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ウェアラブルデバイス × well-being/QOL研究事例を斜め読み

 閲覧ありがとうございます。データサイエンティストの杉尾です。主にデジタルバイオマーカーの開発プラットフォームである(SelfBase)の機能開発や、そこで収集されたデータの解析を担当しております。

 今回は、ウェアラブルデバイスで「well-being/QOL」の定量化に着目し、ピックした事例などを整理させていただきたいと思います。これからそれらの研究や実証実験を進めていきたいと考えていらっしゃる方々の助けになれば幸いです。


1. 「well-being/QOL」が重要視される背景

 健康長寿社会になる中、身体的だけではなく、精神的にも豊かに生きることが大切な時代になっています。医療技術の発展から、身体的な疾患を治療することができ、寿命を大きく伸ばすことができている一方で、複雑化する社会構造からか、ストレスなどの精神的負荷も大きくなり、「well-being/QOL」を豊かに生きていくことが、大事な価値観の一つになっていると思います。
 また、センサー技術などの発展から、数々の機器が小型化しており、
弊社でも多く扱っているウェアラブルデバイス、技術革新の影響を受けた一つです。ウェアラブルデバイスを利用することにより、心拍や活動量データが簡単に高頻度で収集できることが当たり前になった今、個人レベルでの健康管理から、それらを社会的な価値に変えていく動きが本格化してきていると思います。
 そのような背景から、「well-being/QOL」に着目した取り組みや研究が、今日までに多く実施されてきています。しかし、それらの知見はまだまだ一般的ではなく、体系化もされていません。

2. どのようなデータを取ればよいのか

例)well-being

 例えばwell-beingは、質問紙を介して定量化します。身体状態を説明するデータは、心拍のゆらぎから表現される自律神経活動データを利用することが多いです。また、抽象的なwell-beingを分析するために、可能な限り信頼性が高いデータを高頻度に取得することが重要です。さらに、可能な限りそれらデータのコンテキストや背景情報を収集することも非常に重要です。例えば、「感情」や「心配事」なども同時に取得できていると、定量的なデータの説得性を上げることができます。

 そして、それらのデータは、弊社で多くの取り組みを実施している「デジタルバイオマーカー」に関する研究にも活用されています。過去にそれらの関連性をまとめた記事もありますので、読んでいただけると嬉しいです。

3. 事例

 ここからは、well-being/QOLを対象に、ウェアラブルデバイスが活用された研究や事例を整理していきたいと思います。

事例1:ウェアラブルデバイス + スマートフォンのデータで「well-being」を評価する

 「well-being」は、質問紙などのスコア指標と合わせて、ウェアラブルデータの心拍・加速度データを加工したデータを利用し、評価されることが多いです。この研究では、さらにスマートフォンのログデータ(ゲームやアプリの起動ログ、メッセージ送受信時間など)を利用し、「well-being」の状態を機械学習モデルで予測する研究を実施しています。
 この研究では、3つの質問紙の指標を対象にしており、それぞれで予測に寄与した上位の変数に違いが確認できました。気温などの環境特徴が大きく影響するもの、生体データなどに基づく身体的特徴が影響するもの、など指標によって異なる示唆を得ることができています。

図1. 事例1の研究フレームワーク [1]

事例2:ウェアラブルデバイス + ワークスタイルに基づくデータにより、うつ病・ストレスを予測する

 次は、塩野義製薬によるワークスタイルを持つ人のデータを利用し、個別に最適化されたストレス予測の研究です。ウェアラブルデバイス、活動アンケート、従業員の出退勤記録などのデータを入力とし、次週のストレス状態を予測しています。対象従業員192名から収集したデータを用いて評価した結果、精度は68%,再現率は59%,ROC-AUCは0.85を達成するなど、一定の基準を超える予測精度が出て、ウェアラブルデバイスに基づくデータからストレスを予測する実現可能性が示唆されています。

 弊社でも、同じように、教師データを収集し、ウェアラブルデバイスのデータを特徴量に機械学習アルゴリズムを構築した研究実績があります。このような取り組みを進めたい場合、ぜひお問合せください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2023/0/JSAI2023_3M1GS1005/_pdf/-char/ja

事例3:ウェアラブル × 生活記録データで高齢者のQOL改善の研究

 高齢者の増加に伴う見守りサービスの開発を背景に、高齢者の健康状態の予測を試みた研究事例があります。
 この研究では、複数の高齢者家庭を対象に1ヶ月間の生活行動データと生体データ(fitbitの心拍データ)、さらに自己評価による朝と夜の健康状態のアンケートを収集し利用しています。特に生体データは、心拍データを分散やローレンツプロット(図2)の値に加工し、可視化や機械学習アルゴリズムを用いて、健康状態の推定を行っています。機械学習で健康状態を予測するだけではなく、ローレンツプロットによる可視化により、健康状態の可視化にも取り組んでいるその示唆が興味深い研究です。

