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シリーズB資金調達に寄せて:前編 これまでのキーとなった意思決定を振り返る

皆様こんにちは!
テックタッチ株式会社CEOの井無田(@Avalonhill1)です。
2023年1月11日、シリーズBとして17.8億円の資金調達を発表させていただきました。

これを契機に、ありそうであまりない、僕がCEOとしてこれまでにしてきた「いま振り返ると超重要だった意思決定」を中心に振り返ることで、僕がどんな人間なのか、テックタッチがどんな会社なのか、を知っていただきつつ、後編でこれからのテックタッチの目指す世界について述べていきたいと思います。

なお、起業経緯や手がけている事業内容については、こちらのnoteをご覧ください!

プレシード期(18年3月〜19年6月)

重要な意思決定①:市場選択

創業当時、大きく分けて、2つの顧客セグメントを想定していました。
A:大企業(社内システムでの利用)
B:SaaS企業(顧客向けシステムでの利用)
上記の2つは、マーケ/セールス/CSのメソドロジー、必要な製品機能など、全てが異なります。両方を同時に取りに行くのは、シード前のタイミングでは自殺行為でした。どちらかにリソースを集中する必要があった。

当時作成した採点表(の超要約版)

お客様を往復しながら、採点表を作って分析した結果は上記でした。
多くのVCが、まさに表記載の理由で、まずBのSaaS企業を攻めるべし、というアドバイスをしてくれました。まずはlow hanging fruitsを取りに行け、ということですね。

結論、Aの大企業にフォーカスする戦略を採用しました。
投資いただいたVCさんも、Bのフォーカス、とアドバイスしてくれたVCさんは入れず、Aにフォーカスすべきだよね、と言ってくれたVCさんで固めました
TAMが大きいところで勝負しないと、①競合が参入してからでは手遅れになる、②資金調達が苦しくなってくるだろう、というのが判断の主な理由でした。開発も大型化するので資金調達力も求められているし、あまり当時大企業向けに成功しているSaaSがいなかったため、何度も迷いましたが、最終的に大企業へのインタビューなどを通じて、絶対に強いニーズがある、と確信できていたのが心強かったです。

アウトカム
最高の意思決定の一つでした。
開発の大きさ、求められるプロダクト品質の高さも含めて、ローンチ後、トラクションを作るのにとにかく時間がかかった時は焦りました。
が、僕たちがプロダクトローンチをしたほぼ同タイミングの2019年に、Aの市場に外資系競合が参入してきました。Bの市場に別の外資系競合が参入してきたのは2021年です。もしあの時、僕たちがBに参入していたら、ブランドとプロダクト品質(つまり、大きな投資と時間)が求められるAの市場でのシェア獲得は絶望的だったと思います。
この意思決定のおかげで、僕たちの製品領域で圧倒的な国内No.1ポジションを構築できたと共に、素晴らしいお客様に導入いただけています。
ちなみに、2021年、BのSaaSむけの市場へ本格参入しました。このタイミングも絶妙でした。先述の外資系なども参入し始めていましたが、あっという間にトップシェアを取れました。

重要な意思決定②:初期メンバー二十数名に対して、SOではなく普通株を持ってもらったこと

スタートアップのインセンティブ設計として、ストックオプションが一般的です。VCさんからの出資を受ける際、「発行済株式総数の10-15%」などと発行上限を設定します。
僕と共同創業者の日比野はこの比率に違和感を持っていました。1,000人の会社になっても15%なので、一人当たりの持分に換算すると0.015%。創業者の持分と比較すると、圧倒的な差です。
大事な人生の数年間をこの事業にささげる、という同じリスクをとっているにもかかわらず、創業者とそんなに持分が違うのはなぜなのか?

結論、僕たちは通常は創業者しか保有しない普通株を初期メンバーに無償譲渡するスキームを作りました。この意思決定、当時担当していただいてた税理士、会計士、弁護士の先生方など、多くの方に反対されました。
①僕の経験上、モチベーションに影響する、②他社と違うことをしないと、優秀なメンバーが来ないなど、いろんな理由があったのですが、一番はメンバーに対して誠実・対等でいたかったこと、という想いが日比野と僕に共通していたものでした。

