり舟」ですが、その歴史はまさに波乱万丈だったそうです。お客さんとして来店する大学生、アルバイトスタッフとして働く大学生との触れ合いを通じて、様々なことがらを肌で感じ取っていらっしゃったそう。

そんな湊さんに、【つり舟と、国立の魅力】【大学生に伝えたいメッセージ】【ご自身の「選択」】という3つの視点からインタビューをさせていただきました!

【岩手から東京へ -湊さんにとっての「選択」-】

池田:湊さんにとって「今までの人生で最も大きな決断を迫られた瞬間」はありますか?

湊 由紀江さん(以下、敬称略):岩手から東京に出てきた時の決断が一番の「選択」かなと思います。私は田舎に残りたかったんですけど、うちの母が仙台の人なので、こんな田舎にずっとうずくまってたら何も知らないで終わっちゃうから、「東京へ行きなさい」と母に言われ、追い出されるようにして出てきました。

池田:なるほど。ご自身の視野を広げるためであったり、選択肢を広げるための「選択」だったかもしれないですね。

もし、現在の道を選んでいらっしゃらなかったとしたら一体どういった人生を歩まれていると思いますか?

湊「ああ、そこへ行っとけばよかったな」とか、「ここへ行っとけばよかったな」とか、それはいまだに思いますね。

電電公社って分かりますか?今はもう全部自動になっていますが、昔は紐を機械につなげる仕組みだったんですよ。

池田:電話交換手さんとは違いますか?

湊:そうそう。専門学校に行って、そこで紹介されたのが東京消防庁でした。電電公社か消防庁かどっちかって言われたんですけど、どっちにも夜勤があったんです。

田舎育ちの娘がぽっと出てきて一年そこらくらいで、そんな夜勤のある所に勤めるっていうのは考えられなかったんです。それで、そういうところを全部断って結局別の会社に行きました。

でも、選んだ会社でも楽しい人生でしたよ。そのあとはもう、あの人(ご主人)と知り合って国立に来ちゃったんですけど。

別の選択をしていたら、私の人生もまるっきり変わってたかもなということは思いますね。

池田:人生にはたくさんの可能性がありそうですね。確かに僕にも、「昔こうしとけばよかったな、ああしとけばよかったな」と思うことはたくさんあります。

湊:私も飲食店で勤めるっていうのは、昔は考えられなかったんです。ましてや東京だったら何があるか分からないし。

そういうことが頭にあって、私は飲食店関係は絶対やらないって、思ってたんですよ。人とこうやって接してお話ししたり、物を出したりとか、自分にはできないと考えていました。

やっぱりやらざるを得なくなると、どうしても底力が出てくる。今ではこのお店をやってても楽しいです。最初のうちは、苦痛だったけどね。

でも、なんでもそうじゃないですか。仕事ってやり始めは、自分でちゃんとそれを解釈するまで、本当に大変だなと思うんですけど。それが少し自分の身についてくると、少しずつ少しずつ、面白みが出てくる。

池田:やっぱり何事も続けてみないとわからない側面ってありますよね。僕の祖母もよく口を酸っぱくして言っているのが、「石の上にも三年」だからね、と。まず3年、何事も耐えてみなさいと口を酸っぱくしてずっと言われてきました。

湊:3年やればなんとかなる。先が見えてくるんですよね。私も、ずっと会社勤めしてたからね。いろいろとね、20年間勤めました。

【「つり舟」の魅力は、どんなところに?】

池田:「つり舟」さんの魅力について、ずばり教えていただきたいです!

湊:これは私が答えるよりも、バイト生だったりとか、あとは来ていただいた方が感じるところなのかなと思いますが、おかわり自由でいっぱい食べられるという点が魅力なのかもしれません。

池田:個人的には「つり舟」さんの魅力の一つには、大盛りにできるメニューの「ボリューム」があるかなと思うんですが、このメニューのこだわりを教えてください。

湊:盛り付けにものすごくこだわりがありますね。あとは素材にもものすごく気を使ってます。

池田:その食材の新鮮さも、魅力の一つということなんですね。

湊:そうですね。

池田:大学近くにあるので、学生さんが集まりやすかったりしますか?