 弊社でも、このようなローレンツプロットを活用した研究も可能です。私自身も大学病院の研究で研究室のメンバーとローレンツプロットを活用した分析を行っていました。興味があればお問合せください。

図2. 事例3のローレンツプロット計算方法例 [3]
図3. 事例3のアンケート収集方法例 [3]

https://ubi-naist.github.io/paper/IPSJ/202107_DICOMO_matsumoto_elderyQoL.pdf

事例4:ウェアラブル × 介護従事者

 事例3のような高齢者を対象とした研究がある一方で、介護従事者の業務負担軽減のための心身状態の可視化と分析も進められています。
 介護従事者の心拍変動のデータと業務前・昼休憩・業務後のアンケートに基づく主観的ストレス指標を分析し、心身への負荷を伴う介護行動を特定し、業務改善を実施しようと試みた研究です(図4)。実験方法などが細かく設計された論文であり、実際に実証実験を行う際も非常に参考になる研究です。介護行動を具体的に整理し、その行動の前後で、ウェアラブルデータによる定量指標の比較ができるようにデザインされています(図5)。定量的な指標は、心拍データを加工し作成したローレンツプロットやLFHF比を利用しています。

図4. 事例4の実験の流れ [4]
図5. 事例4の介護行動の分類 [4]

https://ubi-naist.github.io/paper/IPSJ/202107_DICOMO_miyaji_caregiverMental.pdf

事例5:ウェアラブル × 温泉

 ウェアラブルデバイスの普及により、日常的な入浴行為がデータの発信源となり得る可能性に着目した研究もあります。
 この研究では、ウェアラブルデバイスを用いた入浴時の脈拍数変化測定をしています。

具体的な手順は、
①温泉施設に入場し、着衣時に安静な状態で脈拍数を測定する(入浴前)
②全身浴を開始して約2分後に脈拍数を測定する(入浴中)
③浴槽から上がり、着衣して約2分後に安静な状態で脈拍数を測定する(入浴後)

これら一連の行動を各温泉施設で同様の手順を繰り返し、入浴前後の脈拍データを解析しています。結果としては、入浴により脈拍の標準偏差の減少が確認できるなど、自律神経系への影響が確認できています。

図6. 事例5のフレームワーク [5]

http://www.j-hss.org/journal/back_number/vol70_pdf/vol70no4_233_245.pdf

4. 最後に

 「well-being/QOL」を対象にした研究や実験の取り組みにおいて、ウェアラブルデバイスによって取得した生体データを活用している事例は年々多くなっているように感じます。

 弊社では、多くのウェアラブルデバイス・医療機器を扱い、データの取得・分析を実施しています。さらに、臨床試験のデジタル化、バイオマーカーの開発、well-beingやQOLの改善に向けたデータ収集・分析基盤をご用意しております。少しでもご興味を持っていただいた方は、お気軽にご連絡ください。

5. 参考文献

[1] Yao, Wenhao, Kohei Kaminishi, Naoki Yamamoto, Takashi Hamatani, Yuki Yamada, Takahiro Kawada, Satoshi Hiyama, et al. 2022. “Passive Way of Measuring QOL/Well-Being Levels Using Smartphone Log.” Frontiers in Digital Health 4 (March): 780566.
[2] 岩本 洋紀, 田島 遼太郎, 中野 紗希, 木口 亮, 北西 由武, 勤怠データとウェアラブルデバイスを用いた個別最適モデルによる労働者のストレス予測, 人工知能学会全国大会論文集, 2023, JSAI2023 巻, 第37回 (2023), セッションID 3M1-GS-10-05, p. 3M1GS1005, 公開日 2023/07/10, Online ISSN 2758-7347
[3] 松本敢大, et al. 高齢者の QoL 向上に向けた生活行動データと心拍情報を使った健康状態予測. マルチメディア, 分散協調とモバイルシンポジウム 2021 論文集, 2021, 2021.1: 517-523.
[4] 宮地, 篤士, 松井 智一 張 志華, 藤本 まなと, 安本 慶一, 介護士の業務負担軽減に向けた介護行動時における心身状態の変化の可視化と分析, 分散協調とモバイルシンポジウム2021論文集, 2021-06-23
[5] 斉藤 雅樹, 早坂 信哉, 亀田 佐知子, 佐藤 栄介, 壽福 良平, 坂上 憲光, 北出 恭子, ウェアラブルデバイスの温泉研究への適用, 温泉科学 = Journal of hot spring sciences = Journal of the Balneological Society of Japan, 日本温泉科学会, 2021-03

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