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今だからこそ抑えたい社員のメンタルヘルスリスクマネジメント(対応編)

 休業要請がStep3に移行し、出社を再開する企業も見られるようになり、日常を取り戻しつつあるようにも見えます。その一方、ワクチンが完成しないなか感染者は増えており、確実な見通しはなく、自己責任に委ねられている状況と言えるでしょう。今回は、withコロナのフェーズのマネジメントに役立つ予防と対策についてお話します。

感染症予防も大事、だけど心の病の予防も大事

 マスク着用・リモートワーク・3密回避等、新型コロナウィルス感染症予防をしているように、人は身体の健康面で予防策を講じます。心の健康のための予防はどうでしょうか?日本では心の病を予防する意識が低く、病気や不調が生じてからの対策になりがちです。しかし、2008年の調査によると、精神疾患罹患による家庭・職場での生産性低下による損失は1年で6兆円に上り、2011年には精神疾患が癌・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病と並ぶ五大疾病に認定されています。身体面での防ばかりを意識しがちですが、心の病の予防も重要課題だと言えます。

メンタルヘルスの3つの予防

 身体面に比べて個人差があり難しそうな心の不調の予防ですが、メンタルヘルスリスクマネジメントでの予防法には3段階あります

予防の種類

予防と言うと、2次予防にあたるものを思い浮かべがちですが、未然に防ぐという意味で一次予防が重要です。不調に気づいた人にアプローチするのでは一歩遅いのです。誰しもが不安定になりがちな今、全体的にメンタルヘルスケア・セルフマネジメントの意識とスキル向上を目的として、取り組んでみてはいかがでしょうか。

一次予防で押さえるべきポイントは?

 その一次予防の実践にはガイドラインがあります。科学的根拠に基づき開発された一次予防のガイドラインでは、職場環境の評価と改善について4つの観点から押さえるべき11のポイントに整理され、推奨される方針に言及しています。

一次予防ガイドライン

withコロナで始める一次予防の在り方

 ガイドラインを参考にwithコロナの状況下で、具体的にどんな一次予防が始められるでしょうか。現状を絡めて領域ごとの取り組みをご提案します。

計画・組織づくり
 問題指摘を避け、問題解決に取り組むことが推奨されています。新型コロナウィルス拡大下の調査・研究によれば、リモートワークこそ社員の自律性を促すマネジメントが重要なことが明らかになっています。仕事をしている姿が見えないために、管理職は管理・統制の意識が強く持ちがちですが、仕事の全体像・責任・成果が明確になる職務設計によりセルフマネジメントを促すことが生産的であるとわかっています。メンタルヘルスの一次予防の取り組みについて考えるときも、管理職が取り組みの重要性を周知し、公募によりプロジェクトメンバーを募集し、能動性・主体性を持てる働きかけをするといいかもしれません。

実施手順の基本ルール
 良い事例を参考に改善策を立てることが推奨されています。自粛期間中に社内で公式・非公式に行われていた社員間のコミュニケーションや仕事上のサポーティブな取り組みがあったかもしれません。前回触れたように、いい取り組みを集約・評価してシステムに組み込み、新しい当たり前として制度化していくとよいかもしれません。

実効性のある運用プログラム
 労働条件・職場環境の同時改善が押さえるべきポイントとされています。今の状況で言うと、勤務形態の再検討が大きなテーマとなるのではないでしょうか。本来なら来月に控えていたはずの東京オリンピックでリモートワークが必要になる見通しでしたが、それが思いがけずして前倒しになった状況と言えるかもしれません。このまま収束するとすれば来年オリンピックが開催されて再びリモートワークが必要になります。出社に戻るべきか、リモートワークを続行するか、柔軟に働き方が選べるようにするか、時差出勤やフレックス制度と掛け合わせて補うか、これまでの当たり前だった働き方を問い直す岐路にあるのかもしれません。労働条件・職場環境の改善・向上のチャンスにもなりうるでしょう。

フォローアップの仕組みと評価
 ストレスチェックなどを参考に進めることもできますが、不足している情報も多く、一年に一度ではPDCAサイクルの迅速さに欠けます。テクノロジーを活用したサービスの活用もお勧めです。弊社「SelfDoc.」では、ストレス指標のひとつである自律神経のバランス等のフィジカルデータが毎日ウェアラブルデバイスから取得されて蓄積し、組織全体で確認できます。withコロナの時代に合ったヘルステックサービスとして、心の問題の予防に寄与できるものと考えています。

すでに不調者が出ているなら 

 既に不調者の対応にお悩みのこともあるかもしれません。もし大きな心理・社会的問題が発生しているならば、医師や心理師による治療・支援に委ねることが適切でしょう。同じ職場の社員としてできることはそれまでのサポーティブなかかわりです。
 ケアには4つの種類があります。①セルフケア②ラインケア③事業場内産業保健スタッフ等によるケア④事業場外資源によるケアです。ラインケアとは、企業の管理監督者によるケアで、相談対応や職場改善・労働環境調整が相当します。管理職の皆様が社員の心身の問題を一手に引き受けようとせず、4つのラインで考えていただくとよいと思われます。管理職の皆様自身のセルフケアもとても大切なことです。

TechDoctorは伴走者になります

 まだまだ落ち着かないこの状況下で、管理職の皆様はいろいろなことに思いを巡らせ難しい判断をしなければならないこともあるかもしれません。社員のマネジメントを行う管理職の皆様のサポートとしても、引き続き情報発信を続けて参りたいと思います。

【出典】

藤澤理恵(2020)「テレワークがあぶりだすマネジャー依存の限界と、自律・協働志向組織への転換」リクルートマネジメントソリューションズ
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000851/(2020/6/16最終閲覧)
学校法人慶応義塾(2011)「精神疾患の社会的コストの推計」事業実績報告書
厚生労働省「医療計画」みんなのメンタルヘルス
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/nation/iryou_keikaku.html(2020/6/16最終閲覧)
東京産業保健総合支援センター(2011)「職場のメンタルヘルス対策~段階的予防の観点から~」
https://www.tokyos.johas.go.jp/pdf/chousa/23tool%20(5).pdf(2020/6/16最終閲覧)
吉川徹・吉川悦子・土屋政雄・小林由香・島津明人・堤明純・小田切優子・小木和孝・川上憲人(2013)「科学的根拠に基づいた職場のメンタルヘルスの第一次予防のガイドライン 職場のメンタルヘルスのための職場環境改善の評価と改善に関するガイドライン」『産業ストレス研究』20号P135-145


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