湊:コロナ前まではそうでした。ただコロナになってから、学生さんは学校に来ちゃいけないっていうことになって学生が少し離れてしまいました。客層は変わって、学生主体ではなくなりましたね。

今、こうして(一橋大学の体育会系運動部のユニフォームを)飾ってるけど、昔はもう本当に体育会の人たちがいっぱい来てくれたりという感じでした。新歓だとか、そういうのもほとんどもう学生さんで全部埋め尽くしちゃうくらいだったけど、今はないですね。

店内に飾れらているユニフォーム

池田:なるほど、コロナ禍の影響が大きくて、今までの文化が少しずつ失われつつあるのかなということでしょうか。

湊:国立のお店はどこもそうじゃないかなと思うんですよ。先輩が連れてってご馳走してくれるっていう習慣っていうか、昔はあったけど、それが今はもうないですよね。何かあると行こうって言って、連れてきて先輩がお金を出してくれるとか、その先輩たちが後輩にご馳走してくれるみたいなのは、しょっちゅうありましたが、そういう面でも本当に今は変わってきたと思います。

池田:変化があったんですね。僕も大学入学時にコロナが直撃した代だったので、サークルに入るにしても、やっぱり情報がなくて。先輩からお話を聞く機会が全然無かったんです。そこで交流が断たれてしまったというのは感じましたね…

湊:私たちもその時に一番心配したのがそこですよね。「新入生はどうしてんだろう」っていう。やっぱり人の繋がりというか、その人を知ってもらうためには、やっぱり会って話するっていうのが一番ですよね。

池田:触れ合う機会が少なくなってしまったというところで、大学生も、国立のお店もたくさん影響を受けているという側面もあるのかなと思います。

湊:そうですね。

池田:そんな中でも、「つり舟」の店内からは学生さんの楽しそうな声が聞こえてきたりと、コロナ禍を経たとしても、そういう側面で受け継がれているところもあるのかなと思います。

湊:そうですね。うちは最初の頃にラクロス部の子がここでバイトしてて、そこからの繋がりでラクロス部の子たちが来てくれたりしていました。

ただ、今はやっぱりそういった交流がない。先輩との接点っていうか、そういうのが絶たれてしまって、どういうお店に行ったらいいかとか、そこすらも分からないという話も聞きました。

OBさんたちもたまにお店に来るのですが、「自分たちにはやるべきことがある」と、後輩を連れて、いろんなお店に行ってご馳走してあげるっていうのが一つの役目だと話していました。

池田:コロナ禍を経ても、OBさんとの繋がりは根強く残っているんですね。過去に今まで「つり舟」さんが築いてきたものが、「人とのつながり」であったと言えそうですね。

湊:OBさんとのつながりっていうのはうちのその魅力の一つかなと思います。

OBさんたちもここに時々来て、忘年会や新年会をやってくれたりします。

私も主人もそうなんですけど、人とのつながりを一番大事にしていて、人情がやっぱり大事かなと思います。一人の人間として、そこは持ち続けていきたいなと。

それを学生たちにも教えてあげたいと思うんですよね。

【35年過ごして見えてきた、国立の魅力】

池田:「つり舟」さんが国立で開業されたのが1989年のことで、今年で国立に来て35年目ということになると思います。国立で35年間お店をやっている中で感じる、国立の良さはどんなところがありますか?

湊:本当に住めば都で、のんびりしたところが良さですね。緑が多くて、あとは街行く人の歩く速度が違うんですよ。まず一番最初にそれを感じましたね。

「あれ、何なんだろう」って思ったら、歩く速度が違う。下町の方とかだと都会なので、そこと比べるとやっぱり動きが全然違いますね。ここの良さは、住めば本当にのんびりしてて、あくせくしないで暮らせるところかなと。

池田:僕も国立の良さとして、のんびりしたところとか、あとは自然豊かで大学通りに四季を感じられるところがいいなと思います。歩く速さについても、都心の方に行けば行くほど速くなるというのは言われてみればそうかもしれないですね。

湊:一橋大生は社会人になれば、みんな都会の方に住む人が多いと思います。そうすると、あっちのペースに合わせていかなくちゃならないから、気持ち的にも圧迫感っていうか、そういうのを感じるかもしれないですね。

【大学生に伝えたいメッセージ】

池田:「つり舟」さんは今まで大学生の方とたくさん関わっていらっしゃったと思うんですが、今の大学生に伝えたい人生のアドバイスであったり、教訓はありますか?

湊:やっぱり今の大学生はコミュニケーション能力に欠けてるみたいな。人と接するっていうのがちょっと足りないんじゃないかなと思いますよね。

学生さんはどこでもそうなんだろうけど、「学生は学生同士」みたいな雰囲気がある気がします。ちょっと年齢が上の人たちとお話をすると、面白い話がいっぱい出てくるので。そういうところに目を向けていった方がいいんじゃないかなと思います。

池田:なるほど。同じ年齢層の若い人たちだけじゃなくて、大人の方々とも関わるといったことですね…

湊:そうですね。うちのバイト生はほとんどが一橋生なんですけど、まかないの時には一緒にご飯を食べながら話しをするんです。やっぱり、大人と関わる時間っていうのがあまりないので、少しでも「あ、大人ってこういう考えなんだ」とか、「あ、こういうことしてきたんだ」といったことを知ってもらいたいと思っています。

いろんな話を聞いていれば、社会人になった時にも引き出しができるんじゃないかなと思います。

池田:なるほど。若い人で固まっているだけだと得られない考え方であったり、養うことのできないコミュニケーション能力みたいなものがあるのかなと思います。「あ、大人の方々ってこういう風に考えてるんだ」とか、「これが社会人としての常識なんだ」といったように、大人の方々から学ばせていただくという態度が大事なんだなと思いました。

池田:最後の質問ですが、ご自身が何か選択する際に、「一番大切にしているご自身の判断基準」みたいなものはあったりしますか。選択する時に何を大切になさっているか、どんな考え方で行動しているかなど。そういったところをお聞きしたいです。

湊:なんでもそうなんだけど、一つのことに満足しちゃいけないと思うんですよね。これをやったから「ああ、これでいい」ってことはないと思うのね。その次があるわけで、その次を探すっていうことが大事かなと。

池田:なるほど、何かを選択する時に、その先に一体何が待ってるのかとか。その先で自分はどういうことがしたくて、この選択をするんだといったビジョンが大切ということでしょうか?

湊:ここもコロナになってからは、本当にお客さんは来なかったです。ゼロの時もありました。そういう時にどうしたらいいか、ただ手をこまねいて待ってるだけじゃ、なんにもないわけですよ。

じゃあどうしたらいいかっていうことを考えなくちゃいけない。何かをしなくちゃならないっていう風に考えて、OB・OGさんたちの支援でウーバー(Uber Eats)をやってみたり、テイクアウトやってみたりとか、そういうことを始めました。

OB・OGさんたちのそういう支援がきっかけで、「やるぞ、負けてらんないぞ」という気持ちになりましたね。

池田:現状に満足せずに次へ次へと進んでいくという、そういうマインドで選択をなさっているということですね。

湊:今でもそうなんですけど、例えばコロナが落ち着いて、じゃあ、お客さんもこれで落ち着いたのかというと、そうではないんです。もっとお客さんにここの魅力を知ってもらうにはどうしたらいいかっていうことを考えなくちゃならない。

これが終わったら、ここまでで終わりじゃなくて、その次を、と。

池田:なるほど。きっと今の大学生にも、そのマインドは刺さるんじゃないかなと思います。「選択」の先に一体何が待ってるのか。現状に満足しないで、次に次に進んでいく必要があるというお話、うまく記事にしてまとめられたらなと思います。

どうもありがとうございました!

Interview:池田勇来  / 清水美波
Text:池田勇来 / 福井郁花


2024年2月11日(日)に開催されるTEDxHitotsubahiUでは、魅力的なスピーカーのトークの他にも、本企画をはじめとした地域の魅力をお伝えできるような企画を多数ご用意しております。

開催概要▼
日時:2024年2月11日(日)13:45開演​
参加費:無料
対象:一橋生に限らず、どなたでも参加できます!
概要:カンファレンス(スピーチ)と交流会の2部構成
会場:一橋大学兼松講堂

詳細・参加申し込みはこちら▼


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