アウトカム
どうなのか、まだわかりません。僕の持分が低下したことで、この意思決定が祟ってくる可能性のあるフェーズは、数年後の上場後だからです。
ただ一つ言えるのは、この意思決定をしていなければ、ここまで素晴らしいプロダクトと、ここまで事業を自分ごと化してくれる優秀なメンバー/チームに恵まれることはなかった。これは断言できます。
シード初期は、プロダクトも名前も何もない中で採用しなければならないわけで、発想のユニークさや「新しいスタートアップの在り方を追求したい」という想いを伝えることで、かなり強いメンバーを採用することができた。スタートアップの初期メンバーって、数年経過すると段々新しいメンバーに主役を奪われる、みたいなことをよく聞きますが、僕らでいうと、変わらず主力メンバーとして活躍してくれています。
また、これは副次的な効果ですが、税務上、スキームが成立しなくなるまで普通株譲渡をしていたおかげで、80名を超えるメンバーが在籍する、このフェーズとしては異例の10%以上SOの発行枠が残存しています。特に海外進出するのであれば、ある程度のSOパッケージは必須です。同じフェーズの他社はここからでは絶対に真似できない、当社の採用のファンダメンタルな強さを創っていると思います。

シード〜シリーズA(19年6月〜20年7月)

重要な意思決定③:プロダクトの再設計プロジェクト

大手顧客の導入が相次ぎ、トラクションも出て、PMFの足音を感じていた2020年、共同創業者CTOの日比野から「プロダクトの再設計」の相談を受けました。どうしても私たちの手がけるツールは他社が作ったシステムの上、しかも様々なネットワーク環境やOS、ブラウザで動かさないといけない関係上、動作不具合やデザイン崩れなどを起こす可能性があるもので、想定していたことではありましたが、エンタープライズ品質の担保に非常に苦労していました。そこをアーキテクチャ、並びにプログラムのフレームワークまでも一新することで、一気に品質向上を図りたい、との内容でした。

当時はまだ顧客から要望を受けている機能が山積しており、競合に比べると機能も原始的で、機能開発のスピードを遅らせることへの恐怖が大きい時代。再設計することで全体として開発ロードマップが半年〜一年程度は開発が遅れそうだなと感じていました。外資系競合も日本市場での攻勢を強めており、いろんな観点で焦りを感じていました。

何度も議論しましたが、最終的に、製品品質を高めて、お客様に不具合で迷惑をかけるリスクを極小化することが長期での評価構築に不可欠との判断をしました。日比野や、当社の優秀なエンジニア陣の情熱に折れる形で、「短期的に競争に出遅れたとしても、長期で巻き返せば良い」と自分に言い聞かせながら。とてもとても難しい決断でしたが、機能追加なども両立させながら、ゼロからの次世代バージョンを1年弱で完成させてくれました。

アウトカム
製品品質の劇的な向上
でした。このプロジェクトを早期にやっていなければ、今のエンタープライズのお客様の、これだけの案件数には耐えきれなかったですし、どんどんと再設計の判断が難しくなっていたと思います。

重要な意思決定④:デットでの資金調達

なぜ事業ではなく、資金調達の話?と思ったそこのあなた、資金調達をなめてはいけません。特に初期の資金調達はほとんどがプロダクトの開発資金に充当されます。MVPやPMFまでの改善サイクルの速さにダイレクトに影響する事項なのです。特に僕たちは大企業向けの製品開発をする、と決めていたので、達成すべき品質水準も高かった。

また、どうしても開発資金にエクイティ調達を注ぎ込もうとすると、希薄化が頭をチラついてしまい、心理的に全力投下がしづらい。
シードで調達した1.2億円に加えて、
MRR0時点(プレシード)で、6,000万円程度。
MRR100-200万円時点(シード〜シリーズA)で、+1億円程度。
MRR500万円時点(シリーズA)で、+5億円程度。
この金額をデットで調達できたのは心強かったです。

個人保証が必要なこともありましたが、市場調査の結果が良かったのと、次の資金調達への確信があったので、快諾しました。苦しかった時代にも、CTO日比野に支援物資(投資資金)をうまく届けられたかなと思います!結果として、怯むことなく良いスピード感でプロダクトを創り上げ、今の私たちがあります。

シリーズA〜シリーズB(20年6月〜22年12月)

重要な意思決定⑤:インセンティブ制導入とセールス組織構築

PMFが「来たな!」と感じた瞬間、それは2021年の夏〜秋頃でした。それ以前も、製品としては売れていました。が、お客様のヘルススコアが良くなかった。
これが、20年夏にjoinしてくれたVP of CSの垣畑を中心に、CSチームがハイタッチのコンサルプロセスを導入し、テックタッチを載せる対象システムの課題ヒアリング、KPI設計、コンテンツ実装などのプロセス型化・整備と、システム毎の課題の類型化などを地道に進めてきた成果が上がり始めたのです。結果として、ヘルススコア指標が着実に上がり、遅行して、もともと低かった解約率も更に下がりました。このように顧客の課題解決ができ、顧客からの信頼が厚いチームを構築できたことに誇りと尊敬を持っています。

