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アスリートのメンタリティを通して考える企業のメンタルヘルス

 こんにちは。TechDoctor社内心理士(師)です。
 緊急事態宣言中の五輪開催となりましたが、皆さんお家で観戦されていますでしょうか?メダル獲得も相次ぎ、感動を呼ぶ一方、アスリートの報道としては、テニス日本代表の大坂なおみ選手や体操アメリカ代表のシモーン・バイルス選手が精神的ストレスを理由に試合を棄権する報道がありました。
 これまであまり公に語られることのなかったアスリートのメンタルヘルス問題から企業の健康経営について考えてみたいと思います。

アスリートのメンタリティ

アスリートは厳しい競技生活を維持・継続していくのに不都合な感情・欲求・思いを意識に上らないように抑圧する心理的メカニズム(防衛機制)が働きやすいと考えられています。オリンピック選手の立場を考えると、逃げ出したい気持ちや競争相手へ妬み嫉み、コーチへの不満や期待に応えられないかもしれない不安を抱いて無理もないように思いますが、後ろ向きな感情は認めがたいものとして無意識に追いやられることが多いということです。
心の問題を自分で解決できなければ十分な技量がないとみなされるスポーツ界の風潮が防衛機制を助長すると考えられます。カウンセリングを受けたり精神科や心療内科を受診したりすることを、アスリート自身が、弱い心を認めることと捉える場合も少なくないようです。

ネガティブさの否認によるメンタルヘルスのリスク

極端に本音を押し殺し弱音を吐けず、自分を律してストイックに頑張り続けることは、精神的な不調に陥る危険性があります。実際に心の問題が表れることが研究で明らかにされており、水泳カナダ代表候補者の68%が代表選手に選ばれるまでの 3 年間で鬱的状態になっていることや、トップアスリートは一般の人と比べて摂食障害の有病率が約 3 倍高いことなどがわかっています。

周囲の評価がメンタルヘルスに及ぼす影響

トップアスリートの競技生活とスポンサー契約は切り離せないものとなっています。飲料水等の広告の顔となったり健全なイメージを維持したりするのも仕事のひとつとも言える状況で、アスリート自身、報道やSNSのコメントに無関心ではいられません。しかしながら、SNSでポジティブなコメントのほうが実際には多かったとしてもネガティブなものの方が印象に残ってしまうのです。なぜなら、人間は元来、ネガティブな出来事のほうが印象に残りやすい認知的・心理的傾向であるネガティビティバイアスを持っているからですストイックで妥協を許さない完璧主義的な性格であれば、その傾向は強まると思われます。

アスリートのメンタリティから考える企業のメンタルヘルス

アスリートのメンタルヘルスについて語ってきましたが、社会人であれば他人事ではないと思うのです。あなたの職場に、忍耐強くポジティブであることを望ましいとする雰囲気はないでしょうか?カウンセラーとしてお話を聞いてきたなかで、営業やコンサルの職種ではタフであることが望まれ、自他ともに他の社員と比較しがちな環境にあり、弱みを受け止められない雰囲気があるように感じます。また、自身の職場経験からしても、忙しい開発環境で働くエンジニアや常に人手不足な対人援助職にも共通する部分があるのではないかと感じます。例に挙げたような、タフさやポジティブさを望ましく感じがちな職場では、努力家でストイックな従業員のメンタルヘルスの健康リスクが高まる可能性が考えられます。

努力家な社員のメンタル不調を予防するには

スポーツ心理学者のペリーは、「批判されるんじゃないかと心配したりすることなく居心地のいい状態でいられれば、優れたパフォーマンスを発揮できる可能性が高まる」と言います。
批判される心配のない居心地がいい職場づくりには、評価軸がタフさやポジティブさに偏重しないように気をつけることが重要と思われます。社員へのフィードバック時には、ネガティビティバイアスにも注意して、客観的な事実や数値を用い、他者比較だけでなく社員本人のなかでの相対的な変化も含めて評価し、成長したことや努力していることと併せて今後の改善点を伝えるとよいかと思います。
また、上司の普段の言動は職場の雰囲気に大きく影響します。ストイックで優秀と見られている上司が失敗やミスを語るなどして自己開示することは、従業員が失敗してもなんとかやり遂げることができると思える前向きな安心感につながるかもしれません。


昨今のアスリートのメンタルヘルスについての問題提起は、メンタルヘルスの考え方の社会的なターニングポイントになるように思います。アスリートのメンタル不調を理由とした棄権についての話題をきっかけに、思い当たるご自身の体験を自己開示することなどから、悩みを相談しやすい雰囲気づくりを始めてみてはいかがでしょうか?

弊社㈱TechDoctorではTechDoctorではウェアラブルデバイスのデータを活用した様々な取り組みや研究を行っています。ご興味ある方は是非お気軽にご連絡下さい。https://www.technology-doctor.com/


出典

湯地義哲・鈴木正泰手の全仏棄権で、選手の「心の健康」に注目集まる メディアや団体のあり方も".BBC NEWS Japan.2021-06-06
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-57370823
"オリンピック選手の猛烈なプレッシャーと、自身のメンタルヘルスについて語ることの意味".WIRED.2021-08-01
https://wired.jp/2021/08/01/simone-biles-olympic-pressure/






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