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なぜ、沖縄で豚肉が600年前には食べられていたのか?

結論

  • 中国とのつながりが大きい。

  • 「類をもって類を補う」という考え方+戦前まで高級食材だったため、肉は鳴き声とヒヅメ以外使い尽くす。


総務省当局「家計調査」によると、沖縄県の豚肉の消費量は、20219gで全国31位。全国平均も下回っており、現在の消費量多くないです。

ただし、この調査には、ソーセージ、ウインナーなどの加工肉、ポーク缶など畜産缶詰の消費量が含まれていません。沖縄県はポーク缶の消費量がずば抜けて高いため、豚肉を使った加工品も含めると、豚肉の消費量は上位になります。

まあ、ラフテー(角煮)、スーチカー(三枚肉の塩漬け)など、伝統的な沖縄料理には、豚肉が欠かせません。

なぜ、沖縄県で豚肉が昔から食べられてきたのか?について、調べました。

琉球王国時代の名残

琉球王国は、積極的に貿易が行われ、中国などアジア諸国と人やモノの往来が活発でした。特に、大交易時代(14〜16世紀)は明、清という中国王朝が変わるたびに中国皇帝の使者が琉球を訪れる儀式がありました。中国からやってくる使者は一度に400〜500人で半年ほど滞在します。歓迎の宴で使者の好みに合う料理を作らなければならなかったため、琉球の料理人を中国へ派遣させ修行させたり、中国から料理人を招いて対応していました。中国料理では、豚肉は重要な食材とされていました。

また、那覇には多くの華僑(中国から来た移民)も住んできました。沖縄の華僑の多くは福建省出身で、山の多い福建省では、豚肉は貴重なタンパク源でした。

この2つの理由で、豚の飼育がおこなわれるようになりました。

しかし、王室の限られた人しか食べられないほどの高級品でした。庶民が豚肉を食べることができたのは、正月、盆の行事のときのみでした。正月、盆になると、豚一頭を親戚、身近な人々と分け合い、効率よく調理し、栄養とれる料理が生み出されました。仏教が本土ほど浸透せず、肉食禁止も特にありませんでした。

牛、馬は、中国への貢ぎ物、士族の乗り物、農耕用としての価値が高かったため、食べることを禁じたため、豚肉の消費量が多いです。

沖縄で売られている豚肉の部位

ヒヅメと鳴き声以外は全て食べると言われています。豚を食べ尽くした理由は、戦前まで高級品だったため、残すことなく食べたこと、「類をもって類を補う」という自分の身体の悪い部分と同じブタの部位を命の(ヌチグスイ)」という、中国の漢方の考え方に基づいて食べる習慣がありました。

沖縄県にある市場だけではなくスーパーマーケットでも、さまざまな豚肉の部位が販売されているのを見かけます。本土で見られるしゃぶしゃぶ用、豚カツ用の肉で売られていました。さまざまな部位の詰め合わせの豚こま肉、特定の部位の切り落とし肉も販売されていました。出汁を取るための骨、まれに顔が販売されていることもあります。ロース肉は全般をボージンと読んでいます。

現在では、豚カツ、しゃぶしゃぶなど、さまざまな豚肉料理が食べられるようになりました。

沖縄でよく食べられている豚肉の部位が盛られた沖縄そば

三枚肉

沖縄県では、三枚肉が最もポピュラーです。三枚肉は、バラ肉のことで、お腹の部分のお肉です。脂身→赤身→脂身のコントラストが3層に見えるため、三枚肉と呼ばれています。

三枚肉といえば、脂っこいイメージをお持ちではないでしょうか?沖縄料理を食べていると、脂こさは、さほど感じません。理由は、下処理の手間を惜しまないから。長時間煮込んだり、下茹でしてから使用することにより、余分な脂肪分を落としたり、臭みを消しています。

三枚肉を塩漬けして保存性をもたせた、「スーチカー」、三枚肉を使った角煮「ラフテー」は、沖縄そばのトッピングとしてもぴったりです。一口大に切ってチャンプルーの具材に入れてもいいです。

バラ肉のかたまりを買って、本やクックパッドなどを見ながら、スーチカーなどの沖縄料理を作りたいです。

ソーキ(骨付きアバラ肉)

骨に肉をつけたまま、切り分けられてます。軟骨部分は、煮込むと柔らかくなり、コリコリやトロトロの食感に変わります。あばらの硬い骨は食べられませんが、髄から美味しい出汁が出ます。

沖縄本島中部では、余った骨付き肉で出汁を取る骨汁というスープがあります。骨汁は、ダシがら作るまでに材料が必要なこと、人気が高く、出会えたらラッキーなスープです。

あばら肉は、世界中で食べられていて、呼び方が変わります。詳しいことは、別の機会で話します。

テビチ(豚足)

てびちは、豚足のこと。足先ではなく、真ん中あたりの肉を指します。足先の部分をちまぐと言います。肉屋さんでは、ひずめを取った状態で販売されていました。じっくり煮込むことにより、軟骨がトロトロ。硬い骨とカンタンに分離できます。沖縄では、ラフテーのように、甘辛く煮たり、おでんの定番です。皮もついていました。

ミミガー

豚の耳。酢味噌和えやピーナッツ味噌と和えて食感を楽しみます。コリコリした食感が特徴です。顔の皮は、チラガーと呼びます。

中身(内臓類)