この状況を受けて、21年秋まで、3名しかいなかった営業チームの大幅拡充を決めます。大企業向けのセールスはMM/SMBとはプレイブックが全く違います。そして、このような大企業向けのセールスノウハウは、現在のところ、スタートアップではなく、外資系SaaSに偏在しています。現在時点では、大企業が利用するシステムは、SAP, Salesforce, Workdayなど、外資系SaaSばかりなのです。なので、外資系SaaSからもjoinしてもらえるような制度設計や営業組織の構築を決めます。Slackのエンタープライズ事業の本部長を勤めていた西野に、22年春、VP of Salesとして参画してもらい、彼のもとで営業チームを組織しました。
少し前までスタートアップでは禁じ手とされてきた(社内での利益相反が起きかねない)、個人の営業インセンティブ制度であるOTEも導入。利益相反リスクについては、自分の数字ばかり追う人は採用しないよう、採用でコントロールするようにしました。西野も含めて、チームや会社全体のことを考えてくれる、素晴らしいメンバーが集まってきています。

アウトカム
joinから1年経過し、西野率いるセールスチームは競合を圧倒。市場を席巻してくれており、DAP市場では2年連続No.1シェアの評価を不動のもの
としています。

重要な意思決定⑥:市場多角化

起業当初は大企業向けの市場のみ手がけてきた当社ですが、CFO/事業開発VPの中出主導で、2021年にはSaaS市場にも参入、程なくして公共セクター市場にも参入(参入というかプレイヤーが僕たちしかいないので、セクター創造に近いですが)し、専任チームを立ち上げました。この時点での参入タイミングには僕もリソース分散させていいのか、と悩みましたし、社内でも多少混乱や議論が起きましたが、タイミングとしてはこれが大正解。

SaaS市場は、先述の通り、21年には外資系含めた競合が参入していましたので、もう1年遅れていたら間に合わなかったと感じます。2023年になると、2018年当時とは違い、SaaSのスタートアップも非常に裾野が広いですし、ASP/パッケージと言われて時代からの歴戦の会社さんも、webへの移行が進んでいます。当時とは市場環境が見違えており、これから非常に楽しみだと思っています。日経さんの記事にも取り上げていただいたとおり、OEMなどの事業拡大を目的とした資本業務提携なども今後実施していきます。

公共セクターは、1年ちょっとで、中央省庁、政令指定都市含めた複数自治体さんに導入していただきました。素晴らしい成果です。どうしても時間がかかる領域ではあるのですが、日本のDXど真ん中でもあり、ここにしっかり腰を据えて向き合っていきたいと思います。

アウトカム
しっかりとリーンなチームで数字を積み上げることができ、次のエンジンとして早期稼働。大企業だけでない、複数の市場の広がりを感じられたことは、シリーズBで投資家から高い評価をもらった理由の一つ
です。
新規市場の開拓と、その中で成長させていくことには時間がかかります。それを見越しながら、先行投資をしつつ、将来的なTAMを拡大させていくことの重要さを勉強させられた意思決定でした。

シリーズB〜未来へ!(23年1月〜)

シリーズBで、非常に多くの投資をいただき、また、これまでの旅で多くの素晴らしい仲間と、多くの素晴らしい事業資産を手に入れることができました。

今後の計画として考えていることは後編で詳細に述べたいと思いますが、これからも色んな意思決定があると思います。ぜひそれらに関わりたい、自分がその意思決定をしたい、と思っている方、お待ちしております。
一緒に日本のDX、日本のスタートアップシーン、日本の未来を切り拓きましょう!
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*今日は趣旨の都合で成功だった意思決定ばかり記載していますが、失敗ももちろんたくさんしています。どこかでそれについても書きたいと思います!

後編記事、シリーズB資金調達に寄せて:後編 テックタッチの現在地と4つの新たな挑戦 もよろしくお願いします!!

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*個人的にはスタートアップに最もノウハウ・知見がに領域がエンタープライズ領域営業だと思っています。そこのノウハウを惜しみなく注ぎ込んだ渾身の一作(連作なので2作)です。かなり勉強になりますので2作合わせてどうぞ!

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