沖縄では、内臓類のことをまとめて「中身」と言います。中身は、汁物の具材として食べられることが多いです。

レバーは、滋養強壮の効果があるとされ、チムシンジという豚レバーの煎じ汁が薬代わりに飲まれていたした。貧血、夏バテ、風など体調不良のときに食べられていました。

沖縄の市場、スーパーでは、胃、小腸、大腸が合わさってボイルされた状態で販売されていました。丁寧に処理された中身は、臭みがなく、食べやすくなります。

中身汁として食べられることが多く、特に正月には、本土のお雑煮のように食べられていました。中身汁は、本土のもつ煮と比べると、醤油味で透き通っており、あっさりしています。

最近では、那覇市の繁華街、栄町を中心に、ホルモン焼きのお店が増えて、流行りだしています。ミノなどかつてあまり食べなかった部位も食べられるようになり、よりムダなく豚肉を消費しています。

ラード

豚からとれる脂肪。三枚肉を茹でるときに、アクを取り除き、冷やすと、白いカタマリが浮いていきます。浮いた白いカタマリを回収して、ラードが作られます。チャンプルーなど炒めものに重宝されます。最近では、炒飯など中華料理に使用することもあります。サラダ油の代わりにラードを入れることで、コクが増し、より美味しくなります。

ラードは黒糖作りにも役立てられており、色ツヤが良くなります。農業では、サツマイモ、サトウキビを豚の餌にして、豚のし尿を農作物の肥料にして、サツマイモや゙サトウキビなどを栽培するというサイクルが成り立っている

沖縄の豚の保存食

豚肉は、庶民にとって、貴重な食材でした。豚一頭を近所、親戚に分けて食べられていました。年中高温湿潤な沖縄で、一日でも長く豚肉を楽しむため、人々は工夫して豚肉を保存していました。

スーチカー

スーチカーは三枚肉の塩漬けです。豚肉を塩漬けにして保存する技術は、世界各地でも見られ、イタリアのパンチェッタ、グアンチャーレ、ドイツのアイスバインなどがあります。スーチカーは、炙ったり、水で煮て食べます。

油味噌(アンダンス)

ラードで味噌を炒めて作ります。砂糖、泡盛を入れて煮込むことにより、芳醇な香りと甘辛い味が広がります。アンダンスだけでご飯がすすみ、ついつい食べ過ぎてしまいます。お土産だけではなく、沖縄のコンビニのおにぎりの定番の一つです。

ポーク缶

1945年、アメリカの占領下におかれた頃、食糧難の時代に、配給物資としてスパム缶が送られました。スパムは、豚肉の余った肉を中心に、ラード、食塩、香辛料など、調味料を加えて固めて完成します。

ポーク缶は、缶詰を開けただけで食べられるため、アメリカ軍の携行食の役割を果たしていました。しかし、軍人も、毎日スパムを食べていると、「飽き飽きした」とぼやきます。さらに、イギリス軍にスパムを勧めても、まずいものとして扱われ迷惑がられていました。このエピソードから、迷惑メールのことを「スパム」と言われるようになりました。

しかし、沖縄では普及し、日本の95%の消費量を誇ります。さらに、ポーク缶の消費量は日本が世界第三位のため、沖縄は世界有数のポーク缶の消費地域です。ポーク缶の生産量世界一のデンマークより食べています。アメリカホーメル社のスパム、デンマークのチューリップ社のポークランチョンミートが二大勢力です。沖縄では、ポークランチョンミートが多数派のため、ポークと呼ばれています。ちなみに、ポーク缶の売上は、スパムが世界一です。

しかし、ポーク缶は、保存性を高めたり、見た目を良くするために添加物てんこ盛りで安全性疑われるようになりました。2004年、「わしたポーク」という国産の無添加ポーク缶が販売されました。チューリップ社も健康を意識してか、減塩、無添加のポークランチョンミートを発売しています。

スーパーマーケットに行くと、缶詰コーナーが畜産缶詰、農産缶詰、水産缶詰の3種類に分かれていました。沖縄県は、台風への備えのためか、備蓄食としての役割を果たす缶詰の種類が多かったです。畜産缶詰では、棚3列分をポーク缶で埋めていました。さらに、沖縄県産のポーク缶は、唐辛子で辛く味付けしたものなど、10種類以上置かれていました。

焼いたポークと卵焼きを組み合わせたポーク玉子は、沖縄の食堂の定番メニューです。白米にポークをのせて海苔で巻いたポークおにぎりは、沖縄のコンビニのおにぎりの定番でもあります。ポーク玉子とおにぎりの組み合わせである「ポーたま」は、東京駅につながるバスターミナル東京八重洲でも購入できます。チャンプルーにも入れることがあります。

ちなみに、ポーク缶は厚さが3cm以内のため、レターパックでもおくることができます。

今回は、沖縄県でなぜ、豚肉が多く食べられているかについて話しました。中国文化の影響が強いことが分かりました。また、豚一頭を余す所なく食べ尽くされていることも分かりました。

沖縄県で誕生したブランド肉も存在しており、先日の沖縄旅行でも食べました。沖縄県のブランド肉といえば、みなさんは、何を思い浮かべますか?コメントで教えていただけると嬉しいです。続きは、2月9日の肉の日に記事にします。

参考文献

松島泰勝,(2021) . 歩く・知る・対話する琉球学――歴史・社会・文化を体験しよう .明石書店